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注意が必要な打撲を知っておこう

2023.02.28

注意が必要な打撲を知っておこう | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 いよいよ春のシーズンが近づいてきましたね。週末からは練習試合を実施していくチームも多いのではないでしょうか。実践練習が増えるにしたがって気をつけたいのがデッドボールを始めとするアクシデントによるケガ(急性外傷)です。野球では選手同士のぶつかり合いによる打撲は比較的少ないとされていますが、デッドボールや打球による打撲などは試合やバッティング練習等でよく見られるものです。今回はこのような打撲に対する初期対応と、そして特に注意が必要な打撲について、お話をしていきたいと思います。

デッドボールや打球による打撲への初期対応

注意が必要な打撲を知っておこう | 高校野球ドットコム
冷却スプレーは痛みに対する一時的な対応であり、プレー後は患部を氷などで冷やすようにしよう

 デッドボールはピッチャーの投球ミスから起こる突発的なケガです。ユニフォームをかすめた程度の軽症のものから、立ち上がれないほどの重症のものまであり、特に頭頸部、顔面付近へのデッドボールは迅速な対応が必要となります(詳細は後述します)。

 デッドボールの場合、ボールが当たった選手は「プレーができるか、できないか」をまず判断しなければなりません。受傷直後にさほど強い痛みを感じなかったり、動きに支障がなかったりする場合は、そのままプレーを続行することになりますが、その際にもランナーとしてベースランニングができるかどうかを確認する必要があります。特に足部や膝、太ももといった下半身にボールが当たった場合、走塁中にだんだんと痛みが増してくることがありますので、あわてずタイムをとり、患部をゆっくり動かして判断するようにします(場合によっては臨時代走を起用すること)。自力歩行が困難であったり、体重をかけると痛みによって動きづらさが残ったりする場合は選手交代し、すみやかに患部を氷などで冷却するようにしましょう。

 デッドボールや打球が投手を直撃するようなシーンでは、ランナーコーチやベンチから選手が駆け寄って患部に冷却スプレーを吹きかけているところをよく見かけます。これは痛みの感覚を一時的に軽減させるために用いられるものであり、患部の炎症を抑える冷却効果はあまり期待できません。打撲後にプレーを続行した場合であっても、試合後には必ず患部を冷却して炎症がひろがることを抑えるようにしましょう。また打撲によって明らかな変形や激しい痛み、広範囲に及ぶ腫れや熱感が見られる場合は骨折の疑いがあります。プレーを中止し、患部を冷却しながら動かないように固定をして、すみやかに医療機関を受診するようにしましょう。

[page_break:特に気をつけたい打撲への対応(頭頸部・顔面)/胸部打撲と心臓震盪(しんぞうしんとう)]

特に気をつけたい打撲への対応(頭頸部・顔面)

注意が必要な打撲を知っておこう | 高校野球ドットコム
胸部打撲への対応に備えてAEDの設置場所はあらかじめ確認しておこう

 頭頸部付近にボールが当たった場合は意識の確認を行い、必ずいったんプレーから離れるようにします。「今、何をしていたのか」「今日は何月何日か」といった状況の説明がうまくできない場合や、ふらつき感が残る、気分が悪い、頭が重い・痛い等の症状がみられる場合は脳振盪(のうしんとう)を起こしている可能性がありますので、すみやかに脳外科医の診察を受けるようにします。頭頸部への激しい打撲があった場合は明らかな症状がみられなくても、向こう24時間は安静にしておくこと、また一人ではなく必ず誰かが状況を確認できる体制をとるようにします(参考ページ:脳振盪を理解しよう)。

 顔面付近にボールが当たった場合は出血や変形の有無を確認し、すぐに医療機関(できれば形成外科のある総合病院)を受診するようにしましょう。顔面の中でも鼻骨、頬骨(頬の出っ張ったところ)、眼窩(目の下)付近は骨折をしやすい部位であり、骨折の程度によっては手術が必要な場合もあります(鼻血の出血量が多い場合は鼻骨骨折しているケースが多い)。歯にボールが当たって抜けてしまったり、欠けてしまったりした場合などはすみやかに救急対応の可能な歯科医、もしくは口腔外科を受診します。抜け落ちた歯の破片は時間が経つにつれてうまく適合できなくなりますので、30分以内を目安に受診するようにしましょう。歯は乾燥に弱いため、破片を流水で軽く洗った後、口の中に入れた状態で(誤飲に注意)唾液で保存しながら歯科医へ行くと適合率が高くなると言われています。誤飲が心配な場合は唾液にひたした状態でラップにくるんだり、生理食塩水や牛乳が手元にあれば、これらにつけた状態ですぐに歯科医に行きましょう。

胸部打撲と心臓震盪(しんぞうしんとう)

 胸部への打撲はデッドボールよりも守備側の野手に直接打球が当たることが多く、当たった場所やタイミング、強度などによっては心臓震盪を引き起こすことがあります。心臓振盪とは胸部付近への強い衝撃によって、心臓が突然停止してしまうこ状態です。ライナー性の打球だけではなく、イレギュラーバウンドが胸に当たるといった、一見強い衝撃に見えないものであっても当たった場所(心臓の真上)や当たったタイミング(心電図上である決まった位置)によって起こることがあるため、胸部付近への打撲が発生したときはすぐに対応する必要があります。

 選手が胸部付近に衝撃を受け、その場に倒れ込んでしまったらまず状況を確認し、反応と正常な呼吸が無ければ119番通報とAEDの手配を頼んで、直ちに心肺蘇生法(CPR)を開始します。胸骨圧迫を行い、並行してAEDを準備してすぐに除細動を行います。救急車を要請してから現場に到着するまでの平均時間は9.4分(令和3年)であり、心停止から脳死状態にいたるまでの時間(およそ3分)を考えると「すぐに救命措置を行う」ことが求められます。決して頻度の高いものではありませんが、いざという時のためにもグランドや試合会場のどこにAEDが設置されているかを前もって確認しておくこと、そしてCPRの手順についても理解しておくことが大切です(参考ページ:運動中のアクシデントに注意!心臓震盪を理解しよう)。

【注意が必要な打撲を知っておこう】
●デッドボールなどの打撲(急性外傷)の初期対応は患部を氷などで冷却し、炎症をおさえること
●冷却スプレーは痛みの感覚を一時的に軽減させるためのもの
●頭頸部への打撲では一度プレーから外れて、脳振盪を起こしていないかを確認する
●脳振盪の疑いや、気分が優れない場合はすみやかに医療機関を受診する
●顔面への打撲の場合は形成外科のある総合病院へ、歯を損傷した場合は救急対応可能な歯科医へ
●胸部への打撲は心臓震盪を引き起こすことがある。あらかじめAEDの設置場所やCPRの手順などを把握しておこう

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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