野球に必要な足の速さとは
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
「スポーツの秋」と言われるように、体を動かすには過ごしやすい日々が続いていますね。部活動の制限がある学校も少なくない中、それぞれができることを行いながら野球の練習や試合に励んでいることと思います。引き続き体調管理に気を配りながら、元気にプレーしていきましょう。さて今回は「足の速さは一つの武器」ともなりうる、野球に必要な足の速さについて考えてみたいと思います。
野球のプレーでは比較的短い距離を速く走る能力が求められます。塁間の距離がおよそ27.3m、ランニングホームランなどを想定したベースランニング一周はおよそ110mになります。短い距離で大きなパワーを発揮するためには、自体重を支える筋力を強化することと、安定したロスの少ないランニングフォームを習得することが必要不可欠です。野球において必要な足の速さはどのように培われるのでしょうか。
大きな力を生み出すパワーを身につける
走力を高めるためには下半身の筋力強化が必要
まず必要になるのが自体重を素早く動かすために必要な筋力とスピードです。一瞬で大きな力を生み出すパワーは筋力(力)とスピードを掛けあわせることで大きくなります。筋肉をつけると体が重くなると感じる選手がいるかもしれませんが、筋肉が動作の土台を支えているため、重くなった体を動かすだけに必要な筋力を養うことが求められます。筋力の低い状態では大きな出力は見込めず、体は軽く感じるけどスピードアップにはつながりにくいと言えるでしょう。
筋力を強化するとともに取り組みたいのがスピード強化です。同じ負荷を扱ってトレーニングをする際に、スピードを意識して行うことも必要となってきます。まず基本的な筋力を向上させた上で、このようなスピードを重視したトレーニングも行っていくようにしましょう。
「回転数」×「歩幅」を意識する
次にランニングフォームについて考えてみましょう。
速く走るためには足の回転数を増やすことと、一歩の歩幅(ストライド)を伸ばすことが必要であり、これを掛けあわせていくことでより速く走ることができます。足の回転を多くするためにはなるべくロスの少ない動きをすることが求められますが、地面を後方に蹴って走ってしまうと「力感はあるのにスピードがでない」といったことが起こります。足の回転数を上げるためには、空き缶をつぶすように地面を踏んでその足をすばやく上げるようにすること。腿が挙がった状態から地面に足を接地するときに地面の反力を体に伝えていくことが大切です。足を後方に蹴ってしまう走り方はより大きな弧を描くことになり、その分時間がかかって回転数は減ってしまいます。
歩幅を広げるための意識として、足を前方に投げ出すようにして踵から着地する動作を続けていると、太もも裏側のハムストリングスなどを傷めてしまいがちです。どちらかといえば重心の真下に足が接地するようにして、股関節の柔軟性を高めながら歩幅を伸ばしていくようにしましょう。
低い姿勢をなるべく長く保つ
重心を低く保ち、前傾姿勢でスタートダッシュを行おう
盗塁のシーンを思い出すと、スタート時には体が前に傾き、低い姿勢でダッシュを始めていることがわかります。時間の経過とともに上体は起きてくるのですが、低い体勢をなるべく長く保つようにすると、空気抵抗の影響をより少なくし、推進力を維持することができます。ただし背中を丸めて上体を倒すのではなく、股関節の屈曲などを利用して重心を低く保つことが大切です。前傾姿勢によって体が前のめりにならないよう足が自然と出るようになり、着地したところに重心を移動させるようにすると自然と足の回転速度も上がって、スピードアップが見込めます。
上体をリラックスさせて腕を振る
しっかりと腕を振ることは推進力につながります。この時に肩に力が入ってしまうと上体にまで力が入ってしまうので、肩関節を支点として腕を引く動作を意識しながら振り子のようにスイングさせてみましょう。手はこぶしを硬く握ってしまうと余分な力が入ってしまいやすいので、軽く握るようにします。
またランニングフォームを見ると、肩が前後や左右に揺れている選手を見かけることがあります。腕を振ることはスピードアップに必要不可欠な動作ですが、過度に上体に力が入ってしまうと腕の振りも鈍くなり、上体を振りながら走ってしまうことになります。このような走り方は力をロスしながら何とか速く走ろうとしている「ブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいる状態」と言えるでしょう。ブレーキを外すためには余計な力はなるべく入れずに上体をリラックスさせ、体の軸をぶらすことなく走るようにしてみましょう。
速く走りたいと考える野球選手は多いと思います。今の自分のコンディションやランニングフォームなどを確認しながら、自分に必要なものにしっかりと取り組んでみてくださいね。
【野球に必要な足の速さとは】
●パワーを生み出すための筋力とスピードを強化する
●ランニングでは足の「回転数」と「歩幅」を意識する
●着地時は空き缶を踏みつぶすように地面を踏み、地面の反力を体に伝える
●スタートでは重心を低く、前傾姿勢をなるべく長く保つ
●腕の振りは推進力につながる。後方に引くことを意識しよう
●上体に力が入りすぎると力のロスに。上体をリラックスさせて走ろう
(文=西村 典子)