Interview

技巧派から144キロ左腕へ一変。林優樹(近江-西濃運輸)を覚醒させた「我慢の1年」【前編】

2021.03.19

 今年、アマチュア野球ファンの間で密かに話題になっているのが西濃運輸・林 優樹の急成長だ。近江のエースとして甲子園に3度出場した林。侍ジャパンU-18代表にも選ばれるなど、高校野球界を代表する技巧派左腕として活躍した。

 一昨年にプロ志望届を提出したが、NPB球団からの指名はなく、社会人の名門・西濃運輸に入社。ルーキーイヤーの昨年は左肘を痛めた影響で実戦登板はなく、体作りに専念していた。

 今年は対外試合での登板を果たすと、デビュー戦で自己最速を7キロ更新する144キロをマーク。その後の登板でも安定して140キロ台を計測しており、高校時代から明らかにスケールアップした姿を見せている。そんな林の進化の軌跡に迫る。

63キロから70キロへ増量に成功

技巧派から144キロ左腕へ一変。林優樹(近江-西濃運輸)を覚醒させた「我慢の1年」【前編】 | 高校野球ドットコム
林優樹(近江-西濃運輸)

 技巧派左腕のイメージから一変する成長に、西濃運輸の首脳陣の評価が高い。
 高橋 朋己野田 昇吾(ともに元西武)らを指導した実績のある林教雄監督が「高卒2年目の段階でこのレベルのピッチャーは初めてですね」と絶賛する。

 

 高卒でのプロ入りが叶わなかった林が名門社会人チーム・西濃運輸に選んだ理由は、ある指導者の存在があったからだという。

 「プロに行くにあたって一番の近道だと思いましたし、ピッチングコーチの佐伯 尚治さんの下で野球をやりたいと思ったので、西濃運輸で野球をすると決めました」

 佐伯コーチは2014年に都市対抗野球で西濃運輸が優勝した時のエースで、最優秀選手賞にあたる橋戸賞を受賞した伝説の投手。日本一を経験した投手に指導を受けるために西濃運輸入りを決めたのだった。

 佐伯コーチの育成プランとしては体作りと並行しながら、夏頃から徐々に実戦で投げていくというものだった。しかし、入社間もない時期に左肘に違和感が出たこともあり、1年目は体作りに専念することになる。

 まず、取り組んだのは体重の増加だ。入社当時の体重は63キロしかなく、体を大きくすることは目に見えてわかる課題だった。佐伯コーチは「増えなかったらキャッチボールさせないからな」などと林にプレッシャーをかけることで、増量を促した。林は練習の合間におにぎりやプロテインを摂取するなど地道な努力を重ね、70キロまで体重を増やすことに成功。高校時代とは比べ物にならない肉体を手に入れた。

 「最初は凄く動きにくい感覚がありましたが、練習していくうちに慣れてきました」と大きくなった体にも順応。体作りという第一関門を無事に突破した。

[page_break:シャドーピッチングから体の使い方を見直す]

シャドーピッチングから体の使い方を見直す

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林優樹(近江-西濃運輸)

 また、球速アップの秘訣は体重増加だけでなく、体の使い方の変化にもあった。佐伯コーチは入社直後の林のキャッチボールを見て、「今の投げ方では球速は出ない」と感じていたという。

 「腕の振りは素晴らしいものがありましたが、体と連動して腕が振れておらず、上半身と下半身が連動していないイメージがありました。後は右足が突っ張って、体重が前に乗らないというところがあったので、本人と話し合いながら、重点的にやりました。言葉にするのは難しいのですが、何種類もあるトレーニングを意識させた中で、シャドーピッチングをやっていましたね」

 球速を上げるために必要なトレーニングでやったことを、シャドーピッチングに取り入れるという地道な練習を積み重ねてきた。シャドーピッチングも夏は平地で行い、秋から傾斜を使って、実際の投球に近づく形に変えていくなど、段階を踏みながら課題を一つずつクリアしていった。

 「凄く長かった1年間でした」と話すほど、林にとっては気が遠くなるような日々が続いたが、その分、効果は大きかった。「高校の時に比べると、自分の体を理解して動かせるようになったと感じます」と林自身も成長を実感している。

 前編はここまで。高校1年から試合で投げることが日常的だった林にとっては1年目の取り組みは単調なものだった。とはいえ、確実に身になった1年だった。後編では進化の様子をフォーム改造の背景を佐伯コーチに語っていただき、今後の意気込みに迫っていく。

(記事=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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