「今年は不思議なチーム」天理の近畿8強への道のりと今後の課題【後編】
秋の近畿を制したのは強打の智辯学園。西村 王雅、小畠 一心、前川 右京といった経験者をはじめとした戦力で頂点まで勝ち上がったが、公式戦で唯一白星を挙げたのがライバル・天理だ。
中村 奨吾、太田 椋といったプロ野球選手も輩出する全国屈指の名門校である天理。現役時代は主将として全国制覇を経験した同校のOBにして元プロ野球選手の中村良二監督の下、今年のチームはいかにして近畿大会8強までの結果を残したのか。
前編はこちらから!
名門・天理はなぜ投票制、効率化を重視しながらも全国の舞台へ行けるのか【前編】
互いの助け合いが光る今年のチーム
天理の練習模様
投票制でベンチ入りメンバーを決める取り組みをして5年目となるが、「1つ1つ集中して取り組んでおり、やらされている選手は減ってきた」と感じ取っているという中村監督。それは選手間の中で『いつでもチャンスがある』と感じているからだと分析する。
「だれに投票すればいいのかわかるためにも、練習試合では偏りなく頑張っている選手を起用するようにしています。だから周りのチームよりも出場数は減るかもしれませんが、周りのサポートにつくことで違う視点から見られますし、投票権があると指導者目線で見られるので、責任感も増していくと思っています」
そうした取り組みをしながら毎年チームを作ってきた中村監督に今年のチームを伺うと、「不思議なチームでした」とコメント。今年の3年生と比較すると力は劣っているものの、練習試合でも負けた試合は1、2回程度。ほとんどが勝利だったが、その勝ちパターンの中心には達 孝太の存在が大きかった。
「練習試合でもほとんど抑えていて、なおかつ奪三振率も高い。なので、守っていて安心できたのか、先に点数を取る。もしくは取られても取り返す余裕がありました。お互いの信頼関係の中で戦えたと思います」
打線の中軸を担う瀬 千皓も中村監督同じことを感じ取っていた。
「達がいますが、いつかは打たれます。ですので、野手陣はいつも助けてもらっている分、困っている時には助けられるように声を掛け合っています」
しかし今年のチームは打力の低さが課題であることを内山 陽斗主将は感じ取っている。
「打力の低さは自分たちも自覚しており、監督も言われていたことでしたので、達を中心とした守備と細かな走塁を意識して夏休みは過ごしてきました」
[page_break:激しい競争を経てチーム力を高める]激しい競争を経てチーム力を高める
天理ナイン
こうして迎えた秋季大会。天理は初戦の法隆寺国際に7対0で勝利すると、準々決勝では御所実とは打ち合いの末に11対6で勝利。そして決勝の智辯学園とは8対2というスコアで勝利。秋の奈良県を制して近畿大会へ駒を進めた。
近畿大会では初戦で乙訓と対戦。1点争う接戦となったが、「自分の理想に近い投球が出来た」という達の好投も光り、2対1で勝利。ベスト8進出を決めたところで、昨年も対戦した大阪桐蔭と再戦。先取点を上げたものの、中盤に逆転を許すと、7回に達が捕まり6失点。4対11のコールドで敗れる結果となった。
指揮官の中村監督も「あれだけ打たれたのは初めてです」と語るほどの結果。実際に投げていた達も「今までで一番悔しいです」と振り返るが、内山主将は冷静に敗因を語る。
「打力のない自分たちが、守備や走塁でミスをしてしまいました。これからはそういったところをきちんとできないと勝っていけないので、打力アップもですが、冬場はそういったところも磨かないといけないです」
そうした中で迎えたオフシーズン。「この時期にしかできない練習があるので、トレーニングで身体を作って、技術を伸ばすための土台作りをやっています」と冬場の練習に力を入れている。その中でキーワードとなるのが競争だ。
「2、3番手を作らないと夏に間に合わないですし、チーム内でもレベルの差が激しいので、そこを詰めてあげて競争を厳しく出来ればと思っています。それで秋からメンバーが1人でも多く変わっていればチームとして成長している証拠だと思うので」
内山主将は「まだまだ技術的には磨くことがありますが、人として成長もしないと野球は磨かれないと思いますので、そういったところも忘れずにやりたいです」と意気込みを語った。
選抜出場は微妙なラインにいる天理。しかし出場が叶えば間違いなく注目校の1つとして数えられる。名門・天理は春、そして集大成の夏へ今もなお牙を研ぎ続ける。
(取材=田中 裕毅)