松本航、東妻勇輔ら3年間で4人の大卒プロ投手を輩出した投手王国・日体大が実践する投手トレーニング vol1
現在、アマチュア球界、プロ球界から投手育成力の高さを高く評価されている大学がある。それが日本体育大学だ。
2018年からここまでの3年間、松本航(埼玉西武1位 明石商出身)、東妻勇輔(千葉ロッテ2位 智弁和歌山出身)、吉田大喜(東京ヤクルト2位 大冠出身)、森 博人(中日2位 豊川出身)と大卒から直接プロ入りした投手全員が2位以上と、投手育成力の高い『日体大ブランド』はプロ・アマ通して評価が高まっている。その育成を担っているのが、辻孟彦(京都外大西出身)投手コーチだ。
日体大では大学通算22勝を挙げ、大学4年春には東海大との争いを制して、大学選手権に出場。こうした実績を評価されて、2011年に中日ドラゴンズから4位指名を受けてプロ入り。プロ生活は3年間で通算13試合の登板に止まり戦力外通告を受けるが、現役引退後は学生野球資格を回復し、母校・日本体育大硬式野球部の投手コーチに就任。2018年4月からは、コーチを行う傍ら大学院体育科学研究科の博士前期課程に入学し、コーチング学やバイオメカニクスを研究した。
今回は日体大が実践するトレーニングや投手に必要な考え方を3回シリーズにて紹介!まず1回目は正しい「体重移動」と「回旋」を生み出す3つのトレーニングだ。
ピッチングで大事なポイントは「体重移動」と「回旋」
日本体育大・辻孟彦コーチ
【文字と動画を見ながら、習得していこう!!】
辻コーチは投手のトレーニングを行う際、大きく二つの目的に分ける。
一つ目が、ウエイトトレーニングや持久力といった身体を強化する目的のトレーニング、そして二つ目が投げる動作に直結した動き覚えるトレーニングだ。トレーニングと言えば、前者の方が馴染みが深いかもしれないが、辻コーチは後者も非常に重視している。
具体的なポイントは2点、「体重移動」と「回旋」だ。
辻コーチはどんな投手でも必要な「体重移動」と「回旋」を、身体に正しく身に付けさせるトレーニングを考案し、必ず動きとその理論を教え込んでいる。
その中で今回は3つのトレーニングを紹介していただいた。
①投球動作トレーニング
このトレーニングは2人1組で行う。1人がトレーニングの対象者、1人がサポートとなり、サポート選手が対象者へボールを投げるところから始まる。ボールを受け取った対象者は、まずその場で股割りを行い、そのまま横移動のステップを1度入れてシャドーピッチング。この動きを10回3セット行う。
「まずポイントは、ボールを捕って股割りをする時に膝が前に出ないようにすることです。本来は股関節に体重を乗せた状態で回旋して欲しいのですが、膝が前に出ると膝で操作してしまうので股関節に体重が乗らないまま回旋することになります。
また股を割った後に横にステップする動きですが、これは体重移動の時に横を向いたまま体重移動をする意識付け意味でやっています。いわゆる『開かない』意識です。
シャドーピッチングでも共通していることがあり、スムーズな回旋に繋がるように着地してから割るイメージを持たせるようにしています。その時も股関節を意識して、極力膝が前に出ないようにシャドーピッチングをすることが大事です」
[page_break:チューブとバランスボールを使ったトレーニング]チューブとバランスボールを使ったトレーニング
チューブトレーニングの様子
②チューブトレーニング
このトレーニングは1人で行うもので、まず両足を肩幅に広げた状態で膝辺りにチューブを巻く。この状態で横に平行移動していくトレーニングだが、移動の際は軸足の押す力で進んでいく意識を持つ。
踏み込みの足がついた時点で一連の動きは終わりで、これを連続して20メートルの距離を往復する。復路では利き手と逆の方向で行い、バランスを意識する。
「このメニューも体重移動の意識が大事です。チューブで太ももの内側に負荷がかかると思いますが、踏み込みの足では無く、軸足の力で投げる方向に進んでいく意識です。そうすることでギリギリまで体が開くことを防げ、傾斜のあるマウンドでも勢いだけで突っ込んで投げることも防げるはずです。踏み込みの足がついた時点で終わりで、また軸足に体重が戻ってと繰り返していきます。
シンプルですがこだわりを持っていて、ポイントは前に進んでいる時間を長くすることです。突っ込んでもダメですし、体重を残そうとし過ぎることもダメです。軸足に力を入れないとゆっくり動いていかないといけないので、すごく簡単そうに見えますが、数センチのズレも許されないので高い集中力でやっています」
バランスボールトレーニングの様子
③バランスボールトレーニング
このトレーニングも1人で行うもので、まず踏み込みの足をバランスボールに乗せる。ここでも膝が前に出ないことを意識しながら、バランスボールを投げる方向へ進ませる。この動きを10回3セット行う。
「一見バランスボールを蹴ってるような動きに見えますが、バランスボールに乗せてる足で動かしているのではなく、軸足で動かす意識が大事です。軸足をバランスボールに乗せている分、軸足の股関節に体重が乗っている感覚は意識しやすいと思います。
投球動作トレーニングと同様に右膝を前に出すと楽になりますが、そこを我慢して股関節に負荷がかかるように意識しながら投球方向に向かう意識を持ってください。かなり足がぷるぷるきますが、軸足の使い方が学べます」
1年時に「多くの引き出し」と「動く体」を身に付けて欲しい
以上の3点だ。
どれも強い回旋への繋がりを意識した体重移動を覚えのためのトレーニングだが、球速が速くない選手や制球が定まらない選手は、ほぼこの動きが出来ていないという。
また1年生は入部した際には、最初をにすべてのメニューを覚えるところからスタートし、様々なトレーニングや体の動きを行うことで「多くの引き出し」と「動く体」を身に付けて欲しい思いが辻コーチにはある。
「一年生の間にトレーニングをたくさん行うことで、3、4年生になって知識が増えてきた時に思った通りにすぐ体が動けば良いなと思っています。やろうと思った時に体が動かない、何を言われてるのか分からないとなってしまったら成長はそこで止まってしまいます。1年時にいかに色んなことをやって、感じて、動くようになるかが大事だと思うので、そのために座学や1年生だけでのミーティングも積極的に行っています」
次回は体力面と技術面の観点から「高校時代にこれだけは抑えて欲しい」という練習を紹介して行く。次回もお楽しみに。
(取材・執筆=栗崎祐太朗)