都立校にいたセンス抜群遊撃手・比嘉宇基(都立富士森)とは何者なのか?秋ではドラフト候補左腕から本塁打
東海大菅生の優勝で幕が閉じた秋季東京都大会。今年、ベスト16入りしたのは都立日野、都立小山台の2校だけだが例年以上に都立に人材が揃っている。
その中でナンバーワンショートとして推したいのが比嘉 宇基(たてき)だ。なぜ無名の遊撃手は評価が上がっているのか。
都大会でも本塁打を打てるようになった打撃改造
好左腕・羽田 慎之(八王子)から本塁打を放った比嘉 宇基(都立富士森)
10月19日(月)。この日は八王子の143キロ左腕・羽田 慎之介が強烈な印象を残した日だが、それは比嘉も同様だった。甘く入ったカットボールをライトスタンドへ同点3ランを放った一打は強烈だった。今大会、羽田が本塁打を打てたのはこの1本だけ。大きく評価された。
そんな比嘉はどんな野球人生を歩んできたのか。小学校1年生から野球を始め、八王子市に構える横川スーパースターズに入団。遊撃手として活躍し、そして八王子第四中では投手・遊撃手として活躍し、都立富士森の廣瀬監督によると、八王子の中学軟式では有名な選手で、都立高の中では一目を置かれた選手だったようだ。
比嘉は進学先として都立昭和が第一候補だったが、不合格となり、自宅に近い学校を候補に絞った。そして都立富士森の体験練習に参加して、入学が決まった。
「自由で楽しそうな雰囲気だったので選びました。練習を見ていても自分の課題を潰しながら成長できると思ったんです」と都立富士森進学を決める。
比嘉の言葉通り、都立富士森の練習の雰囲気を見るとのびのびとしている。身が引き締まるような強豪校の雰囲気と比べると一線を画するものがある。高校野球というより大学、クラブチーム、独立リーグに近いものがある。
自由な雰囲気ではあるが、決してサボるというわけではない。短い時間の中でノック、ティーバッティング、投球練習では自分の課題克服に黙々と取り組んでいる。
それができるのはスタッフ陣が経験豊富なことだ。廣瀬監督は強豪・堀越出身で都立富士森で監督をする前は羽村シニアで監督を務め、常道 翔太(東海大菅生-東海大ー三菱パワー)など好選手を育てた実績があり、練習を見ていても投手、野手の技術指導が細かい。
また廣瀬監督が全幅の信頼を置くのが外部指導者の高橋 誠コーチだ。高橋氏は廣瀬監督の高校の1年後輩で、卒業後は当時の名門・日産自動車でプレー。主力打者としても活躍した高橋コーチの打撃指導は実にきめ細やか。
自由な雰囲気ながらも技術指導も丁寧に教わることができる都立富士森の環境は比嘉にぴったりだった。まずスイング軌道の修正。中学軟式時代、遠くへ飛ばすことを意識していた比嘉はアッパー気味のスイングだった。
「バットが下から出ていて、捉えてもドライブがかかってしまう打球が多く、あまり飛ばななかったのです。特に硬式だと軟式時代の打ち方では飛ばなかったので、スイングを最短距離で振ることを意識しました。そうすると力が分散することなく、スイングができるようになりました」
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チューブを使ったティー打撃に励む比嘉
1年冬から高橋コーチの指導も入ったが、その修正方法の練習は比嘉が考案して取り組んだ。
「無駄な情報を入れないようにしていて、まずSNSで情報を収集して良いと思ったものは取り入れて、合わないものはすぐにやめて、合って継続できそうなものを取り入れながら、自主練習に生かしていきました」
比嘉は8種類のティーバッティングに取り組む。いくつかの方法を語ってもらった。まずはチューブで両脇を締めながら、ティーバッティングに取り組む。
「手を絞ってコンパクトに打つことで、ポイントに力を分散させずに打つ目的があります」
さらには左打者の比嘉はタイヤの上に踏み込み足の右足を置いて、ティーバッティングを行う。この狙いについては
「身体をしっかりと止めてヘッドを走らせるようにしています。他では高めのボールを打つために、高めのコースに設定して打ったりしています」
1つ1つの練習の意図があり、最終的には、自分の理想的なスイングをするために意識するポイントは2つある。
「コンパクトさを求めると、手打ち気味になり、身体があまり使えないスイングになりがちですが、僕の場合、身体を回すのではなく、前の足で止めて、ヘッドを走らせることを意識してスイングをしています」
練習の成果が出たのは2年秋の都大会の八王子戦だった。比嘉は143キロ左腕・羽田 慎之介から本塁打を放ち、成長した姿を示した。
「それまでは遠回りしてしゃくりあげる感じだったんですけど、八王子の試合前からコンパクトにバットが出るようになって、羽田投手から打てて、このまま練習していければ、もっと良くなると確信がついた試合でした」
比嘉は羽田について今まで対戦した投手の中で一番速かった投手ということでいろいろ気づきが多かった。
「4打席目はストレートを狙いに行ってストレートを打って、振りおくれのレフトフライだったので今までにない感じだなと思います。スイングの力強さは私立の打者と比べたら全然足りないなと思っています。今の自分は外角に対して強く叩けず左中間方向へ飛ばせていないこと。今はライト方向に良い打球が打ててきたのですけど、レフト方向にも強い打球が打てればと思っています」
さらに遊撃守備も動きの良さが光る。現状の課題についてこう語る。
「ハンドリングを意識してやっていたんですけど、バウンドをどう合わせるか、どういう形でやればいいかそういうのを意識してやっています。エラーが多くて、もっと確実性があがればいいんですけど、そこはつめていかないと思います」
比嘉の良さは技術的について言語化ができる選手だということ。取材日の練習でも3種類のティーバッティングの他には、体を大きく使うことを意識した素振りをするなど、意識の高さがずば抜けていた。
廣瀬監督は比嘉の魅力について実力以外の部分にもあると語る。
「他人を惹きつけるカリスマ性があるということです。朝練も彼が率先して練習に取り組みますし、練習の中心は彼が輪になって取り組みます。選手として打てる選手はいますが、彼ほど守れて走れる選手はいません。私の指導者生活の中でもトップレベルの選手。間違いなく大学でも続けていける実力はありますので、彼の人間性に合った環境を探して行きたいと思っています」
来春は都大会からのスタートになる。自身の可能性を広げるためにもチームの勝利のために走攻守で躍動した姿を見せていきたい。
(記事=河嶋 宗一)