至学館vs愛工大名電
劇的至学館、延長10回タイブレーク、2点リードをひっくり返して逆転サヨナラ3ラン
劇的なサヨナラ3ランを放った至学館・土岐君。記念ボールを見せる
7月4日から始まった愛知県の夏季独自県大会は、雨で日程が大幅にずれたり、東邦がコロナ禍で事態などということを経ながらも、この日でベスト8が出そろうこととなった。ベスト8を競う試合の中でも、最も注目のカードとも言われているのがこの試合だ。
至学館の昨秋は期待されながらも、エースとして期待していた渡邉都斗君が故障で投げられなかったということもあり、安城南に屈した。
その反省もあって麻王義之監督は、「春には全く違うチームとして生まれ変わっていると思いますよ」と語っていた。
しかし、春季大会が中止になってしまい、十分な試しも出来ない状態で夏を迎えることとなった。それでも、自粛の解けた6月からはレ集試合も重ねてチーム力を上げてきた。それを示すかのように、ここまで強さを示して進出してきた。
愛工大名電は、前日の千種との4回戦では序段に大きくリードして、それを4人の投手の継投で守り切り7回コールド勝ちで進出してきた。一昨夏の代表校でもあり、もちろん、選手個々の能力も高い。
試合は緊迫の投手戦となり、9回を終わって愛工大名電が1安打、至学館が2安打というもの。愛工大名電は小野君が6イニングを投げ、7回からは注目の2年生左腕田村君に繋いだ。至学館は左腕の渡邉都斗君が力投。少ない安打だったが、貧打ということではなく、投手陣の気迫の投球が光っていたと言っていいであろう。
9回までの展開としては3回に至学館の富田君が初安打して三塁まで進むが攻めきれず。愛工大名電は7回に2番大石君が初安打するが二塁止まり。ともに、無死の走者を生かせなかった。そして、そのままタイブレークに突入していくこととなった。
10回の愛工大名電は7回に代打で出て、そのままマウンドに立って3番に入っている田村君からだが、フルカウントからしぶとく一二塁間を破って1点が入る。その後二死満塁となって、藤本君も左前打して2点目。至学館としては、2点を追っての裏の攻撃となった。
それでも至学館の麻王監督はベンチで「2点までは想定内だから、大丈夫」ということを暗示的に言い続けた。それに“思考破壊”をテーマとしている至学館野球。無条件で無死一二塁という場面設定が出来ているタイブレークは、好きな戦い方とも言えよう。
何か仕掛けてくることは間違いないと思われたが、打順は2番からという場面だがまず二塁走者にチーム一の俊足の青山君を送り出す。
これで相手に三盗もあるぞ、ということを思わせて三塁手をベースに下げ気味にさせておく。
そこを狙って立石君は三塁線に巧みにバントで転がして内野安打として満塁。続く西尾君も初球スクイズでまず1点。こういう立て続けの初球攻略は至学館の技でもある。
4番廣田君は倒れたものの、二死となって5番土岐君は打つしかないという場面で2年生の田村君に対して、「全員3年生で挑んだ至学館として、いくら能力が高くても高校野球のキャリアでは勝っているので意地でも負けられない」とばかりに、初球思い切ってスイングした。
打球は、その思いも載せて左翼スタンドに飛び込んだ。
チーム4本目で初の長打がそのまま逆転サヨナラ3ランという劇的なものとなった。
歓喜の至学館、「ロースコアゲームになれば、ウチのモノ。終盤には何かが起きる、それが至学館の野球」と言い切る麻王監督。まさに、その“麻王マジック”がズバリ的中したとも言える逆転劇だった。
「今年の夏は、甲子園はなくなってしまいましたが、今年のチームは今まででも一番というくらいに手ごたえのあるチームでしたから、田村君が出てきた時から3年生として負けられんという気持ちになっていました」と、ベンチのムードもどんどん上がっていった。そういうところも含めて、至学館野球である。
10回をしっかり投げ切った渡邉都斗君は、試合後は満面の笑顔を浮かべていた。「土岐が必ず打ってくれると思っていました。嬉しい」と素直に喜びを表していた。
甲子園の夏はなくなってしまったけれども、球児たちの夏は例年と同じように熱い。いや、むしろこんな状況だけに、例年以上に熱い思いで一球に一打に賭けて、青春の賛歌は綴られている。
やはり、高校野球は素晴らしい。この大会を開催してよかったと、そう思わせてくれるナイスゲームだった。
(取材=手束 仁)