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「高校野球のバーチャル開会式」で加盟校の入場行進が実現!石川モデル第二弾の背景に被災地への思いも

2020.06.12

石川モデル第二弾となる、『バーチャル開会式』とは?

「高校野球のバーチャル開会式」で加盟校の入場行進が実現!石川モデル第二弾の背景に被災地への思いも | 高校野球ドットコム
石川モデル第二弾となる、『バーチャル開会式』とは?

 新型コロナの感染拡大防止に向け、大阪・吉村洋文知事が全国に先駆けて掲げた「大阪モデル」にならって、5月20日の甲子園開催中止の発表を受けてすぐに、独自大会開催に向けて、「石川モデル」を石川県の高野連に提唱したのが、監督会代表を務める井村茂雄監督(金沢桜丘野球部)だった。

 6月初旬、石川県は、その「石川モデル」を参考にし、石川県高等学校野球大会の開催を発表したが、仕掛け人・井村監督のアイディアはこれだけでは終わらなかった。

 石川モデルの続編として、井村監督が高野連に提案したのが、『バーチャル開会式』の実施だ。
 これは、各高校が本番の開会式をイメージし、公式ユニフォームを着用して自分たちのグラウンドで「入場行進」を行うもの。

 その様子を指導者がスマートフォンなどで20秒間撮影して、石川県の連盟事務局に送付。動画の提出方法も、専用のLINEアカウントを制作し、QRコードから読み込めば、すぐに投稿できる簡易的な仕組みを考えた。

 事務局に届いた映像をつなぎ合わせて、大会前日にオンライン上で、石川県高野連加盟校の部員たちがまるで、同じ場所で入場行進をしているかのような「バーチャル開会式」の映像が配信される形となる。

 「感染予防対策をしっかり行った上で、選手たちのためにできることは実現させていきたい」と話す井村監督だが、その原動力の一つとなっているのは、5月20日の甲子園中止の発表を受けた日の夜に、金沢桜丘野球部の選手たちがオンラインミーティングで、話していた言葉からだった。

 ミーティングで、キャプテンの大澤慎司は部員たちにこんな話をした。それは、昨年8月に石川県高野連被災地支援事業の一環で、宮城県に2泊3日で当時の1、2年生部員たちと訪れた時の話だった。

 「去年の8月、僕たちは気仙沼向洋さん、本吉響さん、宮城水産連合さんと交流試合を行いました。その翌日には石巻工業さんと練習試合をさせていただきましたが、その時の選手たちがとにかく明るかったんです。
 実は、交流試合の前の日に、東日本大震災で被災した場所などを案内してもらったり、当時のお話を聞かせていただいていたので、家族や仲間をなくした部員もいたり、とても辛い思いをしているはずなのに、みんなとにかく明るかったんです。
 それで、僕はなんでそんなに明るく振る舞っていられるんだろうって思って、交流会の時に直接選手に聞いてみたら、『明るく振る舞って、前を向くしかない』って笑顔で言われました。その選手たちの悲しみや辛さに比べれば、僕たちの辛さなんてまだまだです。今日甲子園中止が決定となったけど、前を向いて全力でやっていきましょう」

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笑顔で行進する姿を心待ちに

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2019年夏に宮城県気仙沼地区に訪問した金沢桜丘の部員たち

 キャプテン・大澤の言葉を聞いて、井村監督は正直、驚いたという。
 「あの時のことをこんなふうに感じて、同級生や下級生たちにも話している姿をみて、感動をおぼえました。そんな部員たちの思いを受けて、石川県の独自大会をどうにか開催したいと強く思いました」

 また野球部主務の道端悠(3年)も、
 「小さな時から追いかけてきた自分たちの目標がなくなってしまって、これからどこに向かえばいか分からなくなっていましたが、この時のキャプテンの言葉はすごく心に響きました」と、この夜のミーティングを振り返った。

 大澤は言う。
 「甲子園中止が決まった時は、悲しいし、悔しいし、つらかったです。でも、ここで立ち止まっても仕方なくて、何もない所から、どれだけ前を向いてやれるか。1人だと出来ることは限られているけど、こんな時こそ、みんなで同じ方向を向いて繋がっていくことが大事だと、宮城県で出会った野球部員たちのことを思い出してそう感じました」

 9か月前、宮城県の被災地に訪れた時よりも今なら、その時出会った選手たちの気持ちが痛いほどわかる。
 野球ができる日常は、決して当たり前のことではなかったのだと。
 そうキャプテンの大澤は、言葉をつないだ。

 そして、6月。
 石川県は3か月ぶりに授業が再開し、野球部員たちも久しぶりにグラウンドに立つことができた。夏の独自大会の開催も決まり、3年生にとって最後となるこの大会に向かって、全力で練習に取り組んでいる。大澤は、
 「大会では、もちろん石川県の1番を目指します!宮城県で出会った選手たちには、高校野球最後の日までお互い頑張ろうと伝えたいです」と笑顔で語った。

 各地で開催されるこの夏の独自大会は、例年以上に、多くの人たちの想いが込められた大会となった。「人と人との思いがつながった大会」だ。

 石川県の独自大会もまさに、人との想いとつながりによって実現できたといってもいいだろう。
 その大会の開幕を彩ることとなる「バーチャル開会式」で、笑顔で行進する石川の高校球児たちの姿がみられることを心待ちにしたい。

(取材=安田 未由

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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