伝統の破壊力再来へ!古豪・大宮東(埼玉)復活のカギを握る人間性と基本【後編】
夏の埼玉大会で公立校唯一のベスト4進出を果たして県内に存在感を示した大宮東。前編では、その快進撃を成し遂げたチームのエピソードを中心に話を聞いてきた。後編では新チームの話を中心に語ってもらった。
■前編はこちら
大宮東(埼玉) 打倒・花咲徳栄を掲げ、団結力で勝ち上がった3年ぶりのベスト4【前編】
人が点数に繋がるスポーツだからこそ、人間性が大事
ティーバッティングの様子
今夏の埼玉大会でベスト4になった大宮東。しかし、新チームは「コールド負けした悔しさが前面に出てくるような練習ができていない」と河西監督は課題をあげる。その課題が一番浮き彫りになったのが秋季県大会の埼玉栄戦だったのだ。
「8回まで4対4で来ていながら、ウチがミスしてしまい5失点で敗戦。これが今年のチームの甘さのすべてです」
こうした接戦で粘れないのは、野球への取り組み方や学校生活などの人間性が足りていないからだ、と河西監督は考えている。
たしかに大宮東のグラウンドには『人間性』という言葉がかかれた掲示物が張られており、大事にしているのがわかる。しかし具体的にどういった取り組みをしているのか。また、『人間性』をどうして大事にしているのか、その理由を河西監督に詳しく聞いてみた。
「野球は人間がホームを踏むことで得点になる。バスケやバレーボールはボールが得点になりますが、野球だけは違う。人が得点になるわけなので、人間性が乏しいとその1点を抑えたり、取ったりすることはできないんです」
この考えを今の選手たちに教え込み、少しずつ人間性の重要性を説いている。そして、その人間性を磨くために学校生活でも厳しく指導をしている。
「授業中の取り組み方ですね。勉強が苦手な子が多いですが、『最善の努力をしなさい』とか『やろうとすれば100%出来ることをやりなさい』とは言っています。なので、授業中に寝るとか、提出物を出さないとかダメですし、この代は特にしっかりしないといけないと思っています」
実際にエースの河内瞬投手は、「挨拶や勉強などを言われていて、野球以外の大切さも意識するようにしています」と語る。
また、高校通算10本塁打を記録して1年生の夏から試合に出ている小河原凱選手は、「チームが1つになるためにも部室の掃除や、日ごろの学校生活をきっちりやっています」と選手の中でも少しずつ意識は浸透してきている。
こうして人間性も育てながら埼玉の頂点を目指す大宮東。今年のチームを聞くと、「基本はやはり野球は点取り試合なので、どれだけ点数を取れて失点を抑えるかのスポーツです。ですので、今年もバッテリーを中心に守りを固めるのが大前提です」と河西監督は語る。
この土台の上に重ねるのが攻撃力である。
[page_break:伝統の攻撃力を継承し、土台を積み重ねていった先に甲子園が待っている]伝統の攻撃力を継承し、土台を積み重ねていった先に甲子園が待っている
練習終わりに校歌を歌う選手たち
そもそも大宮東は伝統的に強打のチームを作る。佐藤亮太主将も「選手間のミーティングで古豪・大宮東は強打の時代があったので」ということで、打倒・花咲徳栄に加えて『破壊力』という言葉も付け加えた。
河西監督も選手たちには3つのポイントをよく選手たちに伝えている。それはタイミング、ポイント、スイングの軌道。ではこの3つはそれぞれどんなことを選手たちは意識しているのか。まずは、4番を打つ小河原選手にタイミングについて聞いてみた。
「チームでずっと投球練習の7球の時にタイミングを合わせています。例えば足を上げたタイミングで1みたいな感じで、合わせています」
そしてポイントと軌道、これは主将の佐藤選手に詳しく話を聞いてみた。
「インコースなら腕を伸ばしきったところ。真ん中ならトップからバットを素直に出したところ。アウトコースなら左中間、右中間にヘッドを返せるような場所に出します。
また軌道はライナーで低くて強い打球を打てるようなバットの出し方です」
河西監督はこれらに関して、「頭に入れながらやってくれていますが、個性を殺しすぎてしまうのも良くないので、原則としてある」くらいで伝えており、あくまで選手の個性を尊重して打撃強化を図っている。
こうした伝統を継承しつつ、激戦区・埼玉で結果を残し続ける大宮東。しかし、どうして公立校でありながら毎年上位へ進めるのか。その真意を河西監督へ問いかけた。
「まず人間性が社会でも役に立てることだと思うのでしっかりやること。そして自分さえ意識して基礎基本を徹底することも大事だと思っています。
土台がしっかりしていないのに、技術とか戦術と言った上の部分だけやってももろく崩れます。ですので、土台を大きくしたうえで技術や戦術を肉付けして勝負できるかだと思っています」
土台となる部分をきっちり作ったうえで、技術や戦術を上乗せしていく。こうした地道なチーム作りこそ大宮東が勝ち続けられる最大の要因なのだ。
長いオフシーズンで土台作りに入る大宮東。佐藤主将は「チームの目標である、甲子園で校歌を歌うべく、埼玉県を制することが出来るように頑張ります」と意気込みを語った。河西監督も「花咲徳栄を倒して甲子園に行きたいと思います」と目指す場所は同じ。
聖地甲子園へ、打倒・花咲徳栄を掲げて練習を重ねる大宮東。夏に大輪の花を咲かせるべく、勝負の冬を過ごす。
(取材・田中 裕毅)