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「使ってもらえるありがたみや喜びを感じて投げてほしい」 恩師が語る田口麗斗(読売ジャイアンツ)【後編】

2019.11.21

 2019 WBSC プレミア12が11月2日から開幕し、17日にすべての予定が終了した。そこで決勝戦・韓国を5対3で破り、大会初優勝を飾った日本。その原動力ともなった1人が、田口麗斗だ。

 2013年のドラフト会議にて3位指名で読売ジャイアンツに入団。プロ2年目となる2015年に初勝利を含む3勝5敗で1軍を経験すると、翌2016年には10勝10敗で2桁をマーク。2017年にはキャリアハイの13勝を記録し、ジャイアンツの投手陣の柱となった。

 前編では母校・広島新庄の監督と田口投手との出会いや、広島新庄での成長にフォーカスした。後編では高校野球最後の1年間と、メッセージなどを伺いました。

■前編はこちら
「技術的には言う必要がなかった」 恩師が語る田口麗斗(読売ジャイアンツ)【前編】

全国相手にも通じることが分かった春

「使ってもらえるありがたみや喜びを感じて投げてほしい」 恩師が語る田口麗斗(読売ジャイアンツ)【後編】 | 高校野球ドットコム
高校日本代表にも選ばれた田口麗斗投手

 人としての成長を促し続けた迫田監督。田口投手はその指導を受けるたびに成長を重ね、3年生になったときは押しも押されぬエースへと成長を遂げていた。

 そんな田口は山岡泰輔と並んで広島県トップ、そして全国でも通用する実力まで成長。春先以降、強豪校相手に投げる機会が増えてきたが、「それほど負けなかった」と迫田監督は当時を振り返る。
 「大阪や関東近辺の学校と試合をしますが、田口が投げると強いところにそれほど負けないんです。例えば報徳学園さんとかは、田口を見て練習試合を申し込んできてくれて。向こうは選抜直前でしたので、グラウンドへ行きました」

 その試合、田口は選抜に出場する報徳学園を完ぺきに抑えた。すると「もう1回やってくれ」と報徳学園側から直訴されたそうだ。こうした結果を受けて、「本人の中で『通用するんだ』という思いがあったのではないか」と、迫田監督は語る。

 ここで1つ余談になるが、田口は高校3年の夏に高校日本代表に選出。1度も甲子園に出場することが出来なかった田口だったが、「西の松井」と世間からの評価されていたこと。そして当時報徳学園で指揮を執っていた永田裕治氏に、練習試合での投球で印象を残せたのが代表入りの決め手になったのではないか、と迫田監督は振り返った。

 こうして田口は強豪との戦いの中で自信を深めて最後の夏へ突入。広島新庄は95回大会を危なげなく勝ち進み、決勝戦の舞台へ。そこで立ちふさがったのが山岡擁する瀬戸内

 広島県を代表する好投手同士の対決は再試合にもつれる白熱の展開。しかし最後は瀬戸内が1点をもぎ取って甲子園へ。広島新庄は甲子園を決勝戦で逃すこととなった。

 この試合を迫田監督はこのように振り返った。
 「ニコニコしてやっていましたね。けど最後の最後に1点を取られて負けました。どちらも素晴らしい投手でしたので、打つのは難しかったです。そういった意味では報われなかったところだと思います」

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ありがたみや喜びを感じて投げてほしい

「使ってもらえるありがたみや喜びを感じて投げてほしい」 恩師が語る田口麗斗(読売ジャイアンツ)【後編】 | 高校野球ドットコム
恩師・迫田守昭監督

 その後、田口はU-18で世界の舞台を経験し、ドラフトでは読売ジャイアンツから3位指名を受けることが出来た。
 「私とすれば上だったと思います。順番の関係もあるとは思いますが、4、5位くらいだと思っていました。ですので、『あれっ』と思いました。ただ、ジャイアンツは田口が好きな球団だったので良かったです」

 当時は左投手が多く、活躍するかどうか心配もした迫田監督。しかし田口投手はそんな心配とは裏腹に、2015年のシーズンで初勝利。翌2016年には2桁10勝をマークするなど順調なスタートを切った。この活躍に「頑張ってくれた」と迫田監督も納得の表情。

 しかし近年の活躍に関しては少し厳しいコメントを残した。
 「最初が順調にいったので、相手も警戒してくる。だから相当な努力をしないといけないのですが、油断してしまった。特に10勝したときに比べてストレートが走っていないんです。130キロくらいならウチの投手なら全員投げます。それでもプロで通じると思っているのが間違いで、プロにはプロの厳しさがあると思うんです」

 迫田監督が初めて田口を見た時に衝撃を受けた、ストレートの状態の悪さを指摘。再び活躍するためにも、「最低でも145キロ以上のストレートを投げ込めなければ変化球が活きてこない」と断言する。

 また「追い込んでから勝負する投手なので、いかに早くストライクを取るか」といったカウントの作り方にも指摘するなど、教え子に愛の檄を飛ばす迫田監督。そんな田口投手とのエピソードを1つ持ちだした。

 「全く勝てていない時期に一度グラウンドに来たんです。いつもはシーズンオフに挨拶に来ますが、笑顔で来るんです。けど、その時は悩んでいて死んだ顔していました。おそらくアドバイスが欲しかったと思うのですが、『真っすぐ投げられない投手が変化球なんて大間違いだ』と言いました」

 教え子・田口投手は、今回のプレミア12でライバル・山岡とともに優勝に貢献。来年のオリンピックに向けても期待が寄せられる。そんな田口投手へ、最後にメッセージをもらった。
 「勝てていない時期は抑えたいという気持ちが出ていて、生きた顔をしていなかったです。けど、結果ばかりを求めるとなかなかいいプレーはできないので、使ってもらえるありがたみや喜びを感じて投げてほしいです」

 2020年はプロ7年目となる田口投手。若手から中堅となり経験をある程度積んだ時期に差し掛かり、どんなピッチングを見せてくれるのか。その左腕に注目したい。

(取材・文=田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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