Column

ベスト4で唯一、完投なし。なぜ中京学院大中京は3人以上の継投をするチームになったのか?

2019.08.20

 今年の甲子園は履正社明石商星稜中京学院大中京の4強の中で唯一、完投がないチームがある。それは中京学院大中京である。なんと岐阜大会初戦からすべて継投策で勝ち上がっている。さらに、すべて3人以上が投げている。継投策で2人リレーはどこにでもあるが、全試合3人以上が投げているというのは記憶にない。なかなか例にない継投策をしている中京学院大中京に継投策を行った背景を聞いた。

ベスト4で唯一、完投なし。なぜ中京学院大中京は3人以上の継投をするチームになったのか? | 高校野球ドットコム組み合わせ日程はこちら

第101回全国高等学校野球選手権大会

昨秋の逆転負けの反省から継投策に

ベスト4で唯一、完投なし。なぜ中京学院大中京は3人以上の継投をするチームになったのか? | 高校野球ドットコム
元謙太(中京学院大中京) 

 今年の甲子園に入ってから中京学院大中京の継投リレーは以下の通り。

北照戦 不後祐将赤塚健利元謙太
東海大相模戦 不後祐将村田翔元謙太不後祐将赤塚健利
作新学院戦 不後祐将元謙太赤塚健利元謙太
星稜戦 不後祐将元謙太赤塚健利村田翔不後祐将

 この徹底ぶりである。ちなみに元、不後については秋季大会で完投している。完投能力がある投手に対して、この戦略を取る意図は何か。

 その意図について森昌彦コーチが詳しく語ってくれた。
 「昨秋の東海大会ではほぼ不後が1人で投げていましたが、終盤に逆転負けをして、この春から継投策で戦っていこうと橋本監督と話し合って決めました。だから、春は不後をあまり投げさせないで、他の投手を作っていこうという方針になりました」

 昨秋ではスタミナが切れて、代え時だと思っても、自信をもってリリーフできる投手がいなかった。その課題を克服するために行ったのが継投策だったのだ。

 森コーチは、96年のアトランタオリンピックの代表でもあり、抑えの切り札として活躍し、銀メダル獲得に貢献している。さらに橋本哲也監督は、NTT東海時代の先輩で、橋本監督のオファーでコーチに就任した。

 豊川高校のコーチ時代にはプロ注目で、2014年センバツ4強に導いた好投手・田中空良(東邦ガス)を育て上げており、投手育成能力は高く知られている。そんな森コーチ主導で、不後以外の投手をしっかりと育てる方針を取った。

 春季大会では不後はあまり投げず、元は野手を兼任しながら登板。その間、赤塚、村田、ベンチ入りの吉田直哉を育てる方針に切り替えた。

[page_break:いつでも投げられる準備を徹底させ、甲子園で大躍進]

いつでも投げられる準備を徹底させ、甲子園で大躍進

ベスト4で唯一、完投なし。なぜ中京学院大中京は3人以上の継投をするチームになったのか? | 高校野球ドットコム
不後祐将(中京学院大中京)

 安定感が課題だった赤塚については、昨年、トルネード気味のフォームに修正させ、縦振りで投げさせるフォームに切り替えた。他の投手についても、キャッチボール、投球練習で横振りを修正させ、縦で回転する投球フォームに修正させた。

 その結果、多くの投手が球速をあげ、赤塚においては最速148キロを計測するまでにレベルアップした。

 さらに森コーチは、赤塚には常々、準備の大切さを説いていたという。
「もし、不後が1球目に投手ライナーに当たってしまって、いきなり降板になってしまうかもしれない。その時、いつでもいける準備ができているか?など、たとえ話をしながら、いつも準備について話してくださいました。だから、練習試合から、いつでも投げられるような意識で準備していましたし、夏の公式戦でも、いつでも全力で投げられたと思います」

 実際に中京学院大中京のベンチを見ると、初回からどの投手もブルペンに入ってキャッチボールをしたり、野手出場の元も合間を見てブルペンで投げていた。そういう準備が実り、岐阜大会でも継投策で勝ち上がった。夏の甲子園に入ってからも、エース・不後については、80球~90球を目安に交代させ、場面や試合状況に応じて継投するプランを遂行してきた。

 この策が上手くはまり、エースの不後に負担をかけず、準決勝まで勝ち上がることができた。しかし、星稜は強かった。

 3回まで6失点。不後は、「疲れはあったと思いますが、研究されていたと思いますし、さすがでした」と脱帽。森コーチも、「体に重さがありました。厳しい試合展開になりましたが、よく投げました」と労った。

 ただ、最後はエース・不後にこだわった。
「もちろん最後を締めるのは、不後と決めていました」と語る橋本監督。不後も監督の心意気に感謝した。
「最後は自分が投げたかったので、投げ切ることができてうれしかったです。負けはしましたが、最後の登板でやり切ったと思います」と試合を振り返った。

 橋本監督は、この夏について、「奥川君のようなスーパースターの投手がいれば、完投させる方針にしたかもしれません。ただ、うちは、完投できる投手陣ではないので、そういう中で、選手たちは良く戦ってくれたと思います」

 昨秋の東邦戦の負けは、中京学院大中京のチーム作りを大きく変えるきっかけとなった。終盤に強いチームとなり、継投策を武器に、この夏、全国ベスト4まで駆け上がった。

 新チームになり、主力投手で残るのは、元1人のみとなった。他は未知数の投手陣だ。9月には県大会が始まる。先輩たちの背中をみて学んだ戦い方を糧に、中京学院大中京は、次はどんなチーム作りをするのか楽しみである。

(記事=河嶋 宗一

ベスト4で唯一、完投なし。なぜ中京学院大中京は3人以上の継投をするチームになったのか? | 高校野球ドットコム関連記事はこちら

中京学院大中京は7回から本領発揮!優勝候補も呑み込むツワモノたち


中京学院大中京(岐阜)【3年ぶり7回目】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.11

【2024年最新版 スーパー中学生リスト】 関東地区の強豪校注目の遊撃手、高校スカウト殺到の大型左腕、中村剛也の長男など38人をピックアップ

2024.05.11

名門・東海大相模の進路紹介!プロ注目打者は東洋大、エースは中央大で早くもリーグ戦に出場!

2024.05.11

【新潟】プロ注目右腕の帝京長岡・茨木が完封、日本文理とともに決勝進出<春季県大会>

2024.05.11

シニア日本代表が発表!選抜大会準優勝の主力打者、ベスト4の主将、優秀選手などが選出!

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.06

センバツV・健大高崎は夏も強い! Wエース抜きで県大会優勝、投打に新戦力が台頭中!

2024.05.06

【関東】山梨学院と常総学院がそれぞれ優勝、出場校の対戦が確定<春季大会>

2024.05.06

【春季埼玉県大会】花咲徳栄4回に一挙10得点!20得点を奪った花咲徳栄が昌平を破り優勝!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>