キーワードは「立ち・フリック・タイミング」!米山魁乙(昌平)は切れ味を武器に全国の扉をこじ開ける!【後編】
最速143キロを誇り、激戦区埼玉でチームを昨夏ベスト4、今春県ベスト8に導いた昌平の米山魁乙。埼玉県屈指の好投手の米山に前編では野球を始めた小学生時代から高校1年生の夏までを振り返った。
後編では転機となった試合、コントロールが良くなった練習、夏への思いに迫った。
◆どんな課題にも真摯に向き合う、真っすぐな投手 米山魁乙(昌平)【前編】
米山を変えた1年生の秋
1年生の秋・星野戦での米山魁乙
「米山は新人戦ではベンチに入れていたんですが、試合の2日前に『体調が悪いので、練習休みます』って連絡が来たんです。ただ、連絡来る時間がおかしかったので、問い詰めたら何でもなかったです」
そんな米山に黒坂監督は、「(野球部を)辞めてもいいよ」と告げた。そのことは米山の両親にも話した。しかし米山は必死に監督に謝った。これからの約束事を10個列挙した反省文を提出するなど、監督を説得し続け何とか部に戻ることができた。
「(反省文には)無理な約束事ばっかり書いてありました」と黒坂監督は感慨深く振り返ると、「当時は少しとがっていたというか、カッコつけていました。あまりしゃべるのも得意ではなかったですが、だんだん大人になってきました」
このことについて米山も、「自分の考え方やあり方を考え直すことができました」と決してネガティブに捉えず、ポジティブに考えていた。
その後、昌平は秋季埼玉県大会3回戦で山村学園に当たり、米山は和田朋也と投げ合いを演じるも、1対3で敗れる。「課題はたくさん見つかりましたが、もう一度土台となる下半身を強化すべきだと思いました」
オフシーズン、米山は徹底的に走り込みを行い、下半身を鍛え続けた。そして並行して投げ込みの数を増やした。この練習が米山の成長のポイントになる。
「監督の発案なのですが、キャッチャーの構えたところに10球投げて、そこにどれだけ行くか、数えるんです。それを75分で30セット、つまり300球の投げ込みをすることで切れやコントロールが良くなりました」
15秒に1球のペースで投げ込む過酷な練習に挑んだ米山。最初は10球中4球しか投げられなかったが、一冬取り組み続け、何とか6球投げ込めるだけのコントロールを身に付けた。
現在はピッチャーがベンチ入りするための登竜門、昌平の名物練習となっている投げ込みをこなした米山。この成果が昨夏の春日部共栄戦の勝利につながったが、それだけではない。大会前に習得した投球フォームも大きな成長につながった。
[page_break:“やんちゃ坊主”が埼玉の夏を熱くする!]“やんちゃ坊主”が埼玉の夏を熱くする!
左:立ち 右:フリックの動き方
米山の投球フォームの特徴は踵着地だ。これは以前の取材で取り上げた(埼玉県屈指の本格派左腕・米山魁乙(昌平) スピードガンでは測れない圧力あるストレートは必見!)通り、ボールに力を集約するためだ。そこに補足するとすればタイミングだ。
「踵が着地したタイミングから力を入れ始めて、つま先がついた瞬間にリリースするとコントロールと切れが良くなりました。なので、ここのタイミングが合わないとコントロールも切れもばらついてしまいます。だからタイミングがポイントです」
ただ米山のチェックポイントは踵着地以外に2つある。まずは右足を挙げた時の姿勢だ。
「右足を挙げた時に猫背になったり、後ろに仰け反るとキャッチャー方向へ真っすぐ右足を踏み出せず、インステップになったりするので、体の開きも早くなります。そうするとコントロールや切れが悪くなるので、右足を上げた時の姿勢は真っすぐにできるようにしています」
米山はこれを“立ち”と表現する。この“立ち”をしっかりできたら、もう1つのチェックポイントに入る。それを“フリック”という。
「“立ち”からクッションを入れるわけではないですが、一度軸足を折って左の股間節にタメを作ります。こうすることで力を入れることができるですが、逆にここができずに“立ち”からそのまま真っすぐ行ってしまうと、力が入りません」
これをモノにしたことで米山は最大の武器、球速以上のストレートを投げ込めるようになり、昨夏は北埼玉でベスト4進出。惜しくも甲子園に手は届かなかったが、確実に結果を残した。
だが昨秋は東部支部予選で花咲徳栄に敗戦。「少しでも甘いボールを投げると長打にされました」と反省を口にし、もう一度コントロールを磨くべく、このオフは再び300球の投げ込みを行い、10球中9球まで投げ込む確率を上げた。さらに昨秋に高速スライダーをモノにした。
高速スライダーの握り
「大学や社会人の練習に参加する機会があるんですが、そこで『ストレートと同じ軌道で曲げた方が打たれにくい』ことがわかりました。なので、ストレートと同じ感覚で投げるようにするためにカットボールのつもりで投げていたら、習得できました」
その場で直接握りを見せてもらうと、ストレートとほとんど変わらず、縫い目にかけてつぶす感覚でリリースをする。ストレートと変わらない握りとリリースで、米山は高速スライダーを習得した。
さらに精度を上げたストレートと高速スライダーをひっさげ、春季県大会でベスト8まで勝ち進む。関東大会まであと一歩のところで迎えた準々決勝。昌平は浦和実と対戦。この試合も先発のマウンドに上がった米山だったが、10奪三振を見せるも3失点。チームも1対3で敗れ、関東への切符を掴むことはできなかった。
「序盤はよかったですが、3回からバランスが崩れていました。それに気づくことができなかったこともそうですが、相手は変化球に対策を立ててきたみたいで、試合の時はストレートをカットされました。そこでカウントを稼ぎに行った変化球を打たれました」
米山魁乙
残すは夏の大会のみ。そこに向けて、「今まであと一歩で負けて悔しい思いをしていますので、夏こそは甲子園に行きます」と意気込みを語った。
チームメイトや黒坂監督からは「やんちゃ坊主」と言われる米山だが、インタビューを通じて感じられるのは真っすぐで野球に対して真摯に向き合えることだ。そんな姿に自然と心が惹かれた。
そんな米山は横浜DeNAベイスターズの今永昇太を理想としている。
「真っすぐも変化球も切れがいいので、参考にさせてもらっています」
文=編集部
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