夏のパフォーマンスを支える飲み物とは
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
暑い時期に行うスポーツは熱中症対策を万全にしなければなりません。野球は屋外で行うスポーツであり、夏の地方大会はどうしても外気温の高い状態で試合をすることが多くなります。そこで今回は練習や試合などで心がけたい熱中症対策の中でも、基本となる水分・塩分補給と運動に適した飲み物について考えてみたいと思います。
体に浸透しやすい濃度を考える
適切な塩分・糖分を含む飲み物をこまめにとろう
熱中症予防の水分補給として、日本スポーツ協会では0.1〜0.2%の食塩(ナトリウム40〜80mg/100ml)と糖質を含んだ飲料を推奨しています。特に運動時間が長くなる場合(1時間以上〜)は4〜8%程度の糖質を含んだものを摂取することでエネルギー源の補給とともに、より速く体内の水分量が回復するという研究もあります。砂糖(ぶどう糖と果糖が1分子ずつ結合したもの)が含まれた飲料水は、腸での水分吸収を加速させる効果が期待できるだけではなく、選手が「おいしい」と感じるものは飲みやすく、十分に必要量を摂取しやすいため、結果として脱水状態の予防・改善に役立つと考えられています。
《アイソトニック飲料》
体液と同程度の糖分、電解質(塩分)を含む飲料です(糖質濃度は約8%)。体液と同じくらいの浸透圧であるアイソトニック飲料では水分・糖分・塩分がバランスよく吸収されますが、発汗により塩分が多く排出されると体液の浸透圧は低くなり、ハイポトニック飲料に比べて水分の吸収スピードは少し遅くなります。
《ハイポトニック飲料》
体液よりも低い濃度の糖分、電解質を含む飲料です。人間の体液と比べて浸透圧が低く、水分の吸収が速いとされています。そのため、運動中や運動後で水分補給が早急に必要な場合には、ハイポトニック飲料が適しているといわれています(糖質濃度は約2.5%)
【経口補水液がおいしいと感じるとすでに脱水状態?】
ドラッグストアやコンビニなどで手に入る経口補水液は、脱水症状が見られる場合に素早く対策をとるために開発された飲み物です。基本的には脱水状態の人に対して水分補給を行う目的で作られているため、アイソトニック飲料やハイポトニック飲料などよりも電解質の濃度が高い(塩分濃度が高い)ことがその特徴として挙げられます。脱水症状が起こった場合、病院では主に点滴によって体液に直接水分を補給しますが、この点滴液を経口から摂取できるようにしたものが経口補水液です。
ベンチ裏などに経口補水液を準備することもあると思いますが、脱水症状を起こしていない選手が予防的に飲むものではなく、むしろ脱水傾向のある選手に積極的に飲んでもらうためのものであることを理解しておきましょう。脱水を起こしていない選手が経口補水液を飲むとあまりおいしいと感じませんが、脱水状態にある選手は経口補水液を「おいしい」と感じることが多いようです。
スポーツドリンクを薄めて飲む理由
氷をうまく使いながら飲み物の温度を調節しよう
スポーツドリンクは飲みやすさと体内への吸収効率を考慮して、水分、塩分、糖質などをバランス良く含んでいますが、汗をかけばかくほど汗から塩分が排出されるため、体液の浸透圧は低くなり、水分の吸収スピードは遅くなります。体液と同程度の糖分濃度を持つアイソトニック飲料は運動前の糖質補給としても役立ちますが、運動が長時間にわたってくると水分補給の遅れが脱水症状につながってしまうことがあります。このような場合はスポーツドリンクを少し水で薄めるようにするとハイポトニック飲料に近い糖分濃度にすることができ、すみやかな水分補給に役立ちます。スポーツドリンクの中でも粉末タイプのものを選び、運動前は通常の割合で飲み物を準備し、試合の中盤から後半にかけては少し多めの水で糖分濃度を薄めるようにすると、脱水症状の予防に役立ちます。
【飲み物の温度にも注意しよう】
飲み物の温度については8〜13℃程度のやや冷たさを感じる程度のもの、常温のものが望ましいと言われています。暑い時期は冷たい飲み物がほしくなりますが、あまりにも冷えたものを飲んでしまうと胃腸を冷やしてしまい、消化・吸収能力が低下してしまうためです。ただし糖分の入っている飲み物を屋外で長時間放置しておくと品質の劣化につながってしまうため、あらかじめクーラーボックスなどで保管しておき、必要に応じて飲むようにすると過度に冷えるのを防ぐことができます。
【体重や尿の色・量などで脱水になっていないかを判断する】
脱水を予防するための水分補給の基本をおさらいしておきましょう。
1)汗で失った量と同等の水分補給をする
2)体重の2%以上の水分を失わないように注意する
3)水分はこまめに摂取する
4)スポーツの前後と途中に水分補給を行う
5)電解質も補給する
普段から運動前後で体重測定を行っておき、運動後に体重がどのぐらい減少しているかを把握することが大切です。体重の2%以上減少しているようであれば水分補給が間に合っていないことが示唆されます。この他にも体重測定がむずかしい場合は尿の色や量などから判断することもできます。運動後の尿の色が明らかに濃くなっていたり、量が極端に少ない場合はこれも脱水予備軍であると言えるでしょう。
水分補給をおろそかにしてしまうと、コンディションを崩してパフォーマンスにも影響が及び、結果として実力が発揮できなかった…ということにもなりかねません。暑い時期に適した水分補給を改めて確認し、それぞれのパフォーマンスに役立ててくださいね。
【夏のパフォーマンスを支える飲み物とは】
・0.1〜0.2%の食塩(ナトリウム40〜80mg/100ml)と糖質を含んだ飲料を基本とする
・スポーツドリンクは糖質の濃度によってアイソトニック飲料とハイポトニック飲料に分けられる
・経口補水液は脱水の予防ではなく、脱水状態の改善を目的として使う
・アイソトニック飲料は糖質の濃度が高いため、必要に応じて薄めて飲むようにする
・飲み物の温度は8〜13℃程度のやや冷たさを感じるものがよい
・運動前後の体重測定や尿の色・量などから脱水になっていないかを判断する
(文=西村 典子)
次回コラム公開は7月15日を予定しております。