「強さ」と「女性らしさ」を追い求め続ける!埼玉栄女子野球部(埼玉)に訪問
女子高校野球の名門として、広く名前が知られている埼玉栄女子野球部。OGには、埼玉アストライアで活躍する磯崎由加里選手や、奥村奈未選手といった女子プロ野球選手もおり、女子高校野球界では名門として広く認識されている。
今回は、そんな埼玉栄女子野球部に訪問し、チームのこれまでの歩みや育成方針、チームの雰囲気について迫っていく。
監督はみんなにとってパパのような存在
キャッチボールをする選手たち
日本のスポーツ界には、昔から厳格な上下関係や勝利至上主義など、男女を問わず非常に厳しい世界であるイメージが付きまとっている。
だが埼玉栄女子野球部は、女子高校野球の名門でありながらそういった側面が一切ない。むしろ、「和気あいあい」とした雰囲気に近いものを感じる。
「鈴木監督は、みんなにとってパパのような存在です。安心感がありますし、たまにみんなの前でボケてくれたりもします」
そう語るのは、チームの主力選手の一人である藤田捺己(なつき)選手だ。埼玉栄女子野球部を率いる鈴木佑監督は、選手たちから非常に慕われている存在であり、鈴木監督自身も選手たちが安心して練習できる雰囲気作りを心掛けている。
「あまり厳しくやってもなと思っているので、できる限り選手たちがプレーしやすい環境を作りたいと考えています」
埼玉栄女子野球部を率いる鈴木監督が、監督に就任したのは昨年のことだ。これまで18年間にわたってチームを率いてきた、斎藤賢明前監督からチームの指揮を引継ぎ、監督として指導を行うようになった。
打撃練習を行う選手たち
鈴木監督は、大学を卒業後に埼玉栄へ赴任し、同時に女子野球部の顧問にも就任。以来、17年にわたってチームの指導にあたってきたが、就任した当初はまだ部員も少なく、設備も十分に整っていなかったと振り返る。
「当時はまだネットもなく、本当に何もない状態でした。部員も少なくて、野球をやってる女子選手がいると噂を聞けば、すぐに行くようなレベルでした。
少しずつ斎藤先生とグランドを整備し、時には保護者の方々もネットを張ってくださったり、そうして徐々にグランドを整備していきました。今では専用のグランドがあることで、ウチに選んでくれる選手も多くいます」
女子高校野球の存在が全国に広まるにつれて、競技人口も増加し、部員もどんどん増加。女子プロ野球リーグの設立も追い風となり、裾野が広がった女子高校野球界で、埼玉栄女子野球部は名門としての地位を確立したのだ。
「現在は、部員も54名程おり、私たちから(勧誘に)行くことはなくなりました。逆に体験会などを開いて、ウチを気に入ってもらったら受験してもらうやり方で運営しています」
[page_break:「女性らしさ」を大切にして欲しい]「女性らしさ」を大切にして欲しい
ボールやネットを運ぶ選手たち
そんな鈴木監督が、指導をしていく上で大切にしたいと語るのは、女子野球部ならではのものだ。
鈴木監督は選手たちと練習を過ごす中で、同じ野球選手でも男子にはない「女性らしさ」を感じる瞬間が非常に多くあると話す。スポーツの現場の中であっても、そんな彼女たちの「女性らしさ」を大切にしていきたいと話す。
「仕事で練習に参加できないと話すと、いつも彼女たちは『仕事なんていいから練習に来てくださいよ』と言いいます。
ですがある時、子どもが熱を出したから練習に参加できないと話すと、彼女たちは『練習なんていいから、早く返って子どもの面倒を見てあげてください』と言いました。
そういった彼女たちの『女性らしさ』は、大切にしたいなと思いますね」
選手たちから「パパのような存在」と声が上がるのも、鈴木監督のこうした考え方が大きく影響しているのだろう。
そんな埼玉栄女子野球部も、この春は非常に悔しい敗戦を経験した。
現在の3年生は、1年時に全国優勝を経験しており、当時1年生ながら出場していたメンバーもいる今年のチームであるが、今年3月に行われた第20回全国高等学校女子硬式野球選抜大会では準決勝で敗退。相手の好投手を打ち崩すことが出来ず、6対0の完封負けを喫したのだった。
主将としてチームを引っ張る石垣麻弥乃選手
鈴木監督は、夏には再び全国制覇を掴むために、選手たちに実戦での強さを求める。
「練習では出来ていることが、試合では出来ないことが多いと感じています。より試合で力を発揮できるようなチームにしていきたいですね」
もちろん選手たち自身も、チームの課題は十分に自覚している。
中でも主将で4番を任される石垣麻弥乃(まやの)選手は、チームの課題をさらに分析し、より試合で力を発揮できるチームを作っていきたいと語る。
「練習で出来ていることが、試合で出来ていないのは、試合やピンチの場面になると焦りがでて、自分のことだけに集中してしまうからだと思います。どんな時でも、冷静にプレーできるようになることが、夏に向けての課題だと思います」
「和気あいあい」とした雰囲気の中にも、虎視眈々と全国の頂点を狙っていく点も大きな見どころである。
「強さ」と「女性らしさ」を追い求め続ける埼玉栄女子野球部。この夏の戦い、そして今後の活躍にも注目だ。
(取材・栗崎 祐太朗)