21世紀枠として今年の選抜に出場。
盛岡大附をあと一歩まで追い詰めたエース・岩本大地。
印象に残ったのは、投手としての完成度の高さだ。
常時140キロ台のストレートは回転数が高く、縦横のスライダー、カットボール、チェンジアップも器用に操る。これまで21世紀枠に出た投手で、140キロが出る投手、フォームが良い投手は見てきたが、速球、変化球の精度、フォームの精度も高い投手は見たことがない。なぜここまで高クオリティな投球が実現できるのか?その秘密を探るべく、石岡一高に足を運んだ。
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140キロ後半の速球を投げるまでのプロセス
ピッチング練習をする岩本大地(石岡一)
「甲子園が終わってから、地元の方々から声をかけられることが多くなりました」
岩本は甲子園後の反響をそう振り返る。地元・石岡市出身の岩本は地元住民にとってまさにスター。声をかけられるのも無理はない。甲子園での話を聞きながら、早速、本題の投球論に迫ってみた。
八郷中時代からオール茨城に選ばれ全国大会を経験。当時から130キロ中盤の速球を投げ込んでいた岩本は、高校入学へ向けて硬式球の練習を行った。最初はなかなか馴染めず苦しんでいたが、キャッチボールするうちに、軽く添えるようにして投げれば良い感覚で投げられることに気づく。
「力を入れすぎると、腕の動きが固くなっていることに気づきました」
入学してすぐに公式戦で起用されるようになったのも、順応力の高さがあったからだろう。こうして1年春にして関東大会1回戦・健大高崎戦で先発マウンドを任された。
「あのときは何も考えずに投げていたと思います。実際に通用しなかったですが、1年春から選抜ベスト8の健大高崎相手に投げる事ができてよかったと思います」
打たれた経験を練習の糧として、岩本は体作りに取り組んだ。ウエイトトレーニングや食べる量を増やして2年時には体重を70キロから76キロまで増やした。また投球が抜けたり、シュート回転していることに気づいた岩本は下半身主導のフォームで投げる意識を高めた。
その結果、球速も最速147キロまでレベルアップ。岩本自身、「1年生の時と比べても目一杯力を入れなくても速いボールを投げられるようになった」と手応えを感じていた。ただそれだけでは通用しないと感じたのが2年春の県大会の日立一戦だ。立ち上がり146キロを連発するも、5回途中まで4失点で負け投手となった。この試合で岩本は速さにこだわることを辞めた。
「あの時期は高校に入って球速表示としては一番出ていた時期だと思います。ただ結果として出なかったので、速いだけでは通用しないんだなと感じましたね」
[page_break:4種類の変化球の投げるポイントを解説!]
4種類の変化球の投げるポイントを解説!
トレーニング用のゴムを引っ張る岩本大地(石岡一)
その後、速さに頼らない投球を心がけたが、なかなかうまくいかない。新チームがスタートして、2年夏の練習試合で3イニング11失点を喫した試合があった。ここで変化球をしっかりと磨き直すことを選択した。
「当時の自分はストレート以外、武器になる変化球がなかったんです。あの試合から変化球を磨き直したんです」
岩本は苦い経験を糧にして、総合力の高い投手として一歩ずつステップアップすることになる。
まず着手したのはスライダーを磨くこと。スライダーはカット系のスライダー、縦横のスライダーの3種類を投げるが、そのポイントや使い所を解説してもらった。
カット系のスライダー
カット系のスライダーの握り
腕の振りはストレートと変えないことです。力を入れすぎず、リリースの瞬間にショート気味に切るイメージで投げます。他のチームは速いストレートを標準に置いて練習しているので、ストレートのような軌道で曲がる変化球を投げたいと思っていたので大きかったです。外に切るイメージは前田健太投手を参考にしました。
縦横のスライダー
縦横のスライダーの握り
縦横を投げ分けますが、握りは同じです。違うのは、リリース時の意識です。横のスライダーは指で切るイメージで、縦のスライダーは縦に抜くイメージで投げます。
そして岩本の武器であるチェンジアップも解説してもらった。チェンジアップについては中学校から投げていて本人も自信があったが、高校に入って当てられる事が多く、なぜなのかと考えた時、腕の振りが変わっている事に気づいた。ストレートと同じ腕の振りで投げられるようにするために、握り方、投げるポイントを考えてきた。
チェンジアップ
チェンジアップの握り
僕は真ん中の指を浮かせて握っていて、ポイントは人差し指と親指です。人差し指と親指を強く握って、投げる際に上手く抜くことで、縦に落ちるのですが、軽く添えて抜くとシュート気味に落ちていきます。この投げ分けを打者の反応を見ながら工夫をしてきました。
岩本に変化球を解説してもらって気づいたのは他の投手と比べてひねる動作が多いことである。ここで気をつけているのはひねるのは肘ではなく、指だ。極端にひねるのではなく、意識的に指を軽くひねることで、変化を与えている。
こうして、2年秋の県大会前には変化球を完成させた岩本。その効果はてきめん。正捕手の中山は「岩本さんのスライダーはストレートのような軌道から曲がっていくので、非常に打ちにくさを打者は感じていたと思います」と振り返る。
2年秋ではベスト4進出。自信を深める大会となった。こうした活躍が評価され、21世紀枠に選ばれ、初めての甲子園出場を実現した。
前編はここまで。後編では変化球のことを中心に話を進めつつ、迫る選抜への意気込みを伺いました。後編もお楽しみに!
文=河嶋宗一