東海地区屈指のスラッガー・石川昂弥(東邦)が目指すのは「甲子園」と「世界」での活躍!
好投手が多く揃う2019年の高校生たち。野手ではトップと呼ばれるのが、東邦の石川昂弥だ。185センチ81キロと恵まれた体格から場外級の飛距離を放てるパワーを秘め、右中間にも本塁打が打てる技術を兼ね備えたスラッガーとして1年生から活躍。ここまでに高校通算37本塁打まで到達。また最速144キロを誇る地肩の強さを生かした三塁守備は見逃せない。
今回はそんな石川にインタビュー。これまでの野球人生の歩み、打撃面で意識していること、2019年の意気込みを伺った。
小・中からエリート街道を歩み 高いレベルで野球を学ぶ

石川昂弥
石川の野球人生の始まりは小学校2年生から。ツースリー大府に入団すると、「当時の指導者は今まで教わって指導していただいた中でも厳しい指導者でした」と振り返るように、厳しい環境の元、石川は実力をつけていき、小学校6年生時には中日ドラゴンズジュニアとしてジュニア・トーナメントに出場する。
そのメンバーには東邦の正捕手となる成沢 巧馬、静岡の外野手・齋藤 來音、公私ともに仲が良く、ドラフト候補として注目される巧打の外野手・稲生 賢二(愛工大名電)など、そうそうたる顔ぶれがいた。
そして愛知知多ボーイズに進むと、ショートをメインにしながら投手もこなし、130キロ台のストレートを投げ込むほど。自慢の長打力はますます磨かれ、本塁打も打てる大型打者として注目を浴びる存在となっていた。そして中学3年時にはNOMOジャパンに選出され、西純矢(創志学園)、黒川史陽(智辯和歌山)とともにプレーした。
このメンバーには東邦でプレーすることになる植田 結喜投手(浜松ボーイズ出身)は、「打撃もすごかったですけど、守備もしっかりとさばいてくれるので助かった記憶があります」と守備力の高さをたたえる。
石川は本場・アメリカのレベルの高さを痛感する。
「アメリカの投手は速いですし、ボールも動くので、打ちにくさを感じました。それでも良い経験となりました」
そして中学野球が終わると、石川が選んだのは、かつて両親が通っていた東邦だった。
「東邦野球部にはずっと憧れがありました」
東邦の門をたたくと、さっそく上級生を驚かせるバッティングを見せる。
感覚を重視し、打撃開花

バッティング練習をする石川昂弥
東邦高校の東郷グラウンドはレフト方向に雨天練習場があるが、その屋根を超える本塁打を放った。あまりの飛距離に3年生は一様に驚いていたという。1年春からベンチ入りを果たすが、指のケガもあり、レギュラーに定着したのは1年秋からだ。それまで投手の変化球の精度の高さに苦しんだ石川は打撃フォームを矯正した。左足を高く上げていたフォームを徐々にすり足気味にしたのだ。
「振りは別に小さくならないですが、タイミングを取る時に摺り足にすることで、目線がブレないし、ボールを長く見られるので、フォームを変更しました」
そうすると当たりが出始める。1年秋、最も真価を発揮したのが東海大会・準決勝の三重三重戦だ。8対9と1点ビハインドの9回表、石川は右中間へ逆転2ラン本塁打を放つ。
「大事な場面でしたし、あの一打で甲子園が近づいたので、嬉しかったです」
甲子園行きをつなげた本塁打だけではなく、秋の公式戦では3本塁打と強打を存分に発揮した石川は、注目の2年生打者として花巻東戦に臨んだが、左腕・16345を打ち崩せず、4打数0安打に終わり、初戦敗退を喫した。
「甲子園は他の球場とは雰囲気が全然違うなと思いました。ただ打てなかったのでやはり悔しかったです」
この試合から左腕投手の対応が課題となり、石川は「左ピッチャーと対戦する際は、逆方向を狙って打ってました」と対応策を考え、また6月に大阪桐蔭と対戦したことも学びとなった。

大阪桐蔭戦での石川昂弥
大阪桐蔭打線を見て、
「甘い球を逃さないです。しっかりヒットにするので、やはり強いチームはああいうところが違うなという思いでやってました」と語る。
普段の練習から狙い球を逃さないことを意識して取り組んだ。また根尾 昂(大阪桐蔭)と対戦したことで、「切れのあるボールはなかなか打てないですが、それでも真芯で確実に捉えることと、しっかりコースを分けて打っていました」と話す。
こういう経験を重ねながら、夏の大会では19打数14安打12打点と大当たり。決勝戦の愛工大名電戦では内角球を振り抜き、弾丸ライナーでレフトスタンドへもっていった。試合には敗れたが、春から成長は見せた。
「好調な時は内角にもバットが出るので、どのコースでも打てます」
好調の秘訣は自分なりにルーティンを確立したこと。
「しっくりくる打ち方を探して、良くなったらずっと同じ練習をする。そして、打席に入る前に必ず自分が決めた動作を行って入るようにしてから変わりました」
石川は自身のことを「理論より感覚の選手」だという。4番ショートの熊田任洋は「やることはちゃんとやって、何を考えてるのかよく分からないんですが、考えてやっていると思います。バッティングをやっている途中に『掴んだ!』とか言っているので」と話す。
決められたルーティンをこなし、そして練習では自分にとってハマった感覚をつかむまで練習をする。そうすることで石川は高い潜在能力を引き出している。
[page_break:チームと球場の雰囲気を変える一打を甲子園で]チームと球場の雰囲気を変える一打を甲子園で

ピッチング練習をする石川昂弥
夏が終わると、石川は主将に就任した。主将・石川について、特に仲が良い松井涼太はこう証言する。
「率先して声を出して、動いたりもしていますし、尊敬しています。チーム全体も見れる選手でもありますし、スタートしたとき、キャプテンは昂弥しかいないと思いましたよ」
昂弥しかいない。これはどの選手も同じ思いだった。投手の植田によると大事なところでしっかりと引き締めるキャプテンだという。新チームスタート時、不安が多い状態だったが、石川はエースで3番という立場でチームを引っ張っていった。また石川は安定感ある打撃を求めてフォームもノーステップ気味にした。
「先輩の洞田さんが行っていた動作で、自分も真似てみたところしっくりきたので、ノーステップにしました」
秋の大会でも安定した打撃を続け、東海大会では自身がテーマにしていた右中間へ満塁本塁打を放つなど、好成績を残し、優勝に貢献。3年ぶりの明治神宮大会出場を決めた。初戦の八戸学院光星戦では右中間へ二塁打を打つなど、ただ本塁打を打つだけではないところを見せた。
だが秋の内容には満足していない。神宮大会後、石川は愛知県選抜に選ばれ、オーストラリア遠征を行った。石川はヘッドが重い木製バットの対応に苦しんでいるが、「これも良い経験」と受け止め、黙々と練習に励んでいる。
そして2019年、2度目の選抜出場が実現しようとしている。
「去年、先輩たちの代ですけど1回戦負けで、東邦の野球ができずに負けてしまったので、今年は自分たちが(借りを)返しに行きます。もちろん優勝も狙っていきます」
さらに9月に開催される2019年U-18ベースボールワールドカップに出場したい気持ちも持っている。
「やはりNOMOジャパンに選ばれているので、世界で戦いたい気持ちがあります。選ばれるよう、活躍していきたいと思います」
愛知県内、東海圏内では別格の活躍を見せてきた。東邦の選手たちの誰もが「打撃の飛距離、サードから見せる強肩は抜けています」と証言するほどの才能を、甲子園の舞台で発揮することができるか。
「昂弥が打つだけで、チームの雰囲気も球場の雰囲気もドーンと変わるので、そこは本当にすごいところです」と熊田が語るように、甲子園で石川らしい豪打を見せることができれば、東邦の全国での躍進。そして将来、プロを目指す石川の目標は大きく近づくことになるだろう。
文=河嶋 宗一