Column

松坂大輔が甲子園を席巻して、横浜が春夏連覇を果たした世紀末の1998年

2018.08.22

甲子園決勝でノーヒットノーランを達成した松坂の高校時代


春・夏連覇を成し遂げた、高校時代の松坂 大輔氏(写真は共同通信社より)

 時代が大きく変わるかと思われた20世紀から、21世紀へ移行する時代。世の中は90年代前半にバブル崩壊で、低成長時代となっていった。そんな中、消費税が3%から5%に引き上げられたのが97年。ありえないと思われていた大手金融機関の北海道拓殖銀行や山一証券が相次いで破たんしたのもこの年だった。まさに“世紀末”感が世の中を包んでいたのだが、一方で渡辺淳一の『失楽園』がテレビ、映画でも話題となり世の中の混沌状態に輪をかけたかのようでもあった。

 そんな世間の脱落感をよそに、甲子園には一人の「怪物投手」が出現した。メディアがこぞって「怪物投手」という表現を用いる存在は、73年の作新学院江川卓以来のことではないだろうか。それ程、松坂大輔という投手が素晴らしいということであろう。
 この時代の選手は、その後“松坂世代”などと言う呼び方もされるようになる。野球選手を高校野球の時代で、世代くくりをするようになったきっかけの年とも言えるのかもしれない(その後になって、遡って桑田と清原の“KK世代”や第55回大会の江川卓投手の時の“江川世代”という呼ばれ方をされるようになっている)。

 この年の高校野球の最大の注目は、松坂大輔を擁する横浜をどこが倒すのかというところだったが、まず春のセンバツでは、横浜が初戦では報徳学園を下す。2回戦では村田修一(横浜→巨人など)と大野隆治(ダイエー・ソフトバンク)のバッテリーと2年生の田中賢介(日本ハム)を擁していた東福岡に快勝。奈良郡山、PL学園も下して決勝進出し、関大一久保康友(ロッテ)にも投げ勝って、優勝を果たしている。

 こうして、前評判通りの強さを示して優勝した横浜は、やはり圧倒的に強いという印象を与えた。この年は記念大会でもあり、出場校数も増えて史上最多の55校が甲子園に集結したが、その序盤戦で最大の好カードと目されたのが2回戦で当たった横浜鹿児島実の試合だった。鹿児島実は1回戦でノーヒットノーランを達成した杉内俊哉が注目されていた。前半は緊迫した投手戦だったが、後半やはり横浜が地力を発揮し、4番打者でもある松坂は杉内から本塁打も放って6対0で快勝している。

 やはり、横浜は強いぞと思わせたが、真骨頂は準々決勝と準決勝である。今も語り継がれるこの両試合、PL学園との準々決勝は延長17回、横浜常盤良太の2ランで突き放して劇的に勝利している。後日、この試合に関しては三塁コーチャーにいた平石洋介小山良男捕手の癖を見抜いて、暗号として声を出しながら打者に球種を伝えていたということが報じられた。それだけの、質の高い情報戦ともいえる野球が展開されていたのだが、やがてこれが一つの切っ掛けにもなってか、走者やコーチャーが捕手のサインを盗むことを禁止するような動きになっていった。

 ただ、より研ぎ澄まされた質の高いチーム同士だからこそ、出来えたことであったということもまた確かである。


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最強世代と呼ばれる理由となった先駆者・松坂大輔


当時発売された「バイオギア」

 延長17回の死闘を制した横浜は、準決勝でも明徳義塾と奇跡のような試合を演ずる。8回表を終わって6対0。松坂の連投を回避していたため、二番手投手が先発したが、それが明徳義塾打線に掴まって中盤に失点を重ねていた。さすがの横浜もここまでと思われた。しかし、8回裏に横浜が4点を返すと俄かに空気が変わった。そして、満を持したかのように松坂が9回のマウンドに立った。もちろん、甲子園のスタンドは大拍手と歓声で包まれる。

 その期待に応えて松坂は、最後かもしれないマウンドでしっかり投げ切る。すると、その裏に横浜打線は巧みなバントなどもあってリリーフしていた高橋一正(ヤクルトなど)と再びマウンドに登った寺本四郎(ロッテなど)を攻略してサヨナラ勝ちを決めた。まさに、奇跡にともいえる展開の試合でもあったのだ。
 そして決勝は、京都成章に3対0で快勝するが、松坂はノーヒットノーランを記録するというおまけまでついた。決勝戦という最高の舞台で大記録を残したところにも、松坂の凄さがあったとも言えよう。

 ところで、この年の大会、投手としての目玉が松坂だとすれば、打の目玉としては豊田大谷古木克明(横浜など)がいた。その古木のいた豊田大谷宇部商と延長15回にボークで決着がつくという劇的な試合を演じている。

 なお、この年は“松坂世代”と呼ばれるくらいで、好素材が甲子園にも集結していた。その年のドラフト1位で横浜ベイスターズ入りした古木や、東福岡のバッテリーや前述の関大一・久保、鹿児島実・杉内、明徳義塾、寺本、高橋一正をはじめ、敦賀気比には東出輝裕(広島)がいた。さらには、浜田には和田毅(ソフトバンクなど)がいて、その浜田に3回戦で敗れた帝京には森本稀哲(日本ハム)がいた。そして、東の松坂に対して西の怪腕として沖縄水産新垣渚も高い注目を集めていた。その新垣を打った埼玉栄大島裕行(西武)も、スケールの大きな打者としてその将来性を高く評価されていた。

 今も語り継がれる松坂世代のスター選手たち。この年代に今では当たり前になりつつある用具が産声を上げた。それはアンダーシャツにコンプレッションタイプができたことである。

 その前まではルーズシルエットと呼ばれる少しゆとりのある着心地で、アンダーシャツは主に汗を拭きとる役割を担っていた。そのため、吸汗速乾性能が機能として必要とされていた。しかし2000年代に入ると、コンプレッションタイプのアンダーシャツ「バイオギア」が登場した。

 これにより、ゆとりのある着用方法からぴったりと身体にフィットした着用方法という目に見える変化が起きた。それに伴い、アンダーシャツには吸汗速乾性だけではなく、ストレッチ性も必要とされてきた。

 「バイオギア」の誕生が、野球だけに止まらず、現在の全スポーツにおけるトレンドになったのは間違いがない。

文=手束仁


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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