龍谷大平安を破る原動力となった大杉渉太(東山)成長を生んだ苦悩の日々
5月14日、京都大会二次予選であっと驚く出来事が起きた。この夏、甲子園100勝を目指す龍谷大平安が破れたのだ。龍谷大平安は高校通算50本塁打の松田憲之朗、140キロを超える速球を投げ込む小寺智也、最速148キロ右腕・島田直哉など大型選手を多く揃えたチーム。その龍谷大平安を破ったのが東山である。勝利の立役者となった正捕手であり、主将の大杉渉太とはいったいどんな選手なのか。
最後まで粘り強くリード
本塁打を打った大杉の連続写真(東山)
東山の足立監督は龍谷大平安を破るキーマンとして投手陣と捕手・大杉をあげていた。龍谷大平安打線を抑えるためにどんな配球を考えたのか。足立監督とバッテリーが考えたのは内角と、高めの速球でしっかりと攻めることだった。足立監督はその意図について詳しく教えてくれた。
「龍谷大平安さんはベルトラインから低めに対して強いスイングができる打線なんです。だから内角や高めをどれだけ使えるかがカギでした。ただ半端な速球では高めも絶好球になってしまうので、威力ある速球を投げる小山湧平(背番号10)が先発になったんです」
先発した小山は1回裏に1点を失い、4番松田憲之朗を打席に迎えた。1ボールからの2球目。内角直球を投げ込みどん詰まりの二飛。内角球を要求した大杉は「あれで小山のストレートは十分通用すると思いました」と手応えをつかんだ。
そして2回表、大杉が第1打席に立った。龍谷大平安の背番号1・小寺智也が得意とする自信満々のストレートを振り抜き、レフト越えの二塁打。その後、3点を先制。大杉の二塁打がなければ。3点はなかった。
その後、先発の小山、2番手の日柴喜、3番手の高橋が粘り強く抑える。何度も走者を背負う苦しい場面の中、大杉が考えていたのは投手を信じることだけだった。
「平安戦だけではなく、それまでの試合でも何度でもピンチを迎えながら、みんな粘ってくれて抑えてくれたので、自分は信じてリードをして、後ろにそらさないことを考えていました」と振り返った。
足立監督は「彼は野球をよく知っている選手。ただ先を見すぎてプレーが軽率になることがありました。しかしこの春から、ピンチの場面で後ろにそらすことがなくなりました。それがあったからこそ投手陣は粘り強く投げることができて抑えることができたのでしょう」と大杉の守備の安定感をたたえた。
[page_break:粘り強さがある負けず嫌いになった]粘り強さがある負けず嫌いになった
勝利を決めた東山
9回表、大杉は4回目の打席に入る。
「小寺投手のストレートは速いですが、カウントを取りに行くストレートは力がないので、それを狙っていきました」と、決めた打席は見事に直球をとらえレフトスタンドへ本塁打。大杉にとって公式戦初本塁打は勝利を手繰り寄せる大きな一打となった。
9回裏、龍谷大平安の強力打線を抑え、準決勝進出。マークしていた4番の松田を3打数0安打に抑えるなど会心の勝利だった。大杉は「うまくチームが粘ることができてよかった」と喜んだ。
1年秋から正捕手として公式戦に出場している大杉。2年夏も正捕手としてマスクをかぶったが、自身のミスで敗れた苦い経験がある。それでも、前チームの3年生が、大杉の経験値の高さを評価して、主将として推した。
だが、最初はなかなかチームがまとめらず苦しんだ。大杉は当時をこう振り返る。
「どんな練習よりも、チームが思うようにまとまらないことが一番苦しかったです」
それでも大杉が粘り強くミーティングを重ね、チームがまとまってきたのは今年の3月下旬だった。秋までは自滅した形で敗れることが多かった東山だが、粘り強く試合運びができるようになった。足立監督は大杉の精神面の成長が大きいという。
「大杉は根っからの負けず嫌い。しかし以前は粘り強さがなかったんですが、主将の経験を経て、粘り強い負けず嫌いとなり、我慢強いプレーもできるようになりました」と成長ぶりに目を細める。
精神面の成長が、龍谷大平安を破ったカギとなったのだろう。
「強い相手が続きますが、粘り強く戦っていきたい」と次戦へ向けて気を引き締めていた。
次戦でセンバツ出場の乙訓に敗れこそしたものの、負けず嫌いと粘り強さを全面に出して、最後の最後まで相手を追い詰めた。夏に向けてもう一歩成長した大杉が見据えるのは、東山にとって16年ぶりの聖地だ。