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第99回全国高校野球地区大会を振り返って「伝統校と新鋭校が入り混じった今年の東海地区」

2017.08.03

第99回全国高校野球地区大会を振り返って「伝統校と新鋭校が入り混じった今年の東海地区」 | 高校野球ドットコム
伊藤 稜(中京大中京)

 東海四県の代表校は、静岡藤枝明誠三重津田学園が初出場。一方で、愛知は名門中京大中京が2年ぶり28回目の出場。岐阜も3年ぶり4回目の出場となった大垣日大で、こちらはいわば常連校である。

 そして、いずれも春季大会はベスト4以上に進出しており、大垣日大津田学園東海地区大会に進出し、大垣日大は準優勝している。そういう意味からも、やはり直近の春季大会の実績は夏に繋がっていくということを再認識させられた。

下馬評通りの力を見せた中京大中京

 全国で初出場校は6校しかない中で、東海4県のうち2県で初出場校が出たということも特徴的だったと言えよう。それは、近年の東海地区では新しい勢力が台頭してきているということを表しているのではないだろうか。

 名門校の中京大中京が勝ちあがった愛知大会。結果的には、下馬評通りに中京大中京が、攻守のバランスの良さを示した形となった。とは言うものの、ベスト4の段階では、勝ち上がれば春夏通じて甲子園初出場となる可能性の栄徳豊橋中央が残っていたのも印象に残った。それぞれ、東邦中京大中京に挑んで、新旧の対決という形になった。栄徳東邦に快勝して、2度目の決勝進出となったが、最後は伝統校の壁に跳ね返された。それでも、大活躍した捕手の野口泰司君と石原 水輝君の中軸打者が2年生でもあり、秋以降へ向けては、大きな自信となっているであろう。

 1983年に愛知の古豪享栄の分校という形でグラウンド脇に創立した栄徳だが、その後独立して享栄がグラウンドを瀬戸市に移したのを機に、享栄の旧グラウンドを専用球場とした。天理から同志社大と進んで、享栄でコーチを務めていた中野 幸治監督が就任したのが92年。以来、四半世紀を経て、県内でも上位を争う強豪に成長した。

 準決勝では、昨年同様東邦と当ったが、何度も壁として阻まれてきた東邦にやっと勝利した。「今年は、一番可能性はあるかなとは思っていました」と、中野監督は喜んだが、その原動力は今大会県内一番の投手と言われていた釜谷 竜哉君だった。

 まずは、享栄に追いつけ追い越せというところから始まったチームだった。やがて同じ尾張地区の愛知啓成もライバルとして、そしてさらに伝統校の東邦の壁を破って、一つひとつ階段を上っている。

 階段を上っているという点では、豊橋中央も同じだった。前年にチームとして初めてのベスト8に進出して、この夏はもう一つ階段を上ってベスト4。

 15年前に、わずか二人で同好会からスタートした野球部。その創設時から熱い思いで指導する樋口靖晃監督は、「準決勝の景色はまた違ったものがありました。これだけの観客に見守られてプレーするということもそんなにあることではありません。それでも、選手たちは普通にやれたということで、また一つステップは出来たのではないかと思っています」と、チームの歴史とともに歩む喜びを表していた。

[page_break:新勢力の台頭が各地で発生]
第99回全国高校野球地区大会を振り返って「伝統校と新鋭校が入り混じった今年の東海地区」 | 高校野球ドットコム
水谷 翼(津田学園)

新勢力の台頭が各地で発生

 こうした、新勢力の台頭が東海各地で発生しているとも言えよう。
春夏通じて初出場となる藤枝明誠は、昨秋2年連続で東海地区大会出場を果たしたことも大きな自信となった。「去年は、ただ出場したというだけでしたが、今年は勝つことを目標として本気で甲子園を目指せるチームにしたい」という思いを語っていた光岡 孝監督。愛知県の中京大中京出身で、母校を率いる高橋源一郎監督の一つ先輩である。嬉しい、母校と並んでの出場となった。

 昨秋の東海地区大会では初戦突破美濃加茂に5対1)して、2回戦中京大中京と対戦。その時は、先制しながらも6回に3点を奪われ逆転負け。「どこが相手でも、負ければやはり悔しいです。学校としての差もさることながら、選手の能力の差もありました」と、脱帽していたが、確実にその負けバネにした。今大会では準決勝で大本命と言われた静岡を打撃力で粉砕。その勢いで、悲願の甲子園にたどり着いた。

 独特のフォームで、身体を逆「く」の字に曲げるようなフォームの久保田 蒼布君も、一冬越えてさらに安定感を増している。決勝では28年ぶりの出場を目指す日大三島と対戦したが、局地的集中豪雨の影響で、大量リードしながらも、3時間以上の中断を余儀なくされた。それでも再開後には、それまで以上の爆発力を示して大勝した。その気持ちの維持の仕方、集中力は十分に甲子園でも戦えると言っていいであろう。

 また、静岡大会では、伝統校の浜松商がベスト4に進出したことも、古くからのファンを喜ばせた。常葉大系列校(今大会は常葉菊川常葉橘ともにベスト8)の躍進で勢力構図が大きく変わったと言われている静岡大会。フレッシュなところでは、加藤学園のベスト8進出もあった。

 三重から初出場を果たした津田学園は、春は96年02年の2度出場実績はあるが、悲願の夏の甲子園出場となった。創立30周年を機にスクールカラーの緑を基調としたユニフォームに新調した効果もあったと言えよう。春季東海地区大会では大垣日大に大敗を喫したものの、それも学習材料とした。「全国で戦えるチームとしての意識作り」も徹底してきた佐川 竜朗監督。PL学園→明治大→日本通運と王道を歩んできたが、08年に社会科教員として赴任し、寮監も務めながら苦労してきての悲願達成となった。

 近年、三重県は菰野いなべ総合の両校がライバル的関係で引っ張ってきており、今大会でも準々決勝で直接対決があり、岡林 飛翔君が投打に注目されていた菰野が勝利。その勢いを準決勝で止めた津田学園が、決勝でも三重に競り勝った。また、一昨年の代表校の津商もベスト4に進出。全国的に私学勢が優勢な傾向が目立つ中で、公立校が食い下がっているのも、三重県の特徴と言っていいであろう。

 岐阜大会は、決勝の顔合わせは去年と同じカードとなったが、今年は大垣日大中京学院大中京(昨年までは中京)に雪辱を果たして、3年ぶり4回目の出場を果たした。

 大会序盤で県立岐阜商が敗退して話題となったが、代わって市立岐阜商が健闘してベスト4に進出。また、大垣商も4強入りで、公立の実業校が頑張っているという岐阜県の勢力構図を何とか維持した。加納や県岐阜商を下した海津明誠などの健闘も光った。ただ、県外生を多く迎えて戦力を整えている、決勝進出した両校に対して、やや力の差があるという現実も否めないものがあった。

(文/手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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