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兵庫のシンデレラボーイ!報徳を追い詰めた167センチの剛腕・山本拓実(市立西宮)

2017.07.25

 全国的にも好投手が多い兵庫県。その中で注目度ナンバーワンピッチャー・山本拓実市立西宮)だ。167センチの小柄から投げ込む直球の最速は147キロ。今年の春季大会で報徳学園相手に、1対2と接戦を演じ、大きく話題となった。

 そしてその力強い投球ぶりに、NPBスカウトは熱視線。25日、ほっともっとフィールドで報徳学園との再戦が実現。この試合でも多くのNPBのスカウトが山本を見守っていた。野球ファンの方ならば、ご存知かもしれないが、小柄な右投手は敬遠されやすい。それでもなおNPBのスカウトから注目される理由、選抜4強・報徳学園を8回一死まで無失点に抑える快投を見せた理由を紐解いていきたい。

ここまでのプロセスはまさに今年の兵庫のシンデレラボーイ!

兵庫のシンデレラボーイ!報徳を追い詰めた167センチの剛腕・山本拓実(市立西宮) | 高校野球ドットコム
山本拓実(市立西宮)

 今年の兵庫のシンデレラボーイだ。昨秋、山本は阪神地区の敗者復活戦で敗れて県大会出場を逃している。秋の大会が本格化するのは9月から。注目度が高まり、報道量も多くなる県大会前に敗れているのだから、山本の名前が挙がってこないはずである。

 秋、県大会に進めなかったチームのエースが、春に突如、県大会ベスト8まで勝ち進み、選抜4強の報徳学園に2失点の力投を見せ、さらに145キロの速球を投げ込むまでの投手に成長していたのだ。ワクワクするような活躍はまだ続く。山本の噂を聞いた、大阪桐蔭西谷浩一監督が、市立西宮吉田俊介監督に申し込んで6月に練習試合が実現。山本は強打の大阪桐蔭相手に7回まで3失点の好投。さらに最速146キロを計測し、山本の評判は日増しに上がり、兵庫どころか、全国的にも注目される投手となっていた。

昨年の市立尼崎に続く、公立校からの2年連続の夏の甲子園出場は、山本拓実の右腕にかかっていた。

 さて評価されにくい小柄の投手である山本がなぜNPBのスカウトから注目を浴びる投手なのか。それを技術的に解明していきたい。山本はただ速いだけではない。打者を圧倒するようなボリューム溢れるストレートを投げることができるのだ。そこがスカウトを惹きつける要素となっているのだろう。回転数が非常に高く、手元で思わず差し込まれるような威力抜群のストレートは、180センチの投手が投げる140キロ台のストレートと比較しても遜色がない。そのストレートを「打てるもんなら打ってみろ」と言わんばかりに強気に投げ込んでくる。それもまた魅力的だ。

 25日の報徳学園戦では、毎イニング、140キロ前後、最速142キロを10球程計測。偵察隊のガンでも、常時140キロ~145キロ、最速148キロを計測するなど、威力十分の投球。コンスタントに140キロ台の速球を投げられるのは、全身が連動された投球フォームにある。

[page_break:フォーム一連の流れは右投手では現在のNPBで最も低いあの投手と似ている?]

フォーム一連の流れは右投手では現在のNPBで最も低いあの投手と似ている?

ノーワインドアップからゆったりとした始動で、左足を上げていき、右足の膝を適度に曲げながらバランス良く立つ。このリフトアップの安定感が、その後の滑らかな体重移動へとつながっていく。そのあと、左足を遊撃方向へ伸ばしていきながら、着地を行う。そこからテークバックを見ると内回りの旋回をしていきながら、トップに入る。トップに入った時の動作を見ると、胸の張りが素晴らしく、左腕のグラブをしっかりと抱えることで体の開きを抑えることができている。

 リリースを見ると、体の近くで腕を振ることができており、抜群のリリースポイントでボールを離すことができている。そして最後のフィニッシュでも、軸足をしっかりと蹴り上げてから、左足に全体重を乗せて、投球動作を終えることができており、勢いあるボールを投げることができている。山本の一連の動作は誰に似ているかといえば、現在、北海道日本ハムのリリーフで活躍する谷元圭介投手とよく似ている。谷元は山本と同じ身長167センチと球界最小の中継ぎ投手だが、球界トップクラスの回転数の高いストレートで勝負する投手。山本は谷元レベルの投手になれる可能性は十二分に持っている。

ここまでストレートの球威について触れてきたが、変化球の精度も非常に高い。スライダーは2種類あり、120キロ前後の曲がりが大きいスライダー、130キロも超えるカットボール系の変化球の2種類を持っており、いずれも打者の手元で鋭くぐっと曲がるもので、報徳学園打線も手を焼くほどだった。

 さらに長所があり、山本は打球反応が良く、痛烈な当たりにもすぐに反応して、投手ゴロ、投手ライナーに抑えるところ。投手は守備力が高ければ、自分の身を助けることができるが、山本は自身の守備でアウトを積み重ねていた。

 山本は春に敗れた報徳学園相手ということで、非常に気合が入ったピッチング。終盤になっても、140キロ台を維持していたが、8回裏、一死から併殺崩れから1点を失い、そして10回裏、サヨナラ打を浴び、涙をのんだ。最後、がっくりと肩を落とした山本。だが高校野球ファンはここまでの山本の力投を見て、多大な拍手を送っていた。

167センチと小柄であることを忘れてくれる爆発力あるストレート、精密にコントロールされた変化球、熱いマウンドさばき、軽快なフィールディング。その総合力の高さ、メンタリティの強さは、正真正銘のドラフト候補と呼べるピッチャーだった。

(文=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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