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秀岳館高等学校(熊本)「目標」を「ストレッチ」し続ける 〜数値化して明確に〜【後編】

2017.07.16

 全国屈指のハイレベルな安定感を誇る秀岳館。どんな発想、練習に基づいて秀岳館の野球は生まれてくるのか。後編では鍛治舎監督が掲げる「ストレッチ目標」に迫ります。

秀岳館高等学校(熊本)「目標」を「ストレッチ」し続ける 〜数値化して明確に〜【前編】
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「ストレッチ目標」を作ることが大切

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廣部 就平主将(秀岳館)

「ストレッチ目標を作ることが大切なんです」と鍛治舎監督は力説する。ストレッチ目標とは、経営者や管理職が手を伸ばしても届かないような目標を掲げ、社員や部下がそれを達成するために最大限に自分の力を発揮することをいうビジネス用語だ。パナソニック時代に野球部だけでなく労政部長や広報部長など社業でも力量を発揮した鍛治舎監督らしい発想である。

 2014年4月、秀岳館の監督に就任して「3年で日本一」と掲げたのは最大のストレッチ目標だろう。
「最初の頃はとてもそんな雰囲気じゃありませんでしたけど」と苦笑するが、3年目となる16年は春夏ベスト4、17年春も合わせて3季連続4強入りと「日本一」にあと一歩のところまで近づいたことは間違いない。

 枚方ボーイズ出身の廣部主将は「一緒に日本一を目指そう!」という鍛治舎監督の言葉に動かされてはるばる熊本までやってきた。福岡の糸島ボーイズ出身の田丸は「中学時代に枚方ボーイズと対戦して衝撃を受けた」ことがきっかけだった。どのチームにもない雰囲気とオーラを感じて、そんなチームを作り上げた監督の下で野球をしてみたいと思うようになった。

 鍛治舎監督が以前指揮していた枚方ボーイズをはじめ、選手の大半が県外出身の野球留学生であり、地元出身者は少ない。社会人、少年野球から転身してきた鍛治舎監督も含めてその斬新さが世間から注目を浴びる一方で、心ない誹謗中傷があるのも事実だ。廣部主将は「試合に勝って校歌を歌っているときに野次られたのは一番辛かった」と振り返る。

「それはある意味仕方がないことだと思います」と鍛治舎監督は割り切る。新しいこと、人がやらないことにチャレンジする人生には必ず障害が立ちはだかる。出る杭は打たれるのが世の常だ。それでも「不思議なもので結果を残すとそういう声はだんだん少なくなってくるんです」(鍛治舎監督)。あえて未知の世界に挑むのは「反骨在野の母校・早稲田大の精神でしょうか」。

 16年は熊本地震があり、「自分たちが勝ち進むことで熊本の人たちを元気づけよう」(廣部主将)という気持ちで夏の甲子園に挑んだ。
「僕たちが勝ち進んだことで『勇気づけられた』『笑顔になった』という反響があったのが一番うれしかった」と廣部主将は胸を張る。

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勝ち抜くために必要な要素

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投手陣の練習の様子(秀岳館)

「社会人、中学生といろんな世代の野球を見てきましたから、育成方法には誰にも負けないものを持っていると自負しています」と鍛治舎監督は言う。高校野球監督としての経歴は4年目だが「甲子園の解説を25年やってきたのでどのレベルのチームが勝ち抜いていくかは分かっているつもりです」。

 それは感覚的なものや様々な要素があるので、具体的にどういうチームが勝ち進むと明言するのは難しい。県大会6試合、甲子園6試合、7、8月の暑さの中でベストパフォーマンスができる体力は何より必要だ。投手なら90マイル(145キロ)以上の直球が投げられるエースがいることが望ましい。「打撃重視」と言われる昨今の甲子園だが、勝ち抜くためには「投手を中心にした守り」が柱にあるのは今も昔も変わらない。投手をリードする捕手の頭脳も欠かせない。

「強いチームを作りたいと思ったら、捕手出身の選手を集めてコンバートするという手法もあるんですよ」
試合中常に頭を働かせている捕手なら他のポジションでも考えて野球ができる。今年のチームでも4番の大木凌雅(3年)や廣部主将は捕手経験がある。

 試合には必ず相手がいる。相手の分析も欠かせない要素だ。今年の選抜では準々決勝で健大高崎(群馬)と対戦した(試合記事)。「機動破壊」をどう封じるかがテーマだが、様々な角度から分析し「いわゆる機動破壊のレベルに達している選手は少ない」と判断。先発した川端健斗(3年)は1球もけん制球を投げなかった。5盗塁を許したが13奪三振、2失点の好投で勝利に導いた。

「本盗さえされなければどれだけ走られても構わない。機動破壊の対処法は『気にしない』こともあるんですよ」

[page_break:4度目の正直で「日本一」を目指す]

4度目の正直で「日本一」を目指す

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練習の様子(秀岳館)

 甲子園は3季連続で4強入りしたが「どのチームも優勝できる力はあった」と鍛治舎監督は振り返る。
「勝たせてあげられなかったのは監督の甘さ」だと言う。今年の春センバツでは優勝した大阪桐蔭に1対2で敗れた(試合記事)。準々決勝からの連戦で秀岳館健大高崎戦で好投した川端ではなく田丸を先発させたが、大阪桐蔭はエース徳山壮磨(3年)を連投で先発させた。

「先のことを考えて連投をさせなかった私と、この試合を何が何でも勝ちにいった西谷(浩一)君との差。悔しいけど西谷君に学ばせてもらいました」と独自の視点で敗因を分析した。

「日本一」という最も高い「ストレッチ目標」からスタートしたが、決して大風呂敷を広げたわけでなく、そこに至るための道筋を丁寧に示し、細かく数値化すること、それらをクリアして「力強い個」を持った集団を作り上げるのが鍛治舎監督の手法だった。

 熊本県大会の組合せも決まり、4度目の正直で「日本一」を目指す挑戦が始まるが、選手たちは特に高揚したり、肩に力が入って練習することもなく、淡々とやるべきことをこなしている姿が印象的だった。

「具体的には準決勝まで勝ち進んだ経験があるので、あと2勝をものにする力を身に着けることに全精力を注いでいます。何より大切なのは日常。8時間の練習時間だけでなく、野球以外の16時間をどう過ごすかも大事になってきます。部員100人、全員のチームワークで目標の日本一を勝ち取ります」
廣部主将は力強く語っていた。

(取材・文=政 純一郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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