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宮崎日大高等学校(宮崎)恩師と「カープ野球」の教えを原点に【前編】

2017.04.04

 母校・宮崎日大の監督に就任して3年目の榊原 聡一郎監督と話をしていると「三村さんの教えですよ」「カープで学んだことです」という言葉が何度も出てくる。プロ時代の監督だった故・三村 敏之さんと、選手、二軍コーチとして過ごした広島カープは、榊原監督にとって人生の原点であることがうかがえた。プロ野球選手という華々しい経歴がありながら、引退後波乱万丈の人生を経て、高校野球界に新天地を求めた榊原監督と宮崎日大の挑戦をレポートする。

野球を学んだコーチ時代

宮崎日大高等学校(宮崎)恩師と「カープ野球」の教えを原点に【前編】 | 高校野球ドットコム

榊原 聡一郎監督(宮崎日大)

 監督室の榊原監督の机には2つの写真が飾られている。師と仰ぐ三村さんの遺影と、日南キャンプの際に撮影した広島のチーム写真だ。榊原監督にとっての「原点」はこの2枚に凝縮されているといっても過言ではない。

 81年にドラフト2位で広島に入団し、将来の4番候補として期待され、2軍でホームラン王、打点王を獲ったこともあったが、一軍ではなかなか目が出なかった。90年で現役引退し、その後3年間コーチをやったが「現役で10年、コーチで3年だったけど、本当に野球をやったと思えるのはコーチの3年間の方です」と言い切る。

 まだ28歳で現役に未練もあったが、三村さんの強い希望で2軍コーチを引き受けた。「キャンプは選手時代よりコーチの方がしんどかった」という。その頃、練習のメニューは手書きで出すのが普通だったが、三村さんは当時世に出たばかりのワープロで打つことを思いついた。それを実際に打ったのが榊原監督だった。分厚い説明書と格闘しながら夜中過ぎまで練習メニューを打ち出す。それらをプリントして首脳陣や日南市内に宿泊している報道機関に配って回った。「寝るのは毎日深夜零時を過ぎてからでした」

 朝もまだ暗いうちにグラウンドに行き、芝が剥げているところ、土に穴がないかなど点検するのも役目だった。「当時は、捨て犬が野犬化したのが迷い込んでくることがしょっちゅうありました。狼みたいで本当に怖かったです」と苦笑する。

 広島は練習が厳しく、礼儀やマナーを徹底するのが伝統だ。先輩や目上の人へのあいさつは厳しく躾けられる。キャンプでホテルに宿泊している際も、食事は必ずスラックス着用で靴を履く。人前ではきちんとした格好をすることがマナーだからだ。

[page_break:「コーチは嫌われ役でいい」 / 再び野球の世界へ]

「コーチは嫌われ役でいい」

宮崎日大高等学校(宮崎)恩師と「カープ野球」の教えを原点に【前編】 | 高校野球ドットコム
練習風景(宮崎日大)

 三村さんの口癖だった。教えに習い、当時若手だった金本 知憲らを徹底的に鍛えた。炎天下に何本もアメリカンノックを打ったこともある。当然、選手は不満を監督にこぼすが、三村さんは必ず「コーチはお前のためを思って厳しくしているんだぞ」とフォローしてくれた。厳しく接するのも「選手のために」という愛情に基づかなければならない。アメリカンノックは受ける選手もきついが打つノッカーもきつい。宿舎まである長い坂道を走らせたとき、金本と一緒に走ったこともある。

「歳が近いとはいえあいつは現役だから速い。僕がゴールした時、あいつはもう風呂に入っていました」と笑う。選手に厳しいことを要求する以上、自分にも妥協せず一緒に汗をかいた3年間だった。
「コーチ時代の感覚で現役をやっていたら一流選手になっていたでしょうね」。日の当たることの少ないコーチで初めて「裏方で支える」ことを経験し、いかに自分たちがいろんな人に支えられて野球ができていたかを思い知らされた。

 こののち焼き肉店の経営、破綻、プロ養成野球専門学院の失敗、借金、下水の油分除去処理器を扱う会社でのサラリーマンと波乱万丈の人生を歩みながらも、コーチ時代の下積みをバネにして乗り越えることができた。「だから今、僕が部内で一番大事にしているのは女子マネ―ジャーです」

再び野球の世界へ

 広島を退団してから、焼き肉店経営など野球とは縁のない世界に飛び込みながらも、心の中には常に野球への想いがあった。2008年から東北楽天の統括本部編成部部長だった恩師・三村さんが、野村 克也監督の後任に決まり、その三村さんからコーチ就任の依頼があった。恩師のもとで再び野球の世界に戻れるまたとないチャンスだったが、悲運が訪れる。09年5月に三村さんが肝臓疾患で入院、11月に帰らぬ人となった。61歳の若さだった。

 人生の師とも仰ぐ三村さんを失い「もう2度と野球に関わることはないか」と諦めかけたところに、12年から学生野球指導者資格が緩和されるという話が舞い込む。13年にその第1回講習を受けて指導者資格を回復すると、焼き肉店経営時代の縁で14年8月から母校の監督として新たな道に挑むことになった。

[page_break:野球をやる前に]

野球をやる前に

「迷っているんだったら来なくていい!」

 現主将で4番を打つ佐藤 俊希(2年)が宮崎日大に進学を決めたのは、榊原監督のこの言葉が決め手だったという。県内の別の名門校とどちらにいくか迷っていたが、その一言が背中を押した。

「佐藤だけじゃなく、声を掛けた選手で迷っている子には全員そう言いました」と榊原監督。迷いがあり、誰かに説得されてくるような選手は、入ってみて思い通りにいかなかったとき「必ず言い訳して人のせいにするようになる」。たとえ野球がうまくなくても、「宮崎日大で野球をやる」と覚悟を決めている選手と野球をやりたい。そんな信念があった。

「礼儀なマナーに厳しい監督」。佐藤主将をはじめ、選手に榊原監督の印象を尋ねると同様の答えが返ってくる。元プロであり、コーチも勤めた監督がいるということで「プロならでは」の教えを想像していたのとは趣を異にしていた。

「最初の頃は、野球を教えた記憶がほとんどありません」と榊原監督は言う。就任するまで母校がなぜ勝てないのか、ずっと不思議に思っていた。加藤 哲郎(元近鉄)、藤岡 好明(横浜DeNA)、下園 辰哉(同)、武田 翔太(ソフトバンク)とプロ野球選手を輩出しており、毎年優勝候補に挙げられながら、甲子園出場は97年夏の1回のみだった。

 初めてグラウンドに出てみてその理由が分かった気がした。部室が汚れているのを誰も片づけようとしない。「朝10時集合」と言ってあったのに、当たり前のように遅れてくる選手がいる…。
「野球の前に、まず人としての礼儀やマナーを教える必要がある」。高校野球監督としてまずやるべきは、三村さんや広島から学んだことを伝えることだと確信した。

 後編では秋季大会や監督のモットーを伺いました。

(取材・文=政 純一郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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