Column

清宮幸太郎は5三振を覚醒のきっかけにできるか?

2016.11.06

 高校通算74本塁打の清宮 幸太郎が5打席連続三振。この結果に対し、かなり不安視される方が多いであろう。だが今後の清宮を考えると、良い経験だった。それはなぜかといえば、いずれ高いステージを目指すことになる清宮にとっては日大三櫻井 周斗クラスの投手との対戦は必ずあるからだ。そんな清宮の課題を考えていきたい。

清宮の強みは外角球を高確率で本塁打にできるコンタクト能力

清宮幸太郎(早稲田実業)

 清宮はここまでの公式戦で、15本塁打を放っている。やはり規格外の数字なのだが、そのうちすべて15本塁打が右投手である。清宮の本塁打を振り返ると、コーナーで外しに行った変化球や甘く入ったストレートを見逃さず打ち返すことができている。打っているコースのほとんどが外角で、外角の場合は、やや低め~高めまでしっかり打ち返している。

 すごいのは緩いボールをバックスクリーンに飛び込む当たりを打つところ。そんな高校生はそうはいない。

 右投手からこれほど本塁打が多いのは、踏み込みがしやすく、自分のフォームで打てるというのがあるのだろう。また右投手が投じる内角もとっさの反応で本塁打にすることができている。

 逆に左投手から放った本塁打はゼロ。左投手の櫻井周斗に5打席連続三振を喫したのを見て、左投手に弱い印象を受けるかもしれないが、決して全く打てないというわけではなく、過去の試合を振り返っても左投手の外角球に対してしっかりと踏み込んで打ち返すところを見ると、清宮は右、左問わず外角球がヒットゾーンであることがわかる。

 高校生の配球を見るとほぼ外角球が占めるだけに外角を打ち損じしないための清宮の打撃スタイルは理に適っている。

 たとえ5三振に終わっても、清宮のミート力、長打力、パワーが全国の打者と比べてもやはりナンバーワンであることは間違いない選手だ。

 だが、どの選手もいつでも絶好調なわけではなく、ここにきて清宮の強みであるコンタクト能力が鈍っている。その証拠として、都立片倉戦(試合レポート)から4試合連続で本塁打なし。関東一戦(試合レポート)と日大三戦(試合レポート)に限っては無安打だった。

 理由としては強くインコースを意識した配球で、迷いが見えたこと。清宮の打撃を見ると強烈なインステップで撃ちに行く。これは外角球をしっかりとたたくためで、悪いことではないが、その分、インコースのコンタクト能力が悪くなる。こういう場合、インコースに備えていくなどのとっさの対処が必要になるが、調子を落としている清宮の場合、それで対処できる余裕がなかった。

 そこに140キロ台の直球、さらに必殺の縦スライダーで勝負する櫻井 周斗がきた。インコースを意識させて、最後は縦スライダーで打ち取る配球で5打席連続三振を喫したのはある意味、予想できたことかもしれない。縦の変化球に対し、見極めが全くできなかったのは、大きな課題として残った。

 清宮は「練習試合でも5三振がありましたので、こういうときもあると思うしかないです」と不調を受け入れている様子だった。櫻井が投じたすべての球種が完璧だったわけではなく、櫻井自身も「ヒヤッとするような甘いボールを投げたことがあります。それで痛烈なファールを打たれてどきっとしたのですが」と振り返るように、これをもししっかりと打ち返していたら、試合展開は大きく変わっていただろう。

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[page_break:神宮大会、そして選抜へ向けての課題とは?]

神宮大会、そして選抜へ向けての課題とは?

清宮幸太郎(早稲田実業)

 これで選抜出場に大きく前進した早稲田実業

 選抜出場する学校は、これまで清宮がどういうボールを打って本塁打にしているのかを徹底的に研究することが予想される。

 清宮から5三振を奪った日大三の櫻井の攻めは、多くの学校がモデルにするにはず。清宮にとって来春の選抜が二度目の甲子園で、再び自分の実力をアピールするチャンスではあるが、マークの厳しさは1年夏以上となる。

 まず11日に開幕する明治神宮大会で復調した姿を見せたい清宮だが、再び強敵が立ちふさがる。初戦で対戦する静岡のエース・池谷 蒼大は最速144キロを誇る本格派左腕。強く腕が振れる投手で、ベースでぐっと伸びるようなストレートが売りで、さらにスライダーの切れも良い。縦の変化は少なかったが、苦戦する投手には違いない。だが逆にいえば、池谷を打ち崩すことができれば、選抜でやれる手ごたえを掴んで、冬の練習に臨めることになる。

 今の清宮に求められるのは、狙い球を見逃さないコンタクト能力がどこまで復活するのか、インコースや縦の変化で揺さぶられても、しっかりと見極めができて、自分の得意球を打ち返すことだろう。難しいボールをヒット、ホームランにすることは求められていない。プロ野球の一流打者も打てないと思ったボールは空振りをしているが、自分が打てるボールが来るまでファールで粘ったり、打てると思ったボールをしっかりと打っている。清宮の場合、相手投手のレベルが上がっても、それを実践するだけだ。

 今は苦しんでいるが、長い目で見ると、日大三櫻井周斗のような投手は成長のきっかけとなる存在なのである。

 5三振で終わっても、自身の今後の野球人生が大きく左右される最終学年で、選抜出場を前進させた清宮はやはり持っている選手である。

 東京大会決勝で味わった苦い経験をどう変えていくのか、明治神宮大会の第1打席から注目だ。

(文=河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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