Column

長崎総合科学大学附属高等学校(長崎)【後編】

2016.06.27

 昨秋、初の九州大会出場を果たした長崎総科大附前編ではそこにはただ戦術面がうまく嵌っただけではない取り組みについて迫りました。そして後編ではチームの組織力を強化するための取り組みを紹介しました。

組織力で戦っていくことにはこれからも変わりない

ベンチの様子(長崎総合科学大学附属高等学校)

 渡瀬 尚監督が長崎総科大附の監督に就任した時から今でもずっとこだわっていることは、組織力で戦うことだ。
「うちは全員の力を結集して組織力で戦っていかなければ勝てません。強豪校にいるようなプロ注目投手やスラッガーがいなかったので、そういう戦いをしてきたのですが、今はそういう選手がいたとしても組織力で戦うという考えに変わりありません」

 全員が組織の中で活動しているという自覚を持たせるために、役割を与える。どうしてもベンチ入り出来る見込みがない一部の3年生には、5月の段階で、サポートの役割に回る。サポートの役割は、偵察部隊、グラウンド整備係、アップ盛り上げ役、また今年は医療関係の学校に進みたい部員がいたので、トレーナーの役割を与え、ウエイトトレーニングの正しいやり方などを勉強させて選手のトレーニングのサポートに回っている。

 例えベンチ入りができなくてもそれぞれの役割を与える。誰もがベンチ入りしたい、しかしそれがかなわずサポートに回った3年生たちは、懸命に自分達の仕事をしている。5月に開催された九州大会では、偵察部隊に回った3年生たちが試合を見ている姿があった。

 そういう3年生たちの姿を目の当たりにし、主力選手たちにしっかりとやらなければならないという気持ちにさせている。そうやってチームを1つにさせているのだ。

後輩を可愛がり、先輩を敬うことが強い組織力を生み出す

 そして選手が組織の一員として動くことを実感させるために行っている取り組みが、付き人制度だ。1年生1人につき、先輩1人を付けている。付き人となる上級生はグラウンド整備の仕方、学校生活、道具の準備、さらに担当の上級生は下級生の日誌を見るなど、付き人の取り組みは多岐に渡る。ここまでする理由は何だろうか。

「1人の後輩を可愛がることができない先輩、1人の先輩に可愛がられるような人間性がない後輩が、チームのために何ができますか。後輩が何かすれば、責任がいくのは指導している先輩。注意を受ける先輩たちの姿を見て後輩たちは何を思うか。また私も直に1年生に指導して、グラウンドを出ろ!と厳しい口調になるときがありますが、その時は、上級生が『私が指導しているので、私もグラウンドを出ます』と言うんです。そんな上級生の姿を見たら、下級生は『自分のせいで先輩もグラウンドを出ないといけない』という気持ちになりますよね」

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[page_break:快進撃を見せる準備はできている]

 話を聞くと、まるで社会の縮図である。渡瀬監督に「まるで企業の新入社員の教育みたいですね」と返すと、「そうですね」とさらに続ける。
「3年生も、高校を卒業したらまた1年生に戻ります。偉ぶっている必要はないんです。うちの選手たちは3年生になるほど気配りができて、気が利く選手が多い。率先してできるんです。またそういう姿を見て下級生はどう感じるのか。そうやって選手として自立させていくんです」

 長崎総科大附には組織の一員としてどう動くべきなのか、肌で感じられる仕組みが徹底されている。それがあるからこそ、昨秋に作戦として行った逆方向の徹底、大村工戦で調子をピークに持っていった調整法がしっかりと行うことができたといえる。

快進撃を見せる準備はできている

集まったレギュラー選手たち(長崎総合科学大学附属高等学校)

 春の九州地区予選ではけが人が続出し、主力選手の不調によりベスト8に終わったが、NHK杯では、島原農九州文化学園を破り、準決勝進出。準決勝では優勝した長崎商に6対7の接戦を演じるなど、夏の大会直前で結果を残し、状態をしっかりと高めていった。

 今年は主将で最も俊足である濱本 真栄、また昨秋まで肩を痛めていて三塁コーチャーだった橋村 直樹はシュアな打撃と俊足がウリの外野手へ成長。2年生には一発を打つ長打力に加え、逆方向に鋭い打球を打つ4番の仲田 純福岡大大濠との練習試合で本塁打を放ち、さらに軽快な二塁守備を見せる峯 晃哉と好野手が多く、さらに投手陣もカーブがウリの野付 陽太、右本格派の2年生・東山 輝星春の九州地区予選で好投した2年生左腕の川原と顔ぶれは多彩だ。また投打ともに1年生の活躍も目立ち、1年生ながらAチームの試合に出ている選手も出てきており、昨秋とはまた変わった顔ぶれで臨む予定だ。

 主将の濱本は、「春の大会では右方向への徹底などチームの決まり事が全くできていなかったので、もう一度、チームがやることをしっかりと徹底できるようにしていきたいと思います。大会後の練習試合ではそれができているので、もう一度、気持ちを引き締めてやっていきたいと思います」。と夏の大会へ向けての意気込みを語った。

 渡瀬監督の就任時9人だった長崎総科大附。今では3学年で60人以上となった。そして昨秋九州大会出場を果たしたように、チームの組織力を高めるための取り組みが、やっと実を結んできている。

 今年の長崎は混戦模様。優勝が長崎海星、優勝が大村工NHK杯優勝が長崎商と顔ぶれが異なっている。それだけにどの学校にも夏の甲子園出場のチャンスがある。NHK杯でベスト4に入った長崎総科大附。この夏、秋以上の快進撃を見せる準備はできている。

(取材・文/河嶋 宗一


注目記事
【6月特集】快進撃の作り方

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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