市立下関商業高等学校(山口)【後編】
前編では、亜細亜大練習から得た「走・攻・守」総合練習の方法や、実際の練習の様子も動画で配信しました。後編では前主将の佐々木悠司選手から「亜細亜大バッティング」の中身についてお話を伺いました。そして甲子園の経験を積んだ下関商ナインはどんな課題を持って、春の大会、夏の大会に向かっているのでしょうか。
亜細亜バッティングが呼んだ「山口大会のビックプレー」
亜細亜バッティングの意義を語る卒業生の常信 太一(市立下関商業高等学校)
「チームとしては試合の感覚にできるだけ意識を持っていくようにして。自分としては小さく、早くベースを回って次の塁へ向かうことを意識して。その結果、夏に走塁がよくなった」とチーム・個人それぞれで持っていた「亜細亜バッティング」ポイントを話す常信 太一。山口大会準々決勝・徳山商工戦での「センター前二塁打」も実はその過程で生まれたものだ。
「全力疾走のチームテーマ通り一塁まで走ったとき、打球を見たらセンターがまだ捕球していなくて。さらにひざを付いて大事に捕球しようとしていたんです。それを見て直感的に『二塁まで行ける』と判断しました」
外野手の状況を見る習慣がランナーについていなければ、おそらく為しえてなかった走塁だ。「相手のスキを突くことで相手にダメージを与えることができるんです」。常信は走塁によって生まれる二次的効果も語ってくれた。
一方、主将の佐々木は亜細亜バッティングを通じ、走塁意識をチーム全体に浸透させようとした。
具体的には「第2リードの位置から打者がインパクトした瞬間、いかに右足を蹴ってスタートできるか、戻るのか」。第2リードを全員が習得した後の試行錯誤により徐々に走塁の質が上がり、春は県ベスト4と一定の成果を残した下関商。そこで佐々木は春以降の練習試合前の円陣では「今日は走塁で1点を取ろう」と緊張感を高めつつ、さらなる走塁磨きに取り組んだ。
そんなキャプテンが山口大会でのベスト走塁としてあげたのは、準決勝の宇部商戦で1回・二塁から遊撃ゴロで二塁走者の松本 知紘(当時3年・遊撃手)がホームまで還ってきたシーン。「練習試合を通じて行ける場面、行けない場面を判断していたことで、相手のスキを突く走塁をすることができた」とチームの共有意識がその裏にあったことを明かしてくれた。
その2番・遊撃手の松本。「一塁ランナーの時は投手のクイックを見て、二塁・三塁ランナーの時は打者のスイングで一歩目のスタートを意識していた」という彼は「練習試合後に出た課題を亜細亜バッティングで消化することに務めた」当事者として宇部商戦のシーンを振り返る。
「あの場面は三盗を仕掛けたときにバッターが打った。そこで三塁に到達するときにショートを見たら、こっちは少し見たんですが余裕を持って一塁へ投げようとしていた。だから投げる瞬間にホームへ向かったんです」
相手の一塁手はその様子を見て、慌てて本塁に投げたが、その時に松本の手は悠々とホームを触れていた。この先制点を勢いにつなげ10対0・5回コールドにつなげた下関商。
かくして決勝・下関国際戦では選手・首脳陣ともに「相手が自分たちを警戒してミスを出してくれた」内容で5対1。ちなみに山口大会では佐々木 大輔監督いわく「半分は自分の判断。4番の坂口 来斗(当時3年・捕手・50メートル走7秒3)のような一見、走りそうにない選手も走るし、走れなくてもプレッシャーを与えることは務めてきた」結果、6試合で盗塁も15個決めている。
そう、山口大会を制した要因には間違いなく「走塁」があったのだ。
聖地での記憶を忘れず、甲子園30勝への「妥協なき挑戦」
前から時計回りに山本 陸、水永 大祐、山田 浩由、美馬 裕樹(市立下関商業高等学校)
今度は現役選手・新3年生に語ってもらおう。登場いただくのは二塁手・主将の山本 陸(右投左打・156センチ52キロ・下関市立夢が丘中出身)、右翼手の美馬 裕樹(右投左打・168センチ65キロ・下関市立勝山中出身)、そして甲子園でベンチ入りした水永 大祐(投手・右投右打・175センチ79キロ・山口市立小郡中出身)、山田 浩由(捕手・右投右打・166センチ63キロ・下関市立川中中出身)バッテリー。彼らにも亜細亜バッティングによって「無意識のうちにスキを狙っていく習慣が当たり前になっている」(美馬)走塁が浸透している。
紅白戦でそんな走塁を最も脅威に感じているのは捕手の山田。「ショートバウンドでのスタート意識も強く持っているので、送球時の握り替えとかも1つもミスできないですね」と苦笑いした。
同時にこの亜細亜バッティングは守備・打撃面での気付きも与えてくれる。エースの水永は話す。
「走者のリードが大きいほど投手にプレシャーがかかる。だから制球力が大事なこともわかりました」
昨秋は県大会3回戦で豊浦に1対8で大敗。「盛り上がり、反省して、全員で楽しく」練習する手段として再び「亜細亜バッティング」に向き合っている。「僕らよりも意識が高い」と松本も認める部員29人を束ねる主将・山本は、最後にこう春への意気込みを述べた。
「いい練習はできているので練習試合では勝つことにこだわり、山口県大会を制覇したいです」
もちろん課題克服のベースは、「完全にパワー負けだった」(佐々木監督)。常信も「初回に出塁して犠打を試みたときも自分のスライディングが遅くて二塁で刺されてしまった」と課題を指摘した甲子園2回戦・東海大甲府戦。
彼らは再び聖地で対戦した時に勝利につなげる確率を高めるべく、彼らはウエイトトレーニングなど新たな試みを採り入れると同時に「亜細亜バッティング」の精度をさらに高め、一塁側ベンチに掲げられたテーマ「妥協なき挑戦」の先にある「甲子園30勝」をつかみにいく。
前編で好評だった亜細亜バッティングの様子を撮影した動画を再度紹介!
一体、どんな練習なのか、動画でもお伝えします!記事と合わせて御覧ください。
(取材・写真:寺下 友徳)
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