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歴史的に戦前の和中、海草、と戦後の箕島、智辯和歌山と4つの時代を築く(和歌山県)

2016.03.06

 高校野球史の中で、和歌山県勢は4度の時代を作っている。それぞれが高校野球の歴史の中でも燦然と輝く不滅の記録といっても過言ではないものだ。

初の黄金時代を作ったのは和中、海草、そしてそれに次いだのは春夏連覇の箕島

箕島・尾藤 公監督

 最初の黄金時代は和歌山中で、戦後の学制改革で桐蔭と名前を変えたが、03年に21世紀枠の近畿地区の候補となっている。今日でも伝統を受け継いだ形で野球部の存在は評価されている。

 戦前の和歌山県の記録を見ると、ある時代まではそれはそのまま和中の記録ということになる。しかも、スコアを見ると15~20点はザラで何の試合かと思えるような得点をあげており、その強打は突出していたのだろう。ことに1921(大正10)年の夏などは全試合2桁得点で勝っているのだから呆れてしまう。

 和中は第1回大会から14年連続出場を果たす(第4回大会は米騒動のため中止)。それを阻止したのが海草中で、戦後になって和歌山向陽と校名変更して甲子園にも出場している。海草中は戦争で中断する前に、2年連続で優勝という記録がある。しかも、39年夏はエース嶋 清一投手が5試合連続完封で、準決勝と決勝の2試合が連続でノーヒットノーランという快挙中の快挙で優勝というのだから驚く。この快記録は恐らく永遠に破られないだろう。強打の和歌山中と投手力の海草中が戦前の和歌山県を彩った。

 戦後になって和歌山県は前岡 勤也投手のいた新宮藤田 平のいた市立和歌山商(現市立和歌山)もそれぞれ結果を残した。桐蔭も伝統を守りチーム力を維持していたが、新しく星林も甲子園に姿を現した。近年は甲子園こそ出てはいないものの、侍ジャパンの小久保 裕紀監督(青学大→ダイエー→読売→ソフトバンク)の母校でもある。

 そんな中、新しい和歌山県の時代は尾藤 公監督率いる箕島が作ることになる。学校は古く明治に創立していたのだが、野球部が強化されたのは尾藤監督が就任してからで、就任3年目の68年春に初出場。エース東尾 修(西武)でベスト4に残る。さらに2年後には島本 講平(南海)がエースで四番となり全国優勝する。とにかく甲子園に登場すると強い箕島というのはこのあたりから印象づけられていく。77年春にも東 裕司投手が5試合中4試合を完封しての文句ない優勝を果たしている。

 箕島はその翌年春もベスト4に残り、79年にはついに石井 毅(住友金属→西武)―嶋田 宗彦(住友金属→阪神)のバッテリーで春夏連続優勝を果たすことになる。大体大浪商を打撃戦の末に倒して優勝する。は3回戦で星稜と延長18回の球史に残る大熱戦を経て、堂々たる春夏連続優勝を達成することになる。試合内容といい、実績といい、箕島の野球が、完全に一つの時代を作ったことの証明でもあった。

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[page_break:現在、智辯和歌山を中心に繰り広げられる和歌山野球]

現在、智辯和歌山を中心に繰り広げられる和歌山野球

智辯和歌山の人文字

 箕島が頂上を極めてから、徐々に後退していくようになると、今度は少数精鋭主義という新しい方法論で登場してきた智辯和歌山が新勢力となっていく。

 智辯和歌山は甲子園に姿を現しはじめた当初、立て続けに初戦の1点差負けが続いた。智辯学園である程度の実績を持って自信のチーム作りをしてきた高嶋 仁監督にとっては苦悩の時代だった。それでも、93年夏に初勝利を挙げると、ここから黄金時代がスタートした。

 智辯和歌山は毎年10人の新入生を迎え入れ全体で30人の部員という方針を崩さない。彼らはいわば選ばれた野球エリートである。その10人に入ることは並大抵ではない。そんなハイレベルな選手たちが、無駄を排除して自己管理の大人のチームとして鍛えられていくのだ。

 94年春に最初の全国制覇を果たすと、2年後の春は準優勝。そして、97年夏には決勝で平安を下して優勝。完全に智辯和歌山時代を形成した。00年春も準優勝すると、は6試合中5試合で二桁得点を挙げて全国制覇。2年後の夏も準優勝と、甲子園に出場すれば確実に上位に残る、そんな存在となっていた。

 こうして春11回、夏21回の出場で、甲子園通算56勝29敗、勝率6割5分9厘で優勝と準優勝それぞれ3回、ベスト4以上が2回と圧倒的な記録を残している。そして、これがすべて高嶋監督の智辯和歌山での数字でもある。

もちろん、この数字は今後もさらに上乗せされていくであろう。しばらくは、智辯和歌山の時代は続く和歌山県だ。

 それに何とか抵抗を示しているのが今年選抜出場の市立和歌山県立和歌山商箕島らの伝統校だ。さらに、97年春に分校からの甲子園出場が話題となった日高中津吉備から名前を変更した有田中央や、御坊商工から校名変更した紀央館などがいる。真言宗総本山があり、日本仏教の聖地ともいわれる高野山66年春88年夏と春夏とともに一度ずつ甲子園出場を果たしている。15年秋には久々に県大会決勝まで進出して気を吐いた。

(文:手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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