Column

県立津商業高等学校(三重)【後編】

2015.11.27

 前編では智辯和歌山戦の試合前の背景、試合内容を振り返っていきました。後編では甲子園で見せた快打の背景、二死からの得点が多い理由。そして、3年生のみなさんからメッセージをいただきました。

意識した練習を積み重ねることで生まれる至高の無意識

全力で校歌を歌う津商業ナイン

 この試合のスコアブックを見返したところ、興味深い点があった。1試合トータルで津商業打線が放ったフライアウトはわずかに2つ。フェアグラウンドに飛んだ打球の大半は「ゴロ」だった。
果たしてこれは偶然なのか、それとも「ゴロを打て!」という指示が具体的に出ていたのか。その疑問に花井 大輔が答えてくれた。

「ゴロを打てといった指示は出ていません。ただし、僕らの前の代のチームから『低く強い打球を打つことにこだわっている』という背景はあります。打撃練習でも『目線よりも上に打球が上がったら罰走』といった決め事を設けるなどして、練習の時からプレッシャーをかけ続けてきました。三重大会の段階から野手の間を抜くゴロの安打が多かったですし、三重大会でのチームホームランは1本もありません。日頃から意識してやっていた打撃を甲子園という大舞台で、無意識のレベルで実行できた結果だったと思います」

「意識した練習を積み重ねて、無意識を作る」。これは津商業が大事にしている合言葉のひとつだ。

「ゴロを転がそうと意識したわけではないのに、結果的にそれだけ多くの低い打球が打てていたのなら、それは『意識した練習を積み重ねた』ことの成果だったかもしれません」

 この日、智辯和歌山はまさかの7失策。
その大半が内野に飛んだゴロの捕球ミス、送球ミスによるものだったが、「数多くのゴロが内野に飛んだ」という事実も、エラーを呼んだ要因のひとつにカウントしても間違いではないだろう。花井は続けた。

「ゴロがたくさん飛んだことも要因のひとつでしょうし、うちの一塁への全力疾走の徹底が相手内野陣の焦りを誘った可能性もあると思います。でもあれだけたくさんのエラーを智辯和歌山がするとは思いませんでした…。甲子園という空間の恐ろしさを見た気がしました」

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[page_break:ツーアウトからの得点が多い理由]

ツーアウトからの得点が多い理由

宮本 健太朗監督(県立津商業高等学校)

 津商業の打線の特徴として「ツーアウトからの得点が多い」という点が挙げられる。智辯和歌山戦においても、ツーアウトからの得点シーンが目立ったが、何か秘訣があるのだろうか? 再び花井に訊ねてみた。

「『野球はツーアウトから』という格言があることは知っていますが、特にチームで意識しているわけではありません。ツーアウトだろうがノーアウトだろうが、目の前のことを全力でやることには変わらないので…。ただ、もしかすると、チームのモットーである、『目の前のことを全力でやる!』という意識の徹底が『ツーアウトだから点を入れるのは難しい』という、心のどこかに芽生えがちなマイナスの意識を排除することにつながっている可能性はありますね」

 宮本監督に同様の質問を向けたところ、「ツーアウトって得点になりやすいシチュエーションでもあるので、それほど不思議なデータじゃないと思いますよ」という答えが返ってきた。その理由を宮本監督は次のように説明してくれた。
「例えばランナーが二塁にいて、シングルヒットが飛び出した時に一番生還率が高いのはツーアウトの時。打った瞬間に迷わずスタートが切れるわけですから、同じ打球であれば、ツーアウトの方が絶対に点は入りやすい」

 津商業では、打者がインパクトを迎えた瞬間から二塁走者が三塁ベースを蹴って、本塁ベースを踏むまでの目標時間を「6.7秒」に設定し、練習を日々、重ねているのだという。

「ただし6.7秒だといい送球が外野から本塁に帰ってくると刺されてしまうケースが数多く出てきてしまいます。でもツーアウトの場合、バットとボールが当たると判断した瞬間からスタートが切れるので、6.5秒でホームまで還ってこれる選手もいる。これだとどんなにいい返球が返ってきてもかなりの確率でセーフになる。だからツーアウトという状況は攻める側にとって、有利な面もあるんです」

 ゴロが多い津商業の打線の特色も、走者の進塁率を後押しする。
「ゴロだとランナーはすぐにスタートが切れる。同じヒットでも、ゴロ性の安打が多い方が、総体的にランナーの生還率が高まるのは必然です」

 ツーアウトからの得点が多いことの要因はきちんと存在していた。

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高校1、2年生の球児へのメッセージ


左から坂倉 誠人選手、増岡 晃選手、花井 大輔選手(県立津商業高等学校)

 津商業は、智辯和歌山戦の5日後に行われた京都鳥羽との一戦に2対4で敗れ、2回戦で姿を消した。

「心のどこかに『自分たちは智辯和歌山を倒したんだから次も行けるに違いない』という気持ちがあった。智辯和歌山戦の時のような『挑戦者としてぶつかっていくだけ!』という気持ちが足りなかった。智辯和歌山の時と同じ気持ちで臨めていたら、京都鳥羽との一戦の結果ももしかすると違うものになっていたのかもしれない。高校生活最後の試合で、ものすごく大切なことを学ばせてもらった気がします」と3年生3人は口を揃えた。

 最後にここで、花井前主将が語った「高校球児へのメッセージ」を紹介したい。

「高校野球生活が終わってからグラウンドに来ると、練習している後輩の姿がキラキラと輝いて見えて仕方がないんです。自分がやってきた高校野球は周りから見たら、これほどに輝いて見えていたことを知った時に、現役の高校球児が羨ましくてたまらなくなりました。本気で取り組むほど、高校野球って厳しいものになります。いろんな葛藤もあると思います。時には今、何のためにこんな苦しいことをやっているのか、わからなくなる時もあると思います。

 でも高校野球が終わった今、つくづく思うのは、そうやって悩めている苦しい期間でさえも、素晴らしい高校野球生活の一部だということ。悩めていることにすら、感謝することができれば、高校野球生活はさらに充実したものになると思います。高校球児のみなさん、限られた素敵な時間を目一杯、堪能してください」


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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