Column

早稲田実業の系譜 ~歴史を背負い、伝説となった早実戦士たち~【前編】

2015.07.16

 幾多の歴史を背負ってきたことによる重さこそ、早実の高校野球界での立ち位置。

夏も春も第1回大会に全国大会出場という実績

清宮 幸太郎選手

 スーパー1年生と呼ばれて、いきなりその期待に応えた清宮 幸太郎選手が入学したことによって、この夏から2年半、早稲田実の周辺は賑やかになりそうだ。

 そんな早稲田実だが、“WASEDA”の胸文字のユニフォームで、早稲田大の付属校というイメージを持つ人も多いが、正式には早稲田大学系属早稲田実業学校であり、直系の付属校ではない。したがって、校歌も「都の西北 早稲田の杜に」ではなく、「都の戌亥(いぬゐ)早稲田なる 常磐の森の気高さを…」となっている。とはいえ、応援で用いる「コンバットマーチ」と応援歌「紺碧の空」は、早稲田大と同じである。通称は早実と呼ばれて多くのファンからも親しまれている。

 ちなみに、早稲田大の直系の付属校としては東京都では早稲田大学高等学院がある。こちらは通称早大学院と呼ばれている。スポーツ強化も学校の方針としている早実に対して、早大学院は都内でも最高峰の偏差値校として、その入試ハードルの高さで話題になっているくらいだ。それでも近年は、野球部も何とか早実に対抗できるようなチームにしていこうという思いで強化されている。

 閑話休題、高校野球の名門としての早実の話である。

 その歴史は古く、1915(大正4)年の第1回全国中等学校優勝野球大会からの出場校である。
早稲田実業学校が東京都新宿区に創立されたのは1901(明治34)年のことである。そして、当時旧制高等学校の一高と三高や早稲田大とそのライバル慶應義塾の対抗戦などで野球が盛んになってきたこともあって、早実にも野球部が誕生した。ほどなくして、第1回全国中等学校優勝野球大会が開催される運びとなったので、春に武侠世界主催の東京都下野球大会で優勝している早実は、東京代表として出場することとなった。

 初の全国大会である。初戦は神戸二中(現兵庫高)と対戦して臼井 林太郎岡田 源三郎明治大-明大監督-金鯱監督)というバッテリーで2対0と完封。記念すべき初勝利となった。しかし、準決勝では秋田中の前に4安打で抑え込まれて1対3で敗退。期待された初優勝はならなかった。その後、春に開催されるようになった選抜大会の第1回となった1924(大正13)年と、翌年夏に[stadium]甲子園球場[/stadium]で開催された第11回全国中等学校優勝野球大会では高橋 外喜雄投手を擁して決勝に進出するが、いずれも高松商に敗れて優勝を逃している。

 結局、早実の全国優勝は、春は王 貞治(巨人-巨人監督、ダイエー・ソフトバンク監督、現会長)投手のいた1957(昭和32)年、夏の選手権に至っては斎藤 佑樹早稲田大-日本ハム)投手のいた2006(平成18)年まで待つことになる。

 それでも、東京の中等野球では慶応普通部(現慶應義塾=神奈川)とともに、その頂点を競い合っていた。そこに、日大三が台頭してきた東京の勢力構図は三すくみ状態となっていた。


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[page_break:王 貞治投手で悲願の初優勝するが、王投手の3年夏は甲子園に届かず]

王 貞治投手で悲願の初優勝するが、王投手の3年夏は甲子園に届かず

王 貞治氏

 戦後になって、慶応普通部が慶應商工などと統合して横浜市日吉に移り、代わって明治(現明大明治)や法政一(現法政大高)などの六大学系列校が勢力を伸ばしてきたが、早稲田実が注目を浴びるのは王 貞治が入学してきた、56年からである。王は、1年の春季大会決勝の日大三との試合に早くも登板している。そして、夏は一塁5番で醍醐 猛夫(大毎・ロッテなど)や徳武 定之早稲田大-国鉄-中日-ロッテコーチなど)らとクリーンアップを組んで甲子園に出場。新宮には逆転勝ちしたものの、2回戦で清沢 忠彦のいた県岐阜商に敗れる。やがて王が2年生となるとエースで4番として57年春に出場。

 大会前から優勝候補の呼び声が高かったが、初戦となった2回戦の寝屋川戦では大苦戦。それでも王が1安打に抑えて点を取られなかったので1対0で辛勝。準々決勝の柳井、準決勝の久留米商も連続完封して、王は無失点のまま決勝のマウンドに登る。高知商との力の対決となったが、8回に3点を奪われるものの、5対3で勝って、早実は悲願の初優勝を果たした。

 も王投手を擁して出場した早実は、春夏連覇が期待された。初戦の相手はに続いてまたしても寝屋川だったが、王は寝屋川打線を無安打に抑えるものの、味方も点が取れずそのまま延長となる。11回に相沢 邦昭(東映)の犠飛で何とか1点を奪って、王は史上初の延長戦でのノーヒットノーランを達成する。しかし、2回戦では当時勢いのあった神奈川の法政二に屈している。

 翌年も早実は王投手で甲子園に出場し、2回戦では苦しみながらも御所実に4対3で勝つが、準々決勝では濟々黌に5対7で敗退する。王の投球も、前年の精彩を欠いていた。そして、夏は東京大会決勝で明治に敗れて甲子園にも届かなかった。

 後日、王 貞治記念誌作成の取材の際に当時の早実・宮井 勝成監督に話を聞いたら、「あれは(注釈*「あれ」とは王のこと。世界の王を「あれ」や「オマエ」呼びできるのは、世界にこの人をおいていない)3年になると急に球が走らなくなるんだけれど、冬の間に遊戯の卓球をやりすぎたんですね。それで、あれの持ち味だった腕の返しが浅くなって、それが元に戻らなくなったんだね」と真相を話してくれた。

 63年春にも早実は、優勝候補の筆頭として甲子園に出場して岡山東商小倉工呉港と撃破していくが、準決勝で谷木 恭平立教大-新日鉄室蘭-中日)のいた北海に逆転サヨナラ負けを喫している。

 以降、早実は12年間甲子園から遠ざかることになるが、これは独立した早稲田実業学校だったものが早稲田大系属校となったことで、入学などの条件が変わり、好素材の選手が集まりにくくなったということもあった。また、日大三日大一をはじめ修徳堀越日体荏原といった新しい勢力が出てきたこともあった。


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[page_break:荒木 大輔出現で、早実は東京だけではなく全国の注目の的となる]

荒木 大輔出現で、早実は東京だけではなく全国の注目の的となる

和泉 実監督

 早実が再びスポットを浴びるのは、77年に弓田 鋭彦(早大-新日本石油=現JX-ENEOS)投手と川又 米利(中日)らで連続出場を果たした頃からである。翌年もエース山岡 靖和泉 実(現早稲田実監督)というバッテリーで、連続出場を果たしている。そして、2年後の80年夏、エースとして予定していた芳賀 誠(早大)が東東京大会前に故障したということもあって、和田 明監督は窮余の一策として背番号16の1年生荒木大輔を起用した。

 これがハマって甲子園出場を果たすと、甲子園でも1回戦で北陽(現関大北陽)を完封。2回戦で東宇治を9対1と圧倒すると、札幌商興南瀬田工と3試合連続完封して決勝に進出した。この頃には、荒木はすっかり甲子園の人気者になっていて、マスコミも“大ちゃんフィーバー”と表現して騒いだ。甲子園は空前の“早実女子”人気となった。決勝の相手は、2年前に1年生投手として“バンビ二世”などと呼ばれていたこともあった愛甲 猛を擁する横浜だった。

 さすがに荒木にも決勝のプレッシャーがあったのか、ボークや守りのミスもあって、3回までで5点を失う展開で崩れていく。荒木もマウンドをエースナンバーをつけている芳賀に譲った。結局4対6で早実は敗退し、真紅の大優勝旗を手にすることができなかった。

 荒木と二塁手の小沢 章一(早大-千葉英和監督=故人)という二人の1年生が残った早実は以降2年間、東京都の高校野球の話題と注目を独占していく。翌81年東山に初戦敗退。高知鳥取西と連続完封するが、3回戦で金村 義明(近鉄-中日-西武)らのいる報徳学園に敗れる。「顔じゃ負けるかも知れへんけど、野球じゃ負けへん」という金村の、意地の言葉を導き出させた。こうして、この年も“大ちゃんフィーバー”は続いた。

 そして、荒木らが3年になった82年も早実は連続出場を果たしている。はベスト8に進出して好投手三浦 将明(中日)のいた横浜商に敗れる。そして迎えた、最後の夏は“大ちゃんフィーバー”もピークに達していく。

 荒木だけではなく石井 丈裕(法政大-プリンスホテル-西武-日本ハム)も台頭してきた早実は、投手陣は二枚看板となった。さらに打線も三塁手頭上を破った打球が、そのままスタンドに入るという、まるで漫画『巨人の星』の花形 満のような打球を放つ板倉 賢司(大洋)が1年下にいて、好守好打の上福元 勤(巨人)といった選手らとともに、万全の体制と言っていいものだった。

 1回戦は宇治(現立命館宇治)を12対0と圧倒的に下し、2回戦も板倉が漫画のような2本の本塁打を放って、星稜を10対1と圧倒する。通常はどちらかというと、不利なチームを応援することが多い甲子園ファンだが、この年だけはそんな空気が違っていた。えげつないくらいに強い早実を、黄色い声援がさらに後押しした。

 こうして3回戦も板倉の本塁打などで東海大甲府を6対3と下す。“大ちゃんフィーバー”のフィナーレは華々しく甲子園の優勝となるのかと、そんなストーリーが作成されるのかという印象だった。ところが、そんな早実の前の立ちはだかったのが、徳島の徳島池田だった。 

 エースで4番の畠山 準(南海-ダイエ--大洋・横浜)と5番に“阿波の金太郎”と呼ばれた2年生の水野 雄仁がいた徳島池田は、水野が2打席連続本塁打するなどで、全員で20安打を放って早実を粉砕。都会のヒーロー荒木と板倉のいた早実は“やまびこ打線”の逞しい軍団に木っ端微塵に打ちのめされたのである。

 こうして“大ちゃんフィーバー”は早実女子たちの悲鳴とともに、吹っ飛んでいったのだった。

(文:手束 仁) 


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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