Column

県立武庫荘総合高等学校(兵庫)

2015.06.25

 20年前の95年夏尼崎北高校の監督として甲子園に出場した実績を誇る植田 茂樹監督が2010年にチームを率いて以来、13年夏には県ベスト8、14年春はともに県ベスト16まで勝ち進むなど、着実に力をつけている武庫荘総合。夏の決戦を翌月に控えた6月中旬、兵庫県尼崎市に位置するグラウンドを訪ねた。

驚かされた挨拶力と「目配り、気配り」

テキパキとおにぎりをつくるマネージャー(県立武庫荘総合高等学校)

「こんにちはっ!」
グラウンドに到着するや、武庫荘総合ナインが元気な挨拶とともに出迎えてくれた。どの選手も、きちんと足を止め、しっかりと目を合わせてくれる。おざなりな挨拶をする選手は皆無だ。

「こちらの部屋へどうぞ! 監督はもうすぐグラウンドに来られますので!」
女子マネージャーさんのてきぱきした案内でバックネット裏の一室に導かれる。
「飲み物は何になさいますか?」
選び得るドリンクの種類の豊富さに驚きつつ、アイスコーヒーをお願いしたところ、
「砂糖とミルクはどうされますか?」
取材前に立ち寄った某ファストフード店の店員も顔負けの見事な対応だ。

武庫荘総合高校のマネージャーは素晴らしい!」という評判を耳にしたことは過去に幾度もあるが、なるほど、同感である。

 そこへ登場したのが、今年で就任6年目を迎えた植田 茂樹監督だ。
「マネージャーの対応が素晴らしい?ありがとうございます。マネージャーたちには『気配り、目配りができないとマネージャーをやっている意味がない』と常日頃から伝えています。せっかくチームの役に立ちたいと入部を志願してくれたわけですから、しっかりとチームをマネージメントしてほしいと思っています」

 武庫荘総合のマネージャーの仕事は来訪者の対応だけでなく、スコアブックのデータ処理などもすべて一任されている。
現在、女子マネージャーは3学年合わせ、5名が在籍。チームにとって不可欠な戦力である。

メンタルトレーニングの術は日常の中にある

守備練習する選手たち(県立武庫荘総合高等学校)

「うちでは、いくら野球がうまかろうが、学校生活、私生活がチャランポランな選手は試合にも出られないし、メンバーにも入れません」
と植田監督。遅刻、授業時間に携帯電話を触る、といった要素も即刻練習停止の対象となる。

「野球がうまくても、周囲に『あいつは人間としていい加減』と思われていたら、そこに信頼なんて絶対に生まれないと思うんですよ。つまりそんな選手をうまいからと使っている限り、本当の意味でのチームワークは生まれないし、誰のプラスにもならない。私生活をきちんとすることは、うちのチームにおいては競争のスタート地点に立つための最低限のこと。ここの部分においては一切妥協しません」

 指導者として、私生活最重視の方針を現在のように徹底するようになったのは現職就任後だという。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:フリー打撃を真剣勝負で行う理由とは]

「以前は、『勝たなければ』『甲子園に行かなければ』という思いが強すぎるあまり、技術的な部分にこだわりすぎて、学校の中の部活動であるという、いわば一番大切な部分を見落としていたことに気づかされたんです。高校を卒業した後にどれだけ社会で通用する人材を育てられるか、といった視点も今にして思えば欠けていた。そこでこの学校では、勝利という結果よりも私生活、学校生活をおろそかにしないことを徹底するようにしたところ、安定した結果がついてくるようになっていったんです」

 近年、高校野球界においても、メンタルトレーニングの重要性が叫ばれるが、「基本的生活習慣をきっちりとすること自体が、メンタルトレーニングの役目を果たす」と植田監督。
「絶対にやると決めたことはどんなに辛くてもきっちりと我慢してやりきる。そういった妥協なき日常の生活そのものが、いわばメンタルトレーニングなのだと。そういった日々の積み重ねで生まれた精神的な強さが、ここぞという大事な場面で結果を出せる選手、チームを生むのだと確信しました」

「監督は学校面、私生活の面でものすごく厳しい。一切の妥協が入り込む余地がありません」
と証言するのは武庫荘総合を引っ張る北窓 拓也主将だ。
「最初は私生活と野球がそこまでリンクしているということが理解できなかったんですけど、今ではその関連性を部員全員が実感、理解できています。技術力で私学に劣るうちのチームが上位をうかがう結果を出せている大きな要因のひとつだと思っています」

フリー打撃を真剣勝負で行う理由とは

ティー打撃を行う選手たち(県立武庫荘総合高等学校)

 武庫荘総合の平日の基本全体練習時間は15時50分から19時半。グラウンドは他の部との共用のため、平日の放課後にフリー打撃が行えるのは、野球部に優先権のある火曜日と木曜日の18時以降に限られる。

「グラウンドが全面使える日が平日はこの2日しかないので、ここぞとばかりにバッティング練習を行います」

 フリー打撃に参加できるメンバーは3学年合わせ83名いる男子部員のうち24名のみ。キャプテン、副キャプテンが週末の試合における結果や日頃の取り組み方などを鑑み、その週のフリー打撃メンバーが決定される。
「24人に絞るのは本意ではないし、できることなら部員全員に打たせてあげたい。しかし打撃練習を行える時間がここまで少ないと、メンバーを絞った方が、チームにとってはプラスになると判断しました」

 取材日は木曜日。18時になると、3ヵ所(手投げ2ヵ所、マシン1ヵ所)でのフリー打撃が始まった。しかしその光景は想像していたものとは異なっていた。フリー打撃と言えば、ピッチャーが投げる半速球のボールを打者が気持ちよさそうに連続で打ち返すシーンをイメージしがちだが、武庫荘総合のバッティングピッチャーたちは本番さながらの「勝負モード」で打者と相対していた。

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僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
[page_break:戦いの鍵を握るのは打線の「アドリブ力」]

「マシンのゲージは打つ本数を決めて行いますが、ピッチャーが投げる2ヵ所のゲージに関してはキャッチャーが実際にサインを出し、変化球も交えながらの真剣勝負です。ピッチャーはインコースもどんどん攻めながら全力で打者を抑えにかかり、打者はそのボールを弾き返すべく、懸命に食らいついていく。1打席勝負が終わるごとに次打者と交代し、どんどんローテーションで回していきます」

「うちではピッチャーが投げる半速球のストレートを気持ちよく打ち返すフリー打撃などありえません」と植田 茂樹監督。

「試合で結果を残すことを考えれば、真剣勝負形式の方がはるかに有効だと思っています。フリー打撃に限らず、試合の時と同じ緊張感を持って常に練習するということがポイント。試合と同じ緊張状態で練習してこそ、本番で結果が出せるチームになれるのだと思います」

 北窓 拓也主将は、「試合時に近い精神状態で練習することの効用を大いに実感しています」と語った。
「日頃の練習で本番モードさながらにガンガン追い込まれている分、試合で変に緊張することがなくなりました。練習と同じ気持ちで試合に臨めることは本番で結果を出す上で大きなアドバンテージだと感じています」

戦いの鍵を握るのは打線の「アドリブ力」

「うちの場合、ノーアウトまたはワンアウトでいかにしてランナーを三塁に置いた状況を作れるかがポイントになります」

走塁練習を行う選手たち(県立武庫荘総合高等学校)

「戦術面に関し、こだわっている点は?」という問いを投げかけたところ、植田監督からはそんな答えが返ってきた。
「公立校の監督を長年務めて思うことなのですが、私立の強豪相手にノーアウト一塁の場面で送りバントによってランナーを二塁に進めても、なかなか点が入らないんですよ。決定打はそうそう打たせてもらえないし、エラーだってそう簡単にしてくれない。外野手の肩も総じていいのでヒット一本でランナーも簡単に還ってこれない。そう考えると、ツーアウトになる前にいかにしてランナーをサードまで進めるかが戦い方の鍵となってくる。そのためにはエンドランを絡めるしかない」

 植田野球を実践すべく、武庫荘総合の打者たちに求められるのは「高いアドリブ力」だ。
「仮に一塁ランナーが盗塁を試みたとします。もしもスタートが悪かった場合、バッターは手を出し、ランナーを助けるのがうちのチームの約束事。つまり盗塁が一瞬にしてエンドランに切り替わることもあり得るのがうちの野球です。反対にエンドランのサインが出ていた場合は、ランナーのスタートがよければ瞬時に単独盗塁に切り替わります」

 一塁ランナーがスタートを切る際は、走者が見える右打者限定の作戦だが、ランナーが二塁にいる場合は左打者にも同様のアドリブ力が要求される。
「正攻法で戦って、私学を倒せる力はうちにはまだない。打者と走者の連携を生み出すアドリブ力を高め、なんとか得点に結び付けていきたいと思っています」

 北窓主将は言う。
「技術力に関しては県上位の私学との差は依然あるのかもしれないけど、そこを部員全員の結束力でカバーしたい。矢を束ねたような強さを前面に押し出し、先輩たちが超えられなかった県ベスト8の壁を是が非でも破りたいです。部員全員が『最善を尽くした』と言い切れる野球をしてみせます」

 ダークホース・武庫荘総合の熱き一丸野球に要注目だ。

(取材・文=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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