西武学園文理高等学校(埼玉)
激戦区といわれる埼玉県。その中で、西武文理は毎年上位校と接戦を演じてきている。昨年春はベスト16、昨夏は4回戦で、この年ベスト4の正智深谷に3対4と粘るも敗退。昨秋も県大会2回戦で、花咲徳栄に1対3と健闘を見せた。
そんな西武文理は学業重視で、練習時間も短く、全体練習は平日は約2時間半。16時から開始し、18時半までにはグラウンド整備まで終了しなければならない環境だ。また指導者も学校の行事などで参加できない日も多い。そんな中で、いかにして選手は高い力を身に付けていっているのだろうか。
練習メニューは選手たちが考案する
手のストレッチの様子(西武学園文理高等学校)
率いる刀川 正明監督は、教師という仕事を全うしなければならないので、1日を通して見れる時間が少ないことを明かしてくれた。
「私と部長の二人とも全く来られない日もある。それを考えると、指導者がいないと何もできないチームではなく、指導者がいなくても変わらずにしっかりと取り組めるチームを作ったほうが良い考えています」
選手たちがいかに精神的に成長し、自立できるか。そこで始めたのが部署制である。
「本人たちの精神的な成長も含めると、うちには合っているのかなというところから始めたのがこの制度です」
具体的にはどんな取り組みを行っているのか主将の大塚選手に聞いてみた。
「うちでは、技術、バッテリー、投手、内野、外野、打撃、走塁の7つの部署があり、各部のリーダーが技術を上げるためにメニューも自分たちで作成しています」
指導者はすべての練習日に出られるとは限らない。指導者が決めたメニューをこなすのではなく、毎日参加する部員たちが、うまくなるために自ら考えたほうがずっといいだろう。短い時間の中で、どれだけ効率よく技術を上げられるかを考えて取り組ませている。
この仕組みについて刀川監督は、
「選手も部署制に関しては自分たちが練習メニューを作成できることが良い点ですと言っていましたので、良いと思います。あとはその部署制の長の人たちが野球に対しての取り組みだったりとか、技術的なことを伸ばしていかないと下はついてこないので、そこは選手たちに伝えています。
これは会社の組織と一緒だと思っています。リーダーである彼らが次のステージはどこを目指すかというのを見せてあげないと、小さな組織で、伸びていかない組織で終わるんだろうなと。
この今の長の子たちがワンステップ、ツーステップ上がるためには、コミュニケーションを取っていくことが大切だと思います」
「八つの徹底事項 日本一」(西武学園文理高等学校)
まるで会社の組織のようなこの制度。刀川監督は社会の縮図と表現する。
「リーダーからちゃんとみんなに伝えられることを求めています。組織として動いていくことを意識することが今後、社会に進んでいくなかで役に立つと思います」
またこの部署制では、それぞれの部署で技術を伸ばすことについて取り組んでいるが、それとは別にチームの柱として8つの徹底事項があり、それを柱として練習・日常生活に取り組ませている。
・挨拶
・返事
・姿勢
・時間管理
・道具管理
・整理整頓
・全力疾走
・生活習慣
この8つの事項を行わせるのは、野球部は学校の模範になってほしいという思いからだ。
実際、選手たちは学校の最寄り駅である新狭山駅を、日ごろから感謝の気持ちを持って掃除をしている。周りに貢献することで、応援される野球部に代わり、それが「全校応援」になり、甲子園に出たら狭山市全体が応援してくれるかもしれない。そんなことを思い描きながら普段から取り組んでいるのだ。
自分の理想をどこに置くか?
グラウンドに集まるナイン(西武学園文理高等学校)
練習の中で求めているのは、他の人より、多く練習をすることができるか。
「例えば100メートル走るのを、103メートルまで全力で走る。他の人よりも1本多くバットを振るなど、ちょっとでもいいと思うんですよね。なにか少しでも頑張っている姿勢を見せれると違うと思っています。それが技術につながるかはわからないですけれど、圧倒的な技術の子はいないと思うので、やっぱり背中を見せられるという意味で、そういうところから下手くそだけれど、人より頑張る習慣の方がいいと考えています」
そして選手たちの力を発揮させるために意識づけとして行っていることがある。それは自分の活躍するイメージを抱くことだ。
「やはり高校の時に、高校野球を頑張って終わりというイメージではなく、自分は大学でやるからとか、社会人にいくからとか、プロを目指しているなど、今やっていることが終点ではなくて、その先を考えて取り組んでいる姿勢が望ましいですね。
自分たちの理想をどこに置くか、甲子園で1回勝つために練習をしてるのか?勝ったらどうなるかというところを、夢を膨らませてトレーニングをすることがとても大事だと思っています」
その夢を実現するために、どれだけ自分を追い込めるか。
「甲子園に出場すれば、ミラクル西武文理とか新聞に載りますし、活躍の模様が学校全体に伝えられる。大学、社会人になった時に自分をすごいと思える自分があればいいじゃないですか。その世界が見えて、取り組むことはすごく大事だと思うんですよ。
教育者としては全くそういう事をイメージしないよりも、夢を膨らませて、自分が成功したイメージをちゃんと持って、そのために今ここ頑張ろうぜって言い聞かせることが必要だ思っています。甲子園を目指すために取り組めば、本当はベスト8で負けそうなチーム力でも、その気持ちが強く、決勝までいけるという可能性もあるんです。甲子園を目指すつもりで取り組ませたほうが子供たちに良いかなと思っています」
どれだけ良いイメージを持たせて、選手たち自身に本気で取り組ませるか。これは練習メニューも選手たちが考案する西武文理だからこそ取り組める考え方である。
昨秋より成長を実感している
西武文理は昨秋ベスト4の花咲徳栄に敗れたが、接戦を演じた。
大きく差を感じたのは打撃であった。大塚主将は、
「花咲徳栄と比べて打球の質などが全然違うと感じました。その差を埋めるために冬場は徹底的に振りこんできた結果、みんなスイングが速くなっています」
また野手だけではなく、投手もスキルアップを行ってきた。
「トレーニングを積み重ね、球速が上がり、コントロールもすごく良くなった。守備はスローイングの練習も多くしてきたのでそこを見てほしい」と手応えを感じている。
また甲子園常連校のようなチームに勝つために、どんな戦い方を見せていきたいと考えているのだろうか。
「厳しい戦いにはなると思いますが、終盤で逆転、ワンチャンスをモノにして勝ちたい。そのために守備を鍛えて、ワンチャンスで打てるように打撃も鍛えてきました。そして走塁では一死二塁でホームに帰れる練習をしています」
と課題を明確にしながら取り組んでいる。普段から甲子園に行くことをイメージしている選手たち。そのイメージを実現させるためにも、まずは春の戦いが重要になる。
(取材/文・南乃 啓之介)