Column

日本文理高等学校(新潟)【後編】

2015.03.29

 逆転の文理と呼ばれる理由

 前編では、日本文理が強くなるまでの過程を紹介してきた。大井監督が掲げる“考える野球”が結実したのが、甲子園で準優勝した2009年(試合レポート)。下馬評が高いとは決して言えなかったこのチームは、試合を重ねるごとに強くなり、決勝へ進出。9回裏二死からの驚異の粘りで生み出したドラマは、今も語り継がれている。

100パーセント以上の力を出した2009年ナイン

室内練習場での打撃練習(日本文理高等学校)

「2009年のチームは、甲子園でも1試合ごとに力を付けていったね。ただハッキリ言って、あの当時の子供たちに力はなかった。子どもたちもそれは分かってると思う。でも、あの子たちは、自分の力を100%以上出して戦った。甲子園では『この子にこんな力があったんか!』って俺が驚いたんだもん(笑)。でもそうかと思えば、逆に自分の力が半分も出せずに終わってしまう選手もいる。それが甲子園の怖さでもあり、すごさでもあるよね。

 あの時は、初戦の藤井学園寒川戦で逆転勝ちして、それでチームが乗れた。それまでは固くなっていたんだよ。試合前の練習を見て、部長にも言ったんだ。『うちのバットに鉛入ってないか?』って(笑)。でも試合の途中からだな。『ピッチャーが代わったから、お前らいけるぞ』って選手に言ったんだ。暗示に掛けるわけじゃないけど、監督は選手を『よしこれで行けるぞ!』って気持ちにさせないとね。監督がベンチでオタオタしていてはダメ。例えば、3点、4点取られても平然としてないといけない。

 というのも、選手は監督の顔見ながら試合してるから。監督が平然と『心配するな。お前らこれくらい取り返せる』って言ってると、『あれ、大量点取られても監督落ち着いてるな。これはいけるかもしれない』って気持ちになるんだ。それがおれが『何やってるんだ~』って慌てたら、選手も動揺しちゃうわけ。子どもたちは、監督の顔を見てないようでちゃんと見てるから、どんと構えて、平静にいることを心掛けている。

 そして、『うちは7回からが勝負だからな』ということは常に言っておくのよ。それを頭にたたきこませておくわけ。だからうちの試合は7回からの得点が多いでしょう。先制、中押し、だめ押しが理想だけど、そういう野球が出来ずに、たまたま先に点を取られちゃう。だから“逆転の文理”なんて呼ばれちゃうんだ(笑)」

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[page_break:絶対的なエースと頼りになる主将が不可欠]

絶対的なエースと頼りになる主将が不可欠

 準優勝した2009年ベスト4に進出した昨夏のチームが勝ち上がった要因として、大井監督は共に、軸となるエースがいたこと、頼りになる主将がいたことを挙げる。

現役世代の主将・太田 貴己選手(日本文理高等学校)

2009年はエースの伊藤 直輝(現ヤマハ)、主将の中村 大地昨夏はエースの飯塚悟史(現横浜DeNAベイスターズ)、主将の池田 貴将(現東洋大)がしっかりしていた。これがチームをまとめた。

 とくに昨年のチームは、『池田の言うことは絶対』ってナインが信頼していた。これが大きかったね。監督は練習の現場でしか顔を合わせないけど、キャプテンは常にナインと一緒にいるわけだから、キャプテンがしっかりしてるかしてないかでチームは大きく違うよ。

 ベンチ外の選手のケアも怠らなかったというのはあの子の偉いところ。部員が多いと不平不満を言う子も出てくる。そういう声を大人の力を借りずに、監督の耳に入らないようにいろいろやってた。

 それを支えた鎌倉航(現法政大)と小太刀緒飛(現早稲田大)の両副キャプテンもよくやったよ。とくに鎌倉は成長したな。鎌倉はね、本当は自分勝手なの(笑)。だから副キャプテンにした。ほかの部員も面倒見るだろうと思って。そしたらあの子は分かったんだろうな。自分のことだけって選手だったのが変わったの。野球ってのはみんなでやるものだって。で、いいキャッチャーになった。

 そしてね、これは俺は教えてないんだけど、つなぐ意識っていうのかな。自分が出るから次頼むよとか、次のバッターも次に繋げる。そういう意識をね、先輩から受け継いでいると思ってる。それも、先輩が口に出して言うんじゃなくて、子どもたちがそれを見ていて、『よし、じゃあ俺たちも』となっている。昨夏のチームはそれが強かったんじゃないかな。これが伝統になってるんじゃないかな」

 冒頭のシーン。豪快に笑った次の瞬間、監督の目つきが変わった。勝負師の目になった指揮官は、言葉を続けた。
「でもね、やっぱり最後は気持ちなんじゃないかな。どうしても全国制覇するんだという強い気持ちが必要だし、その気持ちを持ち続けているところが勝ち上がる。準決勝以上なんて実力派伯仲。どこが勝ち上がってもおかしくなかった。そういう意味では、(昨夏優勝校の)大阪桐蔭はその気持ちが強かったんだろうな」

 経験をもとに、技術はもとより選手の心を育む大井流の育成術。まだ見ぬ甲子園の頂を目指して、手塩に掛けた子供たちとともに指揮官の挑戦は続く。

(取材/文・編集部

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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