東海大学菅生高等学校 勝俣 翔貴選手「投打でひと回り成長できた真夏のトレーニング」
9年ぶりに甲子園出場する東海大菅生。投打の中心選手が勝俣 翔貴選手だ。投げては140キロ台の速球を投げ込み、打っては公式戦2本塁打の長打力と、投打両面で、パワフルなパフォーマンスが光る。その勝俣選手に、入学当時からここまでのエピソード、冬に取り組んでいること、選抜の目標を語ってもらった。
真夏の走り込みが秋季大会に生きる
勝俣 翔貴投手(東海大菅生)
今年の東京都ではドラフト候補として大きく注目される勝俣 翔貴。入学時から大きな期待をかけられ東海大菅生の門を叩いた。この時の自分を振り返ると、かなり体重が多かったようだ。
今は180センチ78キロと締まった体つきをしているが、入学当時は、83キロ。まずは余計な肉を落とすトレーニングから始まった。来る日も、来る日もランニング。最初は嫌々ながら取り組んだ。
こうして勝俣は、体重を落として、1年夏から3番サードで出場。準々決勝まで勝ち進んだが、準々決勝で対戦した創価の内野 聖士郎投手の140キロ台の速球、変化球のキレに圧倒され、これが「高校野球のトップレベルの投手なのか」と衝撃を受けた試合だった。
勝俣は練習試合で投手としてマウンドに上がることはあったが、2年夏まで野手としての出場が中心だった。勝俣にとって転機が訪れたのは、夏の大会後の練習期間だった。この時、勝俣は決勝戦で死球を受けて、左手薬指を骨折。投げることができなくなり、やることは走り込みとウエイトトレーニングになった。かなり苦しかったが、あと一歩で甲子園を逃した悔しさが勝俣の気持ちを後押しした。
8月下旬に復帰した勝俣は、練習試合で横浜相手にノーヒットノーランを達成するなど、投手として目覚ましい活躍をみせる。そしてこの時、投手としての成長を実感する。
「6月の時点で140キロは出ていましたが、思い切って投げて、たまたま140キロが出ただけ。でも、夏に走り込みをしてから、球速を維持できるようになって、完投できるスタミナが付きました」
勝俣は7回、8回になっても球速が衰えず、140キロ前後の速球を投げるなど、スタミナのある投手。やはり走り込みの成果が出ているかと聞くと、
「そうですね。今までだったら打者一巡投げたら、バテていて、ガクッと球速が落ちてしましたが、それがなくなって、試合を通して投げれるようになりました」と、走り込みの成果を実感していた。
投手・勝俣には、もう一つの武器がある。それが縦のスライダーだ。打者の手元で鋭く落ちる軌道で、空振りを奪っていくが、きっかけは吉田 凌(東海大相模)の投球をテレビで見ていたことだった。
「すごい落ちるなと思って、このボールを投げられたら大きいと思って、練習をはじめました」
握りは教えてもらったわけではない。だが、こういう握りをして、こういう腕の振りをすれば、落ちるという感覚を見つけた。腕の振りは直球と同じく思い切り振ることだ。そうして決め球を得た勝俣は秋季大会に臨む。
投手として、自信を持てた試合が帝京戦(試合レポート)。何度もピンチを迎えながらも粘り強く抑えて、2失点完投勝利を挙げた。この試合について勝俣は、
「ピンチでどう投げれば良いのか分かってきました。自分の投球ができれば抑えられると思っているので、ピンチになってもあまり気にすることはなくなりました」
精神面の成長もカギを握っているようだ。
秋では自分のイメージ通りの打撃ができた
勝俣 翔貴投手(東海大菅生)
また打撃面ではどんな影響が出てきたのだろうか。
「スイングスピードも速くなりましたし、それによって打球の飛距離も伸び、速度も変わってきました。自分の打撃ができてきています」
勝俣の打撃スタイルは始動を遅くして、手元までボールを呼び込んで打つ。この打法は一定以上のスイングスピードがなければ、打ち返せない。勝俣は入学時からこの打法だが、まだ夏まで自分のモノにできていなかった。しかし、秋にはスイングスピードが速くなり、ボールを長く見る余裕が持てるようになると、ようやく自分の打撃ができるようになった。明治神宮大会・静岡戦(試合レポート)の本塁打は低めに入る変化球を見逃さず、打ち返したが、勝俣にとっては理想の打撃ができたようだ。
勝俣はどんな打球を求めているのだろうか。
「あまり一発を狙っているわけではなく、内野の間や外野の間を抜く鋭い打球を打てるように心掛けています」
どの打席でも、しっかりとライナー性の打球を打てることを考えて打席に入っている。憧れるのは、金本 知憲(元阪神)。金本選手から参考にしていることを聞くと、
「上から強く叩くことを意識しているように感じましたし、広角で強い打球が打てるので、自分もそんな打撃ができれば良いと考えています」
ここで秋に出た課題について聞いてみた。
「投手としては、コントロールですね。打者としては甘い球を確実に仕留める能力です。まだ秋の時は、打ち損じが多く、難しい球に手を出して、凡打にすることがありました。甘い球を確実に仕留めることができれば、もっと打てると考えています」
勝俣は真夏の走り込みで、選手として一皮むけたが、まだ自分自身、課題は多いと考えている。
昨年の先輩の成長を見て、さらにトレーニングに打ち込む
勝俣 翔貴投手(東海大菅生)
秋が終わって、勝俣はさらにトレーニングに打ち込んでいる。打ち込む理由が2つある。まずは夏に走り込んだことで、球速アップ、長打力アップにつながったこと。そして2つ目は昨年のエース・高橋 優貴の急成長だ。高橋は3年になるまで140キロを超える投手ではなかったが、一冬超えて球速がかなり速くなり、昨夏の西東京大会準決勝では左腕から常時140キロ・最速145キロを出すまでに成長。勝俣にとって高橋の成長は大きな刺激になり、先輩に続きたい思いがあった。
「高橋さんも冬に真剣に取り組んで、夏であれだけ活躍したので、自分もそんな成長ができればと思って、今は一生懸命やっています」
2月に入り、実戦形式の練習も多くなり、取材日に行われた紅白戦では勝俣が先発。秋に比べると牽制を入れることが多くなっていた。そこについてどう考えているのか。
「普段からやっている選手たちばかりなので、何をやるかはだいたい分かっています。でも、選抜に向けては、相手のことを研究して防げるようにしたい」
相手走者の思い通りにさせないように取り組んでいる様子が見えた。また毎回、安打を打たれピンチを迎えながらも、抑えることができていた。
「僕はヒットを打たれない投手ではなく、点を取られない投手を目指しているので、あまりヒットを打たれることを気にしていないですね」
安打ではなく、点を取られないこと。試合を任される投手はどうあるべきなのかをしっかりと考えている。打撃については、
「実戦から離れていたので、まだ感覚が戻っていなかったのですが、だんだん打席をこなしていけば、慣れてくると思います。スイングは自分のイメージ通りにはできているので、このイメージを固めることができればと考えています」
勝俣は自分のイメージ通りでスイングすることを心掛けている。そのため仲間に動画などを撮影してもらって、良いイメージのものを固めようとしている。
そして、選抜に向けて、投打両面の意気込みを語ってもらった。
「投手としてはヒットは打たれても、粘って抑えたいと思っています。最小失点にとどめてダメージが少ないようにしたい。良い投手からたくさん打てたら良いですね」
今年の選抜は好投手が多い。その中で、対戦したい投手は、
「県岐阜商の高橋 純平君と、秋打てなかった浦和学院の江口 奨理君(試合レポート)と対戦したいですね」
投手としては自覚の高さが感じられ、野手としては主力打者の自覚と、好投手を楽しみにしている様子だった。
明治神宮大会後、12月に行われた東南アジア選抜の代表メンバーに選ばれた勝俣は、壮行試合となる日本大学戦で豪快な本塁打を放ち、同じ代表メンバーを驚かせた(試合レポート)。すでに東京では、彼のポテンシャルの高さは十分に伝わっている。東海大菅生にとって19年ぶりの甲子園勝利へ向けて、投打で大暴れを誓った。
(インタビュー・河嶋 宗一)