Column

投げ始めに腕がしびれるとき

2015.02.15

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 皆さん、春のシーズンに向けての準備は進んでいますか。日によって気温の変動はありますが、暖かい日になればボールを握ってキャッチボールを行ったり、守備練習を行ったりと、野球の練習を行う日も増えてきているのではないかと思います。今までの基礎体力づくりがしっかりとプレーに反映されるといいですね。

 さて今回はこうした春先にキャッチボールを行う、ピッチングを行うと「腕が痛い、しびれる」ということを訴える選手がいます。どうしてこのような痛みが起こるのかをわかりやすくお話したいと思います。

腕を上げる動作が原因?

 シーズン中は毎日のようにキャッチボールを行ったり、ピッチングを行ったりしていますが、投球後に感じる肩周辺部の痛みとは別に、「投げ終わったあとに腕が痛い、しびれる」といった症状に悩まされる選手がいます。特にケガなどでしばらく投球を控えていた選手が復帰したときや、オフシーズンからシーズンインに移行する時期などによくみられます。

 投球動作では毎回腕を上げる動作が伴うのですが、こうした腕を上げる動作が原因となって、腕に痛みやしびれを引き起こすことがあります。投球後の痛み・しびれ感がしばらく続くようであれば、医療機関を受診して詳しく見てもらう必要があります。

胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群とは

胸郭出口は血管や神経の通り道

 皆さんは胸郭出口(きょうかくでぐち)症候群という言葉を聞いたことがあるでしょうか。腕を上げる動作を繰り返すことによって、痛みやしびれといった症状を引き起こすものの中に、こうした診断を下されるケースがあります。

「胸郭」とは、心臓と肺を囲んでいる骨格(胸椎・肋骨・胸骨)の部分をさし、「胸郭出口」とは心臓からの血管が胸郭から腕へと出ていくところ、すなわち鎖骨の上のくぼみ、鎖骨と肋骨の間のすきまのことをさします。この胸郭出口を通って血管は腕や手・指先まで流れていくのですが、この部分はもともと狭いすき間であり、さらに脊髄から出た神経の束(腕神経叢:わんしんけいそう)も一緒に、この狭いすきまを通って腕へのびています。

 腕を上げる動作は胸郭出口のすき間を狭くすることがわかっており、さらに何度も繰り返して行うと、ただでさえ狭いすき間がさらに狭くなり、血管や神経を圧迫して腕、手、首、肩の痛みが起こったり、しびれたりするようになります。両方の腕を肩よりも上に上げ、手指のグーパーをしばらく繰り返すと投球側の手首の脈拍が触知できなくなったり、冷たいという感覚をもたらすこともあります。

 投球動作を繰り返す野球選手は、こうした胸郭出口症候群になるリスクは一般の人よりも高いと考えられるのです。

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[page_break:考えられる原因 / 血流を良くすることが大切]

考えられる原因

投げるときは十分に身体を温め、ケガを防ごう

 しばらく投球動作を行ってなかった選手が、投球動作を再開するとき、「筋力の低下」が胸郭出口症候群を引き起こすことがあります。いつもと同じように投げていても、肩周辺部の筋肉には大きな負担がかかり、柔軟性が低下してかたくなります。

 また「肩に力が入る」という言葉があるように、下半身から体幹、上半身への運動連鎖がうまくいかず、いわゆる「上体投げ」になってしまうときも、肩に力が入った状態となりやはり筋肉には大きな負担がかかります。そして柔軟性の低下した筋肉は、胸郭出口付近の血管や神経を圧迫するようになり、痛みやしびれを起こすのではないかと考えられます。

 春先にこうした症状が多い原因としては「筋力の低下」とともに、気温が低く、身体が十分に温まっていない状態でのプレーがやはり肩周辺部の筋肉に大きな影響を及ぼすのではないかと思います。

 またフォームの安定性が十分でない状態の時に、ただひたすら投げ込みを繰り返すとこうしたケガのリスクが高まるでしょう。オフシーズンのウエイトトレーニングなどで、肩周辺部を含め、投げる筋力を維持し、コンディションを整えた上で投球動作を行うことが理想的です。

血流を良くすることが大切

 このような症状がみられる場合は、肩周辺部の筋肉をストレッチし、柔軟性を高めるようにしてみましょう。首や肩周辺部だけではなく、体幹や下半身の硬さが原因となることもありますので、練習前後や入浴後などにストレッチを行うようにします。また肩甲骨の安定性を高めるためのトレーニングや、肩周辺部の筋力強化などを痛みのない範囲で行うようにしましょう。また十分なウォームアップを行い、身体の中から筋温を上げていくことは全般的なケガ予防という点からもオススメです。

 コンディショニングのキーポイントとしては「身体を温めて血流を良くする」こと。痛みが続く場合は圧迫している筋肉に対しての筋弛緩剤注入や手術的処置を行うこともありますが、これは最終手段です。

 思い当たる節のある選手の皆さんは、ぜひこうしたコンディショニングも取り入れてみてくださいね。

【投げ始めに腕がしびれるとき】
●春先に腕の痛みやしびれに悩まされる選手がいる
●腕を上げる動作を繰り返すとこうした症状が出ることがある
●胸郭出口症候群は「胸郭出口」のすき間が狭くなることで起こる
●ケガから復帰したばかりの選手は筋力の低下によって肩への負担が大きくなりやすい
●シーズン始めの時期も気温が低く、十分に身体が温まっていないとケガのリスクが高まる
●肩・首まわりのストレッチ、トレーニング、入浴など「血流をよくする」ことを行おう

(文=西村 典子

次回コラム公開は2月28日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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