Interview

花巻東時代の女房役・佐々木 隆貴選手が語る「アイツのこと」【前編】

2015.02.02

 昨年2年目ながらプロ野球初の二桁勝利&二桁本塁打を記録し、今や世間で最も注目を集めている野球選手といっていい大谷 翔平。今回は高校時代に視点を移し、大谷とバッテリーを組んだ佐々木 隆貴捕手に登場してもらった。佐々木選手は現在、東都大学野球連盟に所属する日本大学でプレー。正捕手を目指し、日々練習に取り組んでいる。そんな佐々木選手から大谷との出会い、成長過程、バッテリーとして過ごした日々、練習に取り組む姿勢、普段、グラウンド上で見せる素顔など大谷について余すことなく話をうかがった。

第一印象はかなり細く、本当にすごい投手なのか疑いの目を持った

佐々木隆貴選手(2011年秋の東北地区大会 準決勝 光星学院戦より)

 佐々木が大谷を初めて見たのは、意外にも遅く、高校に入学した時だった。入学前、「すごい投手」だとは聞いていたが、初めて大谷を目にした時、本当にそんな投手なのかと疑いの目を持ったという。

「身長は高かったですが、体重は60キロ台だったので、本当にヒョロヒョロでした。投げても、打っても非凡で、すぐにメンバーに入っていましたが、一目見てすごい投手なのかというと、まだまだだったことを覚えています」

 大谷が1年春から公式戦出場を果たす一方、佐々木がベンチ入りしたのは1年秋からだった。佐々木はこの時期から大谷とバッテリーを組み始め、そこで大谷のすごさを実感することになる。大谷の速球、スライダーが全く捕れなかったのだ。
「入学したころと比べると、ストレートは速くなっていましたし、何より凄かったのはスライダー。本当にエグい曲がり方をするんです」

 大谷翔平が投じるボールを捕球できなければレギュラーの道はない。佐々木は、朝練と練習後の時間を特訓に充てる。マシンで高速スライダーを設定し、来る日も来る日も捕球練習に明け暮れた。一冬超えて、大谷は2年春に最速151キロを計測するまでにパワーアップしていたが、捕球練習の成果もあり、少しずつ大谷の球を捕れるようになったのだ。

 これで大谷の捕手も務まる!と喜んだのもつかの間。大谷は2年夏の大会前に左股関節の骨端線損傷の影響で登板が出来ず、野手の出場が中心となった。優勝を狙う花巻東にとっては危機的な状況だった。しかし正捕手に成長した佐々木は、懸命なリードで各投手の持ち味を引き出し、花巻東を2年ぶりの甲子園出場へ導いた。

 迎えた甲子園初戦は東東京の強豪・帝京。試合は激戦となった。大谷は打者としては3打数1安打2打点と結果を残し、投手としてはケガが完治していなかったものの、最速150キロを計測するなど奮闘を見せたが、5.2回を投げて3失点。惜しくも7対8で敗れた。佐々木は1点を追う9回表に守備妨害を取られたことを悔やんでいた。

「自分のミスで、守備妨害を取られて夏が終わったのは悔しかったですね」
佐々木と大谷以外に、2年生ながら試合に出場したのは6人。3年夏で再び甲子園に出場するために、チームは再び動き始めた。

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[page_break: 食トレの効果絶大]

食トレの効果絶大

 夏が明けても、大谷は左股関節の治療のため、2年冬の12月までは走り込みができなかった。この時、取り組んでいたのが「食トレ」。徹底的に食べるトレーニングである。まともに走れないので、体重は増えたものの、脂肪も増えていた。シャープな顔つきの今とは違い、丸っこい顔になっていた。

「食べるだけですし、練習が出来ないのは、大谷にとってストレスだったと思います」と佐々木は語る。

マウンドに集まるナイン。右:大谷翔平選手、右から2番目:佐々木隆貴選手(2011年秋の東北地区大会 準々決勝 学法福島戦より)

 ケガをしたときに、「五体満足でプレーできることがどれだけ幸せなことなのか」がわかる。大谷はその時、強く実感していた。

 だがこの食トレは効果があった。この食トレにより10キロ以上も増量した大谷。2012年冬、ケガから復帰した大谷は走り込みの数を増やし、脂肪から筋肉へ変える作業に切り替えた。投球練習も再開し、ピッチを上げていった。佐々木は、増量により大谷のボールの質が大きく変わっていたことを感じ取ったという。

「重量感というのが出ていました。以前はスピードがあっても、しっかりとタイミングを合わせられたら、結構飛ばされることがありました。増量してからはタイミングがあっていても、球威で押し込んで、ネット裏のファールになることがよくありました」

 大谷は怪物投手へ一歩ずつ成長を見せていたのだ。

 そして選抜出場が決まり、徐々にピッチを上げていく大谷。対外試合解禁後のオープン戦では好投し、少しずつ期待感が高まる投球を見せる。

 迎えた選抜初戦の相手は優勝候補の大阪桐蔭。大谷と同じくドラフトの目玉として注目されていた藤浪 晋太郎初戦で激突。試合は大会初日の第3試合。大会に近づくにつれて注目度は上がっていった。結果は、打者としては藤浪から本塁打を放ち上々の結果だったが、投手としては9回途中まで投げて9失点、11四死球と屈辱的な結果に終わった。

「今まで受けてきた中で、あんな悪い大谷は初めてでした。ただ緊張のかかる大会初日で、第3試合でやや間が開いたのが影響したのかもしれません」

 だが大谷は言い訳をしない。9失点という結果をしっかりと受け止め、夏に向かっていった。(後編に続く)

 前編では、佐々木捕手が高校に入学して大谷投手と出会った場面から、3年春の選抜大会までをお話していただきました。後編では、大谷選手が「160キロ」をマークした歴史的瞬間から現在に至るまでの話に触れてもらいました。大谷選手の意外な一面も紹介してくださっているので、後編もお楽しみに!

(インタビュー・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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