石川ミリオンスターズ 吉田 えり投手インタビュー【後編】「ナックルボーラーの険しさは高い山に登るに等しい」
ルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズ所属の吉田 えり投手。その公式ブログの日記には最後に必ずこう記されている。
「目指せ!!ナックルボーラー!!」
では、吉田選手にとって「究極のナックルボーラー」とはいかなるものなのか?ナックルボールとの出会いについてが中心となった前編に引き続き、後編ではここまでの道のり、さらには今後の抱負についても語って頂いた。
究極のナックルボーラーへの道 その1 ナックルだけで打者を抑える方法
ナックルボールの長所である「無回転」と、投手にとって不可欠である「コントロール」のバランスをいかにとっていくか。その返答は、ナックルを生かす配球に関して話をきいた際に生まれた。

オーバーでのリリースを説明する吉田えり投手
(石川ミリオンスターズ)
「ナックルを生かす他の球種はありません。今はナックルボール以外の球種は考えていません。実際、メジャーで投げているナックルボーラーは、試合で投げる球の9割以上がナックルボールなんですよ。
なぜかというと、ナックルボールは投げ方も他の球種とは全く違いますし、無回転でどこにいくか全くわからない球。だから打者に球種が知られていても抑えられるんですよ。いかに、真ん中にいいナックルが投げられるかだけが勝負ですね」
驚きである。ナックルボーラーはナックルボールしか使わない。打者は球種がわかっていても打てない。そこにナックルボールが魔球と言われる理由があるようだ。そして、このナックルボールを有効に使うためにはさらなる工夫があった。
「ウェイクフィールド投手が勝てるのは、コントロールも、精度も兼ね備えたナックルだということだけではありません。投球フォームもカギを握っています。開きが抑えられて、出所が分かりにくい。そして、フォームも、長く足を上げたり、クイックをして投げています。また1球ごとの間合いを変えたりと、フォームの緩急もつけることができれば、打者はタイミングが取りづらいですし、より打つのが難しくなると思います」
フォームの緩急。間合いの緩急を自由につける。これこそが「究極のナックルボーラー」への第一歩なのだ。
究極のナックルボーラーへの道 その2 ランナー対策と気候を読め
ランナーがいない時には大いに威力を発揮できるナックルボーラー。だが、その一方で共通の悩みもある。ランナーを背負った時である。
「ナックルは球速も遅いのですぐ走られます。そういうときも、ランナーが走り出すタイミングを取りにくいようなクイックで投げるように心がけています」
他にもある。屋外での開催で外野手が特に気を付けることは、「風」。これもナックルボーラーが常に気を遣う事柄だ。
「追い風だとダメなんですよ。そのまま風にのっていっちゃうんで、変化する前にキャッチャーに届いてしまうんです。逆に向かい風だと、空気抵抗があって、より変化しますね。さらに気圧、湿度、標高によっても変化は変わってきますね」
クイックを備え、天候への理解も深める。不規則性が高いナックルボールを操る究極のナックルボーラーは、全ての状況を把握できる「精密機械」でなければならない。
8年かけて完成度はまだ60% 難しさの先にある喜びと栄誉
それでは、現在の吉田選手はナックルボーラーとしてどれほどの完成度なのだろうか?本人の自己採点は厳しい。

吉田 えり投手(石川ミリオンスターズ)
「中学3年生の時からひたすらナックルを投げ続け、試行錯誤を繰り返した結果、1年くらいでサイドハンドから無回転のナックルを投げられるようになりました。でも、投げ始めて8年が経っても現段階での完成度は60パーセントくらい。まだまだ無回転になる確率や、コントロールが課題となっています」
改めてナックルボールの難しさが伺えるコメントだ。それでも、「今年で石川ミリオンスターズに入って3年目になるんですけど、まだ1勝もしていないので、まずは1勝を目指します。また、石川からさらに上に行けるように頑張っていきたいです」と抱負を語る吉田選手の表情からは、究極のナックルボーラーを目指す強い思いが感じられる。
そして、吉田選手は最後に
「やることはしっかりやること。また、一番怖いのはケガなのでケアだけは大切にしてほしい。いつ上手くなるかはわからないので、本当に1日1日を大切にして欲しいです。そして、野球はチーム競技なので、仲間とのコミュニケーションを大切にして、いい野球シーズンを送ってほしいです!」と、高校球児へ向けて熱い気持ちを寄せてくれた。
ちなみに、登山家は登る山が険しければ険しいほど、高ければ高いほど征服したときの喜びは大きいという。
それになぞらえれば、常に変化するナックルボールは正に山と同じ。その困難さを超えたときの喜びをつかむため。吉田 えり投手は、女性投手という範疇を超えた「日本初となる究極のナックルボーラー」という前人未到の頂を極める戦いに挑む。