Column

走力を高めるための測定とトレーニング

2015.01.15

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。2015年のスタートダッシュは順調ですか? 今年も選手や指導者の皆さんに少しでも役立つコラムをお届けしたいと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて今回は「足が速くなるにはどうしたらいいですか?」という質問への回答として、「走力」についていろんな方面からアプローチしてみたいと思います。

野球に活きる走力とは

走力はさまざまな要素から成り立つ

 選手の皆さんが考える「足の速さ」とは、他ならぬ野球のプレーに活かせる走力のことをさしていると思います。打席で打った後に一塁まで駆け抜ける速さであったり、二塁打、三塁打といったロングヒットのときに次のベースまでたどり着くための速さ、ランナーで塁上にいるときに盗塁するための速さやホームまで戻ってくるための速さ、そして守備では内野手の守備範囲や、外野手のボールを追いかける走力など、さまざまなシーンが想定されます。これらのことから走力について考えると、

●塁間(約27.4m)を全力で走りきる走力
スタートダッシュの力強さと反応
●ベースを反時計回りに走る際のベースランニングの技術
●ボールに素早く反応し、追いつくだけの走力

 といったことが挙げられます。野球は短い距離を走ることが多いのですが、このように他にも求められる要素はあるということです。

測定をすることで見えてくるもの

 選手は自分の走力について、実際にプレーをしている感覚から「足が速いほう」「足には自信がない」といった具合に、自分の走力についてある程度は把握をしていると思います。こうした感覚的なものに加え、ストップウォッチなどでタイムを計り、客観的な指標を持つことも大切です。普段から定期的に走力を測定し、トレーニングなどの指標に役立てているチームも多いと思いますが、野球に活きる走力として直線のランニング測定だけではなく、ベースランニングも取り入れることをオススメします。

●30m走もしくは塁間走(短い距離での走力)
●50m走(ツーベース相当の走力)
●ベースランニング(二塁打)

 この三種類を測定すると、個々の特徴が見えてきます。「直線距離は速いのに、ベースランニングは遅い選手」や、逆に「直線距離は遅いのに、ベースランニングは比較的速い選手」、「スタートダッシュがよく、30mでは速いのに50mになると遅くなってしまう選手」、「30mはさほどでもないのに50mになるとトップスピードにのって速くなる選手」といった、個人のさまざまな改善点が浮き彫りになります。

 ちなみにベースランニングの一周タイムは、ランニングホームランなどレアケースのみに見られるため、必要性は高くないと考えています。ただしプロ野球選手などはベースランニングのタイムを公表していることも多いので、比較参考するためにはよい指標となるでしょう。

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[page_break:走力は足の回転と歩幅 / 低い姿勢をなるべく維持する]

走力は足の回転と歩幅

 自分の走力について客観的な指標を測定したところで、実際に野球のプレーにつながる走力を高めるためにはどうしたらいいでしょうか。足を速くするために不可欠な要素は「足の回転数を上げること」と「歩幅(ストライド)を広げる」ということです。まず足の回転数を上げるためにはしっかりともも上げを行い、その足が地面について次の動作に移るまでに無駄を少なくすることが必要となってきます。上げた足がしっかりと地面をとらえ次の動作に力強く移動するためには、太ももの前面部にある腸腰筋を使ってすぐに足をあげ、前への推進力を高めることを意識してみましょう。

 トレーニングとしては素早いもも上げ動作の繰り返しや、体幹トレーニングの一つとして仰向けになり、メディシンボールをはさんでもも上げ動作を行うといったエクササイズなどがオススメです。またフォームとしては、着地した足が後ろに流れることなく、すぐに次の動作にすすむようにすること。足が後ろに流れてしまうとそれだけロスを生んでしまい、回転数を上げることが難しくなります。

 また一歩の歩幅を大きくするということについては、地面からうける反力をなるべく大きくするために、下肢筋力を強化することや、股関節周辺部の柔軟性を高めることでも改善が期待できます。また、自分が塁間をいったい何歩で走っているのかを把握することも大切ですね。特に次の塁を狙うランナーの場合、リードする歩幅、スライディングする位置などを考えると、実際に加速して走る距離は塁間よりも短くなります。練習の時などに全力で走り、歩数を数えることもぜひ行ってみてください。

低い姿勢をなるべく維持する

脚筋力の強化だけではなく柔軟性も高めよう

 最初は頭や腰の位置が低い状態でスタートを切りますが、加速するに従って体が起き、頭の位置も次第に上がります。これはランニングフォームとしては自然な流れなのですが、空気抵抗という観点で考えると、なるべく頭の位置が低い状態を長く保ったほうが体にかかるブレーキは少なくなります。特に盗塁を試みるときに、一歩目のスタートで頭の位置が上がってしまうと、スムーズな加速に結びつかず、スピードをロスすることになります。目線がぶれないように意識しながらスタートダッシュをきることを心がけましょう。

 またこうした姿勢を維持するためには体幹を安定させることも大切になってきます。日頃から腹筋・背筋を鍛えて、ぶれない体幹づくりを目指しましょう。

 このようにさまざまな視点で走力をとらえると、足を速くするといっても人それぞれの課題があり、いろんな手段があります。脚筋力や体幹を鍛えることはもちろんですが、股関節の柔軟性を改善したり、ランニングフォームを見直したり、なかにはベースランニングの技術を課題とする選手もいることでしょう。

 まずは自分のランニング課題をしっかりと把握すること(現状把握)、そこから課題点を一つずつ克服していくことが、足を速くする近道ではないかと考えます。また足の速い人の動きを注意深く観察し、参考にすることもよいアプローチ方法ですね。「千里の道も一歩から」という言葉もあるように、地道な努力が実を結びます。がんばっていきましょう!

【走力を高めるための測定とトレーニング】
●野球のプレーに活かす「走力」にはさまざまな要素がある
●短ダッシュ、加速力、ベースランニングの技術、スタートダッシュ
●ランニングの測定を行い、自分の走力を客観的に把握しよう
●走力は足の回転+歩幅(ストライド)。回転を速くし、歩幅を伸ばすことを意識する
●目線を低い位置でキープするには体幹が安定することも大切
●ランニングの課題は人それぞれ。課題点を克服して走力アップにつなげよう

(文=西村 典子

次回コラム公開は1月30日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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