中日ドラゴンズ 大塚 晶文コーチ【後編】 「普段の細かい作業から1つの作品を作るのがバッテリーの醍醐味」
前編では、大塚コーチが、アマチュア、プロでバッテリーを組んだ捕手を中心に話を進めていきました。後編では、MLB時代のエピソードを交えながら、バッテリーの醍醐味を語っていただきます。
どこでも、誰に対しても、自分の考えをしっかり伝える
中日ドラゴンズ 大塚晶文コーチ
大塚コーチは04年から4シーズン、パドレスとレンジャーズで、メジャーの舞台を経験した。初登板の試合では、こんなエピソードがあったという。
「04年のドジャースとの開幕戦のことです。僕は同点の8回に、リリーフとしてメジャー初登板。その回は抑えたのですが、次の9回、ピンチの場面でロビン・ベンチュラを迎えました」
現在ホワイトソックスの監督を務めるベンチュラは、この04年に引退するまでメジャー通算294本塁打をマークした強打者である。
「すると、捕手のラモン・ヘルナンデスが、やたらフォークを投げさせたがるのです。フォークも僕の持ち球ですが、得意球かというと、そうではない。でもヘルナンデスは(99年から03年まで在籍した)アスレティックスでは3年間、正捕手だった男ですからね。ベンチュラはフォークが苦手と知ってのサインかと信じました。そしたら、サヨナラヒットを打たれてしまって…」
試合後、大塚コーチは通訳を介し、ヘルナンデスに「俺の決め球はスライダーなんだ」と伝える。すると「あれはフォークじゃないのか?」という返事が返ってきた。
「僕は1年目のスプリングトレーニングのゲームの際は、6回か7回に投げてました。 レギュラー陣はだいたい5回くらいで退くので、正捕手のヘルナンデスは、僕の球を受ける機会がなかった。2番手や3番手、あるいはマイナーの捕手に受けてもらっていたので。それで僕の決め球がわからなかったことと、あとは、シート打撃でヘルナンデスと対戦し、たまたまフォークで空振りをとった時にびっくりした顔をしていたので、それが印象に残っていたのでしょう」
大塚コーチが「いや、あれはスライダーなんだ。タテの」と続けると、ヘルナンデスは「ごめん、ごめん」とようやく理解を示し、「次の日から、ここ一番ではスライダーのサインを出してくれるようになりました」
大塚コーチはそこから15試合連続無失点。この年リーグ最多の34ホールドも記録した。
「メジャーでは、言葉が通じない中、はじめは捕手とのコミュニケーションでも苦労しましたが、どこに行っても、自分の考えをしっかり伝えるのは大事と学びました」
ピンチの場面を想定して、準備しておくのも投手の仕事
現役時代はリリーフとして“しびれる場面”での登板が多かった大塚コーチ。捕手とはマウンドでどんな話をしていたのだろう。
中日ドラゴンズ 大塚晶文コーチ
「基本的に捕手は“間”を置きにくるだけなんですよ。『大塚、ちょっと間を置いているだけだから』と。あとは『この一点はあげても良いから』 とか『しっかり腕振ってこい』とか、シンプルな会話が多かったですね。
しかし今思うと投手はその状況で何を意識するのか、フォームだったり、配球、打者、走者の相手目線になって考えるだとか、マウンドでの言葉、動作、表情、イメージ。このような事を瞬時に分析、判断し実行しています。キャッチャーはこれらのことを日常から観察し投手と話し合い、その場面に応じた的確な言葉を投手にかけるべきです。
そのような細かい作業を詰めて『一つの作品』を作って行くのがバッテリーの醍醐味です。メジャーの時は、投手コーチがマウンドに来て、次打者の配球の話をするんです。ですが、最終的に自分の好きな球を投げるので、会話は頭に入ってこなかったですね、英語もわからなかった。
キャッチャーからは、『何投げたい』とか『Let’s go baby笑』しか言われなかったです。もっと英語が出来てれば深い話が出来たと思っていますね」
B.C.リーグ・信濃グランセローズの監督兼投手(投手コーチ兼任)だった昨年は、伝える側になったが「いろいろ言っても伝わらないとわかっているので、簡潔な言葉で伝えるようにしていた」そうだ。
「そもそも投手は、ピンチになってから考えるのではなく、ゲーム前にどうするか、決めておかなければいけない。たとえば一死一、二塁のピンチになった時に、どういう投球をするか、何を意識するのか。専門用語で『メンタルリハーサル』というのですが、試合の前に、先発なら1試合通してどんな感じで投げるのか、想定しておくのも投手の仕事だと思います。
また、ピンチの場面では、感情が揺れ動くのでこれをすれば落ち着く、あるいは強気になる、という言葉、表情、動作を、ルーティンとして作っておくのも、投手には必要だと思います」
秋季練習のさなか、新コーチとしてお忙しいにも関わらず、快くお時間を作っていただいた大塚コーチ。どうもありがとうございました。バッテリーの関係を改善することで、宝刀・タテスラが生まれたというお話が、とても印象に残りました。豊富な経験を生かした投手コーチとしての手腕にも期待しています。
(インタビュー・上原 伸一)