Interview

中日ドラゴンズ 和田 一浩選手

2014.11.18

 現役3位の通算打率(.303)を誇る中日ドラゴンズの和田 一浩選手。42歳を迎えた今季も中心打者として存在感を見せ、快挙も成し遂げた。4月に放った通算300本塁打は史上最年長(41歳9ヶ月)での達成であり、大学-社会人を経てプロ入りした選手では史上初だった。

 プロの第一線で長くベストパフォーマンスを発揮し続ける和田選手に、どんなケガ予防をしているのか、教えていただきました。また、確実性と長打力を兼ね備えるバッティングについても、その秘訣はどこにあるのか、お話をうかがいました。

汗が出るくらいのストレッチでケガを予防

――和田選手は県立岐阜商時代から、体が強い選手だったのですか?

和田一浩選手(以下、和田) いえ、そんなことはなかったですね。故障しがちで、腰痛などいろいろなケガを経験しました。その後もすっとケガと付き合っている感じでしょうか。

――高校時代にケガが多かった原因は?

和田 練習が厳しかったというのもあると思います。それとトレーニングのやり方や、どうやってケアをすればいいかもわからなかったので…そのあたりも原因では。

――体のケアに対する意識が変わったのはいつからですか?和田選手は高校卒業後、東北福祉大を経て、日本通運に進まれましたが。

和田 アマチュアの頃はそれほどでもなかったですね。今振り返れば、やった“つもり”程度だったと。しっかりケアをするようになったのはプロに入ってからです。

――アマチュア時代を通して、“こういうトレーニングがケガ予防につながった”というのはありますか?またその中で高校球児にお勧めのものはありますか?

和田 実はアマチュア時代は、ケガ予防とはあまり関連づけないでトレーニングをしてました。ただプロに入ってからの経験を踏まえてアドバイスをさせてもらいますと、高校時代は本格的なトレーニングを始める時期なので、コンスタントに専門のトレーナーにみてもらうのが一番かと。

 とはいえ、なかなかそうもいかないでしょうから、お勧めしたいのがストレッチです。ストレッチは疲れを軽減できますし、故障の予防にもなるので。ストレッチの方法については、本などでいろいろなメニューが紹介されていますが、まずはいかにコマメにやるか。それが大切だと思います。

――すると和田選手ご自身も、かなりストレッチを重視しているのですね。

和田 ええ。特に試合が終わった後のストレッチを大事にしています。遠征中であってもトレーナーさんに見てもらいながら、あるいは自分一人で、汗が出てくるくらいにしっかりとやってます。そうすると、翌朝起きた時の体の状態が明らかに違います。

 もちろん、朝起きてからもストレッチをやります。キャンプの時は、起きたらお風呂に浸かり、体を温めてからストレッチをしています。練習漬けのキャンプ期間中は、体に負担がかかりますからね。僕は腰が悪いこともあり、疲れている時は意識的に体を温めるようにしています。

――ストレッチはやはり大切なのですね。

和田 はい。体を伸ばすことは重要だと思いますね。それにストレッチは意識さえあれば、お金を使わずにできるので、高校生も取りかかりやすいかと。ストレッチはおそらく誰もがやっているものですが、意識高く、常に汗が出てくるくらいに一生懸命に取り組めば、ケガ予防につながると思います。

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:ストレッチが習慣になって、体に対する意識が変わった]

ストレッチが習慣になって、体に対する意識が変わった

中日ドラゴンズ 和田一浩選手

――試合前はどんな感じでストレッチをしているのですか?

和田 まずトレーニングを開始する前に行います。マッサージを受けた時はその後ですね。そして、プロの場合、試合前の全体練習が終わると、試合開始まで1時間ほど空くのですが、動き始める前にまたストレッチを。
試合中も回の頭やイニングの合間にやってます。ストレッチをすることで、すぐに体が動ける状態にしているのです。

――すると常にストレッチをされていると。

和田 そうですね。ストレッチには立ったままで行うものもあれば、寝た体勢で行うものもと、いろいろな種類がありますが、少しでも時間があれば、その場でできるストレッチをしてますね。それが習慣になれば、自分の体を気にするようになるとも思います。
特に高校生の場合、体の変化が顕著な時期ですしね。朝起きたらストレッチ、時間が5分でもあればストレッチ、もっと言うなら、いかなる時もストレッチ、そうなるといいと思います。

――和田選手もストレッチが習慣になってから、ケガをしにくい体になりましたか?

和田 と言いますか、ストレッチが習慣になってから、体に対する意識が変わりましたね。たとえばトレーニング1つする時も、こういう体の使い方をすると、この部分が伸びるんじゃないかな?とか、ここをこう鍛えればいいのでは?と、自分の体の使い方を考えるようになったのです。

 おそらく高校生は、野球もトレーニングも感覚的にやっている部分が大きいと思います。ですが、自分の体がどう動いているのか、具体的に知るのは必要ですし、自分の体は自分が一番理解しておくべきかと。肘、肩、腰を故障している高校生も多いでしょうが、ストレッチを習慣化することで、自分の体をどう動かせば故障をしないのかも、わかってくると思います。そして、どういうトレーニングをすればいいのか、どのように体を動かせば上手になるのか、考えるようになるとも思います。

――和田選手は何かストレッチの重要性に気が付くきっかけはあったのですか?

和田 先も言いましたように、僕は故障が多い選手でした。よくぎっくり腰もやって、プロ入り1年目もそれで1ヵ月、棒に振りました。もちろん、ケガ対策でいろいろなトレーニングやケアを試しましたが、行き着いたのがストレッチだったんです。もっともストレッチの重要性に気が付いたのは30歳になった頃。僕自身は気が付くのが、すごく遅かったと思います。
ただ遅かった分、その大事さが余計にわかるところもあるので。もし高校生の段階でストレッチの重要性が理解できたら、選手寿命はグンと伸びるでしょう。

 今は高校生にもトレーニングやケガ予防に関する情報が、いろいろ入ってくると思います。そうした中で、いかに自分に合ったものを見つけるか。これも大事な点だと覚えておいてほしいですね。

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:体への負担を考慮し、オープンからスクエアスタンスに]

体への負担を考慮し、オープンからスクエアスタンスに

――和田選手は以前、オープンスタンスでしたが、現在はスクエアスタンスです。これはどんな理由からですか?

和田 年齢に合った理に叶った打ち方をするためです。若い時は動きが大きいオープンスタンスでも打てたのですが、歳を重ねるにつれて難しくなってきまして…スクエアの方が体の負担が少ないので、少しずつ、09年頃から3年くらいかけて、オープンからスクエアにしていきました。

プロは年間144試合もありますからね。無理のない打ち方をしないと、1年フルに働けません。年齢に合った理に叶った打ち方を少しずつ勉強しながら、スタンスにも反映しているところです。

――和田選手にとって理に叶ったフォームというのは、その時の年齢に見合った打ち方ということなのですね。 

和田 そうです。繰り返しになりますが、いかに体に負担がかからない打ち方をするか。そうしないと体が壊れてしまうので。

――西武(現埼玉西武)時代、今年14年4月より金沢学院東高の監督をされている金森 栄治さん(PL学園早稲田大)から打撃指導を受け、それが飛躍のきっかけになったとうかがっています。どんなことを教わったのですか?

和田 いろいろなことを教えていただいたのですが、端的に言いますと、自分の体の力を使って打つということです。打つ時は上体も下半身も使うのですが、体の幹の部分のパワーを伝えるにはどうすればいいか学びました。

――和田選手は(14年終了時点で)通算314本塁打と、長打力も兼ね備えています。高校時代から長打力があったのですか?

和田 飛んだかどうかはよく覚えていないのですが、バットを振る力はあったと思います。

――和田選手の右方向の打球は伸びると言われます。和田選手は流すのではなく、“右方向に引っ張る”という表現をされていますが、それはどういうことなのでしょう?

和田 体の力を使って打つということです。一般的に、ボールが体から遠くなればなるほど、体の力は使いにくくなります。手が体から離れますからね。でも、それではボールに力が伝わらない。僕は体から遠いボールでも、体から手が離れない打ち方をするようにしています。そうすることによって、“右方向に引っ張る”意識で打てるのです。

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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[page_break:打球方向を考える前に、まずしっかりバットを振る]

打球方向を考える前に、まずしっかりバットを振る

中日ドラゴンズ 和田一浩選手

――高校生レベルで右打者が、右方向へ力強い打球を打つためにはどうすればいいですか?

和田 1つ目は、はじめから打つ方向を決めないようにする。決めておいてインサイドに来たら、ライト方向に打つのはなかなか難しいですしね。
(チーム打撃として右方向に打つことを求められるケースはあるものの)はじめから右方向に打つと決めない方がいいと思います。
2つ目は、力が集約できるポイントで打つ。アウトコースであってもインサイドでも、しっかりしたポイントで打てば、自然とライト方向でも強い打球が打てると思います。

――和田選手は高校時代から右方向に強い打球が打てたのですか?

和田 ある程度、広角に打球が飛んでいたような覚えはあるものの、打ち分けてはいなかったような…センターに素直に打ち返す意識もなく、とにかく強く振るようにしてましたね。高校生は打球方向を考える前に、まずしっかりバットを振ることが大事だと思います。

――和田選手は、現役時代3度、三冠王に輝いた落合 博満・中日元監督(現中日GM)の下でもプレーされました。いろいろ伝授されたと思いますが、一番参考になったのはどんなことですか?

和田 うーん、なにしろたくさんのことを教えていただいたので…よく言われたのが「理に叶った打ち方をしろ」でしょうか。「お前の打ち方は無理がある。体が壊れる打ち方をしているから、自分の体がどう使われるのか考えたバッティングをしろ」と。

 落合GMには、年齢に応じてどんな打撃をすればいいか導いてもらいました。理に叶った打ち方というのは、打撃の技術本にあるような、教科書的な打ち方ではないのでは。たとえば関節の動き方でも個人差があるし、体が硬い選手もいれば柔らかい選手もいる。選手にはいろいろなタイプがいて、それに合った打ち方が理に叶った打ち方だと思います。

――理に叶った打ち方をするためにも、ストレッチを通して自分の体がどう動いているのか知るのは大事ですね。

和田 そう思います。自分の体が把握できれば、打撃に限らず、ボールの投げ方や捕球の体勢など、あらゆる面でどう使えばいいかもわかってくるでしょう。

 和田選手がここまで長く続けられた秘訣はストレッチにありました。その重要性を早く感じることが出来れば、体も元気に、現役を長く続けることが出来る。また打撃についてもとても興味深いエピソードが満載でした。和田選手、ありがとうございました!

(インタビュー・上原 伸一

ベストパフォーマンスを発揮するためのけが予防

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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