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佐野日本大学高等学校(栃木)

2014.03.22

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佐野日本大学高等学校(栃木) | 高校野球ドットコム

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多くのプロ選手を輩出した体づくりの目的、ポイントとは?

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学校グラウンドで練習する佐野日大ナイン

 北関東を代表する強豪校・佐野日大。夏6回、春4回の甲子園出場を誇り、7人のプロ野球選手も輩出している。この実績は全て1973年から指揮を執る松本 弘司監督が築き上げたものだ。ここ4年で、佐野日大のOB選手(澤村 拓一金伏 ウーゴ江村 将也西宮 悠介)がドラフト指名されており、今年もエースの田嶋 大樹がドラフト候補として期待されている。プロ入りする選手を含め大学、社会人で活躍する技量の高い選手を育てるために、どんなことを行っているのか。

「特に特別なことはしてないんですけどね。ただ体作りはしっかりと行わせていますよ」

 松本監督が言う体づくり。故障しないために佐野日大はアップからこだわる。通常練習の場合は、アップを1時間以上も行い、ダッシュ、体操などのメニューを淡々と行う。それからキャッチボールに入るが、そのキャッチボールも時間をかけて行う。この流れは就任してからずっと続けていることだという。

「うちに入ってくる子は体は大きい子が多いのですが、まだ体が硬いので、体をうまく使いこなせて、動ける子が少ないです。そのままやらせてしまうと故障の元になってしまいますからね。だから選手たちにはその大事さを話しています」

 特に体作りで大事にしているのが「股関節」だ。
「やっぱり野球で大事なのは股関節の柔軟性です。投球においても、打撃においても、力を大きく発揮させるのは股関節の柔軟性です」

 アップの中で必ず股関節の柔軟性を鍛えるストレッチ、トレーニングを行う。オフの間には全体練習が終わってから2グループに分かれて、1時間ほどのトレーニングが行われる。グラウンドに残る選手たちは下半身中心のメニュー。お椀のような形状のコーンを置いて反復横跳び、モモ上げ、ダッシュを繰り返す。距離は短いが、下半身を鍛えるメニューになるようで、取り組んでいる選手たちに話を聞くと
「地味ですけど、結構足にきてキツいです」
 と顔をゆがめながら取り組んでいた。ウエイトトレーニングに取り組む選手は、ウエイトトレーニングを行う前にグラウンドでメディシンボールを宙に向かって投げる練習、テニスの軟式ボールを使って、ゴロを取る練習を行っていた。その後、トレーニング機器がある室内練習場に直行し、ウエイトトレーニングに励んでいた。鍛える箇所は選手によってさまざまだ。インナーマッスル、背筋、下半身など自分が足りないと感じている筋肉の部位について重点的に取り組んでいる。

 エースの田嶋は昨年、関東大会で足を痛めたこともあり、走り込みができない。ただ田嶋はそれをプラスと置き換えた。

「自分は上半身が弱いので、背筋を鍛えれば、投球の時にしなりが出ると思って」
 背筋のトレーニングを行ってきた。その成果が試されるのは選抜になってからだが、各自が基礎練習の大切さを実感し、そしてそのトレーニングも表面的な筋力の強さではなく、股関節の柔軟性を一番大事にしている。様々な箇所を強化し、怪我をせず、大きなパフォーマンスを発揮できる体作りを行っている。その体作りが、大学、社会人、プロで活躍出来る選手の土台を築いているのだ。

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押し付けず、選手の自主性に任せる

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ウエイトに取り組む選手

 松本監督が大事にしているのは自主性だ。
「自主練習をやらない選手は野球をやめた方がいいですよ」
 と、自主的に取り組めない選手に対して厳しい。そのため、自分の考えを押し付けることもない。

 練習中の松本監督の様子を見ると、全体が見える場所で、じっくりと選手の動きを見ている。歩きながら、選手の動きを見て、気になった箇所を簡単にアドバイスするだけだ。強豪校の監督は選手たちに叱咤激励する様子が見られるが、松本監督にそんな様子は見られなかった。エースの田嶋は松本監督から技術的にこうしろ、フォームもこうしろと言われたことがないという。あくまで選手の個性、考えを尊重するスタンスだ。

「全体練習は大事ですけど、自主練習も同じくらい大切だと思います」
 と語る主将の吉田 叡生。自主練習はどのくらいやるかというと、室内練習場の消灯が22時と決まっているため、平日の練習日の終了時間は19時半~20時。その後、2時間ほど打ち込んでいくという。チームの成否は選手の意識の高さで決まるといってもいい。松本監督は、
「高校生は単調にやる子が多いのですが、この子たちは一人一人が考えて取り組んでいますよね。言われたままやる子は多いのですが、この子たちは違いますね。だから秋は勝てたと思います」

 と今年の選手たちの自主性の高さを評価していた。この意識の高さは新チームがスタートしたことで変わったものなのか、もともと持っていた資質だったのか。選手の話を聞くと敗戦をきっかけに変わっていた選手が多い。エースの田嶋は、
「入寮当時はただやっていただけでした。でも夏に先輩たちが負けた姿を見て変わりました。そして昨夏に作新学院に0対1で負けたので、点を取られない投手を目指しました」

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吉田 叡生主将(佐野日大)

 新チームがスタートした時、「バッティングの力はなく、田嶋も残っていましたし、守りもそこそこだったんですけど、点が取れるチームでした」と振り返るように、エースの田嶋を中心に守り切るチームとしてスタートをした。しかし、打撃を強化していかないと、大事な所で打てないチームになるかもしれないと思った選手たちは打撃の強化に取り組んだ。主将の吉田は、
「打つことの大事さは昨年の夏の負けからずっと感じていたことなので、全体練習だけではなく、個人練習でも強化していこうと一生懸命取り組んだことが結果につながったと思います」

 佐野日大は打撃練習時に金属バットを使わず、木製バットで練習をする。吉田は自分の課題は打撃と捉えていた。
「自分は打撃が弱くて、より強い打球を打ちたいと思ったので、とにかく強く振りきることを意識して振っていきました」

 取材日には、吉田は練習中のティー打撃で歩幅を開いた状態からフルスイングして打ち返していた。吉田だけではなく、皆、真剣な表情でバットを振り抜いていた。その積み重ねが結果として現れた。打撃練習に取り組んだ結果、県大会では5試合で40得点を記録した。選手たちの打撃面の成長に松本監督は驚きを隠せなかった。

「われわれ、指導者も驚きの結果でしたね。関東大会では投手のレベルも違ってくるだろうし、打てないだろうと思っていましたが、数が打てなくても、効率よく打てていましたね。東海大甲府高橋 直也君も良かったですし、横浜伊藤 将司君なんてなかなか打てない投手ですよ。初回の5得点はこっちの方がびっくりしました」

 関東大会では、東海大甲府横浜と甲子園出場経験のある強豪校を打ち破り、ベスト4入りし、選抜出場を決めた。そして吉田は秋の公式戦ではチームトップの13安打、打率.481を記録し、打線の牽引役としてチームを引っ張った。秋の活躍の背景には、自ら課題を明確にして、個人練習で自分に妥協せず取り組む。その積み重ねが周囲も驚かす結果をもたらしたのだ。

[page_break:甲子園は日本で一番難しい球場]

甲子園は日本で一番難しい球場

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打撃練習の様子

 秋季大会終了後、佐野日大は体作りのメニューを中心に取り組んだ。紅白戦など実戦メニューの導入は2月中旬にふった大雪の影響で、グラウンドが使えず、やや遅れている。

 今、一番課題においているのはやはり「打撃」だという。その『打撃力向上』へ取り組んでいることは、
「結局、打撃というのはなかなか身につくものではないので、ただ単にスイングしたり、ティーをしたり、フリー打撃などの単純な練習の積み重ねしかないんですよね。その中で、自分の中で打てる感覚を本人が掴めば伸びるので、毎日取り組んでいます」

 やはり普段の練習の積み重ねを大切にしている。では応用という部分で、配球の読み方など実戦的な所はどう意識しているか。

「配球については教えますよ。相手を見ながらどんな投手なのかを見て打つわけですからね。でもそれを実践するのは選手で、自ら考えないといけない。単純な振る力は練習で培うことはできますが、ゲームで投手の球を打つとなるとまた変わってきますからね」

 豊富な練習量で、打撃の土台を築かせることはできる。それをゲームで表現するために出来るだけ教えるが、実践するのはやはり選手ということになる。また自慢の守備も、実戦から離れていた感覚を思い出すために犠打、挟殺、牽制などの細かいプレーの確認を毎日行っている。選抜へ向けての準備には余念がない。

 そして打線の奮起と共にエース田嶋の活躍が、佐野日大が勝ち上がるためには不可欠だ。打線強化を課題にしているのは田嶋が勝てる投手と計算しているからだ。だが田嶋1人だけでは、5試合を投げ切るのは厳しい。そこで、田嶋同様に期待されているのが稲葉 恒成だ。稲葉は1年夏からベンチ入り、184センチ73キロの長身から振り下ろす最速140キロの直球、スライダー、カーブ、チェンジアップを投げ分ける右の本格派で、その素質の高さに「彼も先輩たちに続いてプロに行ってほしい」と期待する逸材だ。稲葉は関東大会準決勝に先発したが、桐生第一に敗戦。4点を失ってわずかアウト2つ取っただけで降板をした。稲葉はその敗戦を強く悔やんだ。

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エース田嶋 大樹投手(佐野日大)

「あの試合は自分の中で、とても大きくて、あの悔しさを忘れずに練習にぶつけてきました。選抜では、田嶋がいるので、自分はいけるところまで行って、田嶋と一緒に全国制覇を成し遂げたいと思っています。田嶋1人だけではきついので、自分も活躍したい」

 選手たちも、稲葉にも期待を寄せている。主将の吉田は、
「田嶋だけではなく、稲葉もだいぶ調子が仕上がっていて、2人を守備で支えることはできているので、あとは打撃につなげたい」
 と、全員で投手陣2人を援護することを誓った。

 選手たちは選抜へ向けてモチベーションが上がってきている。最後に松本監督に甲子園の戦い方というものを聞いてみた。松本監督にとっては春夏合わせて10度目の甲子園である。甲子園はプレーすることにおいてとても難しい球場だと実感している。

「甲子園は日本で一番難しい球場ですね。いろいろな意味で、難しいところがあります。見る方は面白いですが、プレーするのは難しいですね。フェンスが低くて、ボールが見にくかったり、場所によって風の吹き方も違いますし、栃木の球場とは難易度が全く違う。そういう難しさが甲子園の面白さだと思っています」

 監督という立場から甲子園の難しさを実感しているだけに説得力がある。甲子園で練習ができるのは30分間だけ。
「生徒たちにとっては夢の球場だから。テンションは上がりすぎている状態ですから、なかなか落ち着いて練習することはできないですよね。初戦で落ち着いて早く慣れてほしいなと思います」

 甲子園に慣れるには初戦を経験することが一番だという。優勝や、相手を意識するよりも、初戦の戦い方が大事で、そこでしっかりとしたスタートが切れれば、次の目標が見えてくる。大事にしているのは、
「一戦、一戦をしっかりと戦う。それが佐野日大のスタイルです」
 と語る松本監督。どんな場面、どんな試合でも普段通り戦うために、基礎練習を怠らずに積み重ねている。その積み重ねで、今度は全国の野球ファンを驚かせる野球を見せたい。

(文・河嶋 宗一

佐野日本大学高等学校に関する記事をチェック!

佐野日大高等学校(栃木) 戦力分析!(2014年03月07日)

佐野日本大学高等学校 田嶋 大樹投手 独占インタビュー(2014年03月22日)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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