【三年生座談会】県立南風原高校(沖縄)
2013年夏、ベスト8入りを果たした南風原高校(沖縄)
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冒頭から他校の話しで申し訳ないが1975年、初めて選抜へ出場していきなりベスト8進出を果たすと、その翌年である76年から夏の甲子園へ出場し3年連続ベスト8の偉業を達成したのが豊見城高校。そう、沖縄県高校野球の礎を築いた故栽弘義氏が、赤嶺賢勇投手(巨人)や石嶺和彦捕手(阪急)らを育ててひとつの時代を拓いた頃だ。
そして1979年の夏、史上初の四連覇を狙った豊見城が、準決勝でぶつかったのが前年の春季県大会で初優勝していた南風原高校だ。
試合は南風原のエース宮城が、豊見城打線を僅か3安打1失点に抑えて完投。誰も阻止出来なかった豊見城の夏の連勝を18でストップさせたのだった。(決勝では惜しくも1点差で中部工に敗れ準優勝)
しかしそれ以降の南風原は準々決勝の進出さえままならないほど、長きに渡り沈黙していく。それを打破したのが2010年の大蔵宗元監督(現嘉手納監督)と当時のナインたち。前述した1979年の準優勝以来となる、実に31年振りのベスト8進出を果たしたのだった。
その大蔵前監督の厳しい指導の下で、確実に力を付けていた2013年の三年生たち。秋季県大会と、最後の夏となる選手権県大会の両方で8強入りするなど、歴代の先輩たちに負けず劣らずの活躍を見せてくれた彼らの、熱かった夏を振り返ってもらった。
座談会メンバーを紹介!
安里 拡
山田 貴一:遊撃手170cm70kg右投右打。口ではなくプレーでナインを引っ張った主将。ピッチャーや内野の要であるショートを務める一方、チャンスに強い4番として活躍した。
安里 拡:投手172cm68kg右投右打。ピンチに強い投球や走り込みで体得した完投能力で最後の夏、二試合で完封するなど絶対的エースへと成長した。
具志 銀太:172cm63kg右投右打。コーチャーとしてナインを引き締める傍ら、代打の切り札としての役割も担った。チームのムードメーカーでもある。
大城 拓也:三塁手171cm67kg右投右打。初戦、第一打席のホームランでチームを乗せた。投手陣から頼られていた堅実な守りは、チーム一番の努力家としての賜物でもあった。
城間 寛之:投手・外野手171cm64kg右投左打。夏、俊足を生かした斬り込み隊長として活躍。広い守備範囲と抜群のポジショニングでチームの危機を度々救った。
安次富 達貴:捕手165cm79kg右投右打。どのポジションもこなす器用なプレイヤー。高校から本格的に捕手を務め、強気なリードで安里や城間のピッチングを引き出した。
最後の夏の思い出
具志 銀太
――去った夏を振り返ってどうでしたか。
安次富 達貴(以下安次富) この夏は、試合の中でピンチを乗り越えて団結力が高まるのを感じて、試合してて楽しかったです。
城間 寛之(以下城間) バッティングよりも守備で勝利に貢献出来たかなと思います。
大城 拓也(以下大城) 正直本気で甲子園へ行けると思っていたけど、ずっとライバル視していた真和志と当たって、みんなも燃えていたけど、相手が一枚上手だったなと思います。個人的には毎試合ヒットを打てたし、初めてホームランも記録したし、凄い良い夏を良い仲間と過ごせたなと思います。
具志 銀太(以下具志) 自分は試合には出られなかったけど、コーチャーとして多くのランナーたちを返せたし、伝令でも結構楽しめました。
安里 拡(以下安里) 夏直前に監督が代わって、ベンチもみんなで力を合わせて良い雰囲気でやってこれたなと思います。みんなが打って守ってくれて支えられてるなと感じました。
山田 貴一(以下山田) ベンチも応援も含め、一緒になって戦えたと思います。この夏は秋と同じ成績(ベスト8)で、あと一つ勝ちたかったですね。
――秋のベスト8という結果はみなさんにどういう影響を与えましたか?
大城 秋は2回戦で対戦した北山が有利と思っていた人たちも多かったと思うけど、自分たちも(前監督の)大蔵先生に絶対勝てると言われていたので自信があったし、元気が取り柄というカラーを出して戦えたかな。
城間 (新チームに移行してサイドスローへ変更)その北山戦で練習試合も含めて初めて先発のマウンドへ上って、(4対1で)勝利に貢献することが出来て良かった。
安里 夏休み毎日朝7時からきついインターバル。そこで疲労骨折(右足すね)して、秋も満足出来るピッチングが出来なかった。ひろ(城間)が良いピッチングをしたので春へ向けて焦りを感じてました。
安次 拡が三回戦の宜野湾戦で先発して、試合途中で降板してベンチ裏で正座という珍事件もあって……。
安里 オレはやる気出しているつもりだったんだけどなぁ(苦笑)。
山田 貴一
――大蔵先生は厳しかったんですね。
大城 でも大蔵先生自身が6時から走っていて。僕らの練習開始時間である7時に間に合わせて来るんです。先頭切って体張ってくれていたし、熱い先生でした。
――競技会についてはどうでしたか?
大城 このチームは走ることが苦手で。それでも城間が1500m走で全体の7位に入賞。塁間送球の競技でも僕が熱発して迷惑をかけてしまいました(苦笑)。
城間 ひとつ上の先輩たちにずっとついていって。きついけど自分を追い込んで走って。それで長距離が早くなりました。冬トレの走り込みのおかげで競技会では良い記録が出たと思います
一同 それ以外ダメだったな(笑)。
――冬を越してから春へ。どうでしたか?
山田 春は2回戦で負けてしまって。
一同 ひろ(城間)が3安打したけど、サヨナラエラーだったよな。
――そして迎えた4月。監督が代わった。
安次 前川先生(現南風原監督)は最初のうちはグランドに顔を見せなくて、その間色々あって、正直大丈夫かなぁとオレは思った。
一同 でも4月後半頃から来るようになって雰囲気が変わっていったよね。
一同 試合中あまり怒らなくて。それで思い切りできたかなと。
大城 大会前の調整法が面白くて。スパゲッティを食べて炭水化物を体に蓄えたり、疲れを取るといって温泉に行ったり。
一同 オレらのことを考えてくれてました。
大城 ノックが上手くて。守りが良くなっていった。
安里 大蔵先生はピッチャー教え専門って感じ。前川先生は逆かな。だから大蔵先生が作ってくれていた練習メニューを見て調整してました。
安次 先生が代わって自分たちで配球を考えるようになって。頭を使っての攻めのリードを練習試合の中で覚えていって、楽しくなりました。
[page_break:記憶に残る一戦を振り返る]記憶に残る一戦を振り返る
城間 寛之
――ではひとつひとつ振り返っていきましょうか。まずは一回戦の具志川商との戦いです。
大城 具志川商業戦(2013年06月29日)は、ピッチャーの山城の前評判が良かったけどこちらも燃えてて。緊張したけど自分のホームランも出て4点も取れたので行けると思った。9回にもここぞ!という場面でキャプテンが打ってくれて、6対0で快勝出来ていいスタートが切れました。
南風原
400 000 002 | 6
000 000 000 | 0
具志川商
安里 9回106球6三振完封
大城 5打数4安打1打点2得点
安次富 5打数2安打1得点
山田 5打数2安打2打点1得点
※初回、一死から大城が大会第4号となるレフトへ先制となるホームラン(スタンドインとして第1号)でナインを乗せると、ニ死後から山田が右前安打。次打者が振り逃げで出塁すると金城弘樹(二年生)が左中間へタイムリー二塁打。さらに金城雄斗(三年生)も右前へ運び金城弘が生還し一挙4点。
9回にもニ死一・二塁から山田がダメ押しとなる二塁打で二者が生還。投げては安里が完封で見事初戦突破
――次は西原戦。
安里 地元の友達(呉屋、又吉、大城)らが向こうにいて。呉屋は小学校からの幼馴染で、バッティングも凄かったので、コイツは絶対抑えてやると。結果2つの三振を奪えて。全体的にはボークなどで点を取られましたが、周りがよく守ってくれて自分もタイムリーが打てて良かったです。
西原
000 011 000 | 2
000 300 30x | 6
南風原
安里 9回145球9三振2自責点
山田 4打数2安打1打点2得点
※4回、一死から山田の左前安打をきっかけに死球とワイルドピッチでニ・三塁とすると小濱優磨(二年生)が右前タイムリー。四球で満塁とし安里が右前タイムリー。さらに神里翔(三年生)の犠飛で3点を先制。
1点差とされた7回、大城が右前安打で出塁すると犠打と死球で一死一・二塁。ここでも山田がライトへタイムリー二塁打。金城弘の犠飛で2点目を加えると続く小濱がセンター前へ運び山田が生還して4回と同じく3点をボードに刻んだ。
安里は10本のヒットを浴びるが要所を抑えて完投。
大城 拓也
――三回戦は浦添戦です。
城間 浦添戦では僕自身初めてのヒットが出て。守備ではバッテリーの構えから、ここにくるだろうなとポジショニングをラインよりに取ってたらそれが的中。普通の守備位置なら抜けている当たりで、負けていただろうという好プレーをしてピッチャーを助けられて良かったです。周りからも“なんであの位置にいたの?”と言われるくらいでした。
一同 うんうん。
安里 打たれた瞬間終わった!と思ったよ。なんでお前があの位置にいるのか分からなかった。
城間 自分では普通のライトフライのように感じて。ベンチに帰ったら前川先生から“お前のプレーがどれだけ大きなことか分かるか!”と言われて。自分でも凄いなと思いました。
安里 9回129球12三振完封
※2回、山田が四球で出塁すると相手のエラーで無死一・二塁。小濱がライトへ二塁打を放つと中継の隙を突く好走塁で2点を先制。
投げては安里が二桁奪三振をマークして今大会二試合目となる完封。3年振り4度目のベスト8進出を決めた。
――そして目標としてた真和志との対戦。
大城 1勝4敗1分くらいの成績じゃないかな。
山田 真和志とはその1勝しかなくて。練習試合を含め6試合もやっていたので相手もこちらも手の内が分かる。連戦というのが初めてのことで安里をはじめ疲れがあったけど、真和志とやれるということでみんな気合が入ってたし勝つ気持ちは強かった。それで自分が高めのストレートをレフトへ弾いて先制して。いい流れだったけど、自分たちが譜久村から全然打てなくなって、チャンスらしいチャンスもなくて負けてしまった試合でした。
南風原
100 000 000 | 1
010 020 00x | 3
真和志
安里 5回76球4安打4三振5四死球2自責点
城間 3回28球5安打0三振0四死球0自責点
※初回、城間がライト前へヒットを放ち、犠打とセカンドゴロの間に城間は三塁へ。山田が3球目をレフトへ運び先制タイムリー。
しかし5回、ニ死満塁から譜久村誠悟に逆転タイムリーを浴びてしまい惜しくも敗れてしまった。
3年間を終えて感じる思い
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――みなさんにとっての高校野球とは?
具志 自分にとっての高校野球は、このチームでしか作れない雰囲気や特徴とか。そういったものが一生の宝物になると思います。高校野球は美しいものです。
安次富 達貴
安里 自分にとっての高校野球は一瞬でした。入部したときは練習も難儀だなと思ってましたが、いまこうやって終わってみたら、入部したのが昨日のようです。
山田 高校野球で技術とかの向上はもちろん、精神とか人間性とか成長出来たと思うし、やっぱり同じ夢を追う仲間と一緒に野球が出来たのは良かった。
安次 ひとつの大きい舞台をみんなで目指してみんなに支えられて、仲間と成長するのが高校野球だと思いました。
城間 トレーニングとか走り込みとかきつかったけど、それを大蔵先生や前川先生と練習することで忍耐力や心や精神面が強くなってひとりひとりが成長して。高校野球はとてもいいなとおもいました。
大城 自分にとっての高校野球とは厳しいものだったなと思います。監督やコーチに怒られてばかりで辞めようかとも思ったけど、野球が好きだから辞められなくて。新チームになったとき、自分たちでしっかりしていこうと、練習は嘘をつかないと決めてて。甲子園は行けなかったけどベスト8には満足しています。後輩たちと自分たちは距離が無くて。彼らは素直に言うことを聞いてくれたし僕らも彼らから学ぶことがあったし。小濱や金城たちがしっかり練習してチームを引っ張ってくれて、僕らの成績を超えて甲子園へ出場して欲しいなと思います。
確かに振り返ると辛い練習ばかりが脳裏を過ぎ去るのかも知れない。だが、巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏も「野球だから色々起こるが、全てを良い思い出や良い経験にしてほしい」と語ったように、走り切った彼らの三年間の思い出は最高の糧となって、彼らの将来に返ってくるに違いない。前監督との培ってきた体力・技術・忍耐力などがあったから、それを現監督が引き出してくれたから、そして最高の仲間がいたからこそのベスト8。周りに支えられて自分たちの熱い熱い夏があったことを記憶にとどめて残りの高校生活を全うし、新たなステージでも思いきり羽ばたいて欲しいと節に願う。
ご協力いただいた前川等先生と南風原高校野球部のみなさん、ありがとうございました。
(取材・構成=當山雅通)