Column

聖隷クリストファー高等学校(静岡)

2012.09.11

野球部訪問 第78回 九州文化学園高等学校(長崎)

 一度聞いたら忘れない学校名、聖隷(せいれい)クリストファー。1966年に聖隷学園として設立され、2001年より現校名となった。周囲には関連の医療機関、福祉機関、大学などもあり、施設が充実しているのが特徴だ。部活動も盛んで、男子バレー部が全国クラス。それに続けと野球部も近年、徐々に力をつけ、甲子園まであと一歩と迫りつつある。

 チームを率いるのは就任12年目を迎える鈴木洋佑監督。筑波大卒業後、すぐに監督に就任。1、2年生だけのチームからスタートし、いきなり夏の県大会でベスト16という結果を残した。もともと、学校のある浜松市は有望選手が分散する傾向があり、「1学年で2~3人は目立っていても、それ以外のほとんどが中学時代に補欠だった子たち」と鈴木監督はいう。そんな中、夏の大会に限れば、この10年間でベスト8以上4回という好成績を挙げている。特に今夏の静岡大会ではベスト4に進出。一躍、県内で注目を浴びるチームとなった。

鈴木監督が練った、今夏の秘策

▲聖隷クリストファー高校野球部 鈴木洋佑 監督

 今年の夏、静岡県では名門・静岡が絶対的優勝候補として君臨していた。前年の甲子園メンバーが多く残り、春の県大会でも圧倒的な打撃力で優勝。他校に比べ、1歩抜け出した存在だった。だからこそ、鈴木監督は半年前から静岡高撃破のための作戦を練っていた。「今年はシズコウ(静岡)を倒せば甲子園にいける。本気で勝ちたい」。

 それには何が必要なのか。ヒントは京都にあった。

 今年の2月、学校の研修制度を利用し、立命館宇治(京都)の卯滝逸夫監督の元へ向かった。チーム作りの方法や考え方を心で理解したかった。

「それまで僕がうっすらと考えていたことが、ここではっきりしましたね。チーム作りにおいて、バランスの良いチームを作っても、自分たちより能力の高いチームが同じようにバランス良く作ってきたら勝てません。格上のチームに勝つには、どうするのか。卯滝先生は最初にピッチャーを中心とし、守りを鍛えるべきだと言いました。点数を与えない野球。それで終盤まで競り合っていけば、相手は絶対に焦りますよと」。

 今年は守備を重視したチームを―。
 帰静後、鈴木監督は自分が学んだことを選手にすべて話し、お互いに共通意識を高めた。さらに、今年は本格派右腕、鈴木翔太という存在も大きかった。しなやかな腕の振りから最速143キロを投げ込み、安定感も抜群。チームを作る上で、これほど最適な投手はいなかった。

▲聖隷クリストファー高校野球部 鈴木翔太 投手

 そんな鈴木翔太に対し、大会前、鈴木監督は投球練習で過度の投げ込みをさせていない。

「体力的に不安があったり、フォームができなかったり、そういうピッチャーは別ですが、例えば、毎日100球ずつ投げ込みをさせてしまうと、100球を何となく投げるだけのピッチャーになってしまう。それよりも、投じる1球1球に、意味を持たせる方が重要だと思います」。

 ときにはワンバウンドの球、ときには右打者の内角へズバッと。投げ込み自体の球数は少なくても、いつも場面場面を想定させ全力で投げさせた。

 迎えた夏の大会。聖隷クリストファーは順調に駒を進め、4回戦で静岡と対峙する。鈴木翔太はこの日のために温めてきたフォークを多投。2安打8奪三振1失点で完投した。打線も、初回に1点、2回には2点を挙げる。一方で追う展開となった静岡は徐々に焦り、結局、最後まで鈴木翔太をとらえることができなかった。まさに鈴木監督の思い描いていた通りの快勝だった。

「あの試合、鈴木翔太の全部の球がマックスの状態でした。極端に言えば、1球目から、すべて一死満塁くらいの精神状態だったと思います。練習通り、集中できた結果だと思います」。

 静岡を倒したことで、一気に甲子園が見えた。しかし、準決勝で常葉学園橘と対戦し、延長14回の末、0対1で敗退。鈴木翔太が最後に力尽きた。あと一歩だった。

 鈴木監督は自信たっぷりに言う。「今年の夏は私にとってもチームにとっても大きなきっかけになりました」。
 半年前にうっすらと見えていた甲子園。それが優勝候補を撃破し、初めて準決勝まで進んだことで、はっきりと、そして現実的なものとして、とらえつつあるようだった。

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[page_break:秋の敗戦、長い冬へ]

秋の敗戦、長い冬へ

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 夏からのバッテリーが残り、いよいよ甲子園か。周囲の期待も高まりつつあったこの秋。秋季大会はまさかの地区予選敗退で、県大会の出場すら逃した。センバツ出場は絶望的だ。

 主将であり、鈴木翔太とバッテリーを組む石塚大祐が、悔しさを噛みしめながら振り返る。「夏にベスト4までいき、それなりに出来ると思ったが甘かった。雑なミスもあったし、自分のリードもいけなかったです」。
 県内のチームに鈴木翔太が打たれることはない。そう思い込み、ストレート中心の配球が裏目に出た。相手も研究し、狙い打ちをされた。

 ただし、収穫もあった。打撃力に不安のあった新チームは、朝から晩までバットを振り続けた。気づいたら1日で3000スイング。手は豆だらけになったが、各選手のスイングの鋭さは増した。敗者復活2回戦で掛川西相手に7得点、敗者復活3回戦では敗れたものの6得点を奪った。その成果を手に、長い冬のトレーニング期間を迎える。

アイデアマン・佐野副部長の存在

▲聖隷クリストファー高校野球部 佐野大輔 副部長

 聖隷クリストファーでトレーニング部門を担当するのが佐野大輔副部長。高校野球ファンなら、この名前を聞いてピンと来る方も多いかもしれない。元プロ野球選手の父親を持ち、自身も名門・横浜(神奈川)で内野手として春夏の甲子園に出場。その後、駒澤大でも活躍し、2009年春から現職についた。

 佐野副部長が考案した冬場のトレーニングの一つがサーキット式トレーニングだ。

「あるとき、サッカーの練習を見ていて、その箇所によって全てやっていることが違うんです。“あっ、これ野球でもできないかな”と思いまして」

 佐野副部長はグランドの中に9か所のメニューを作った。3分間刻みで、選手たちはメニューをこなし、次のメニューに移動する。その中の一項目が下半身のトレーニング。左右にゴムを張り、そこをくぐり抜け、前からくる球を捕球してスローイングする。股関節と膝の柔軟性を鍛えるのに効果があるという。各トレーニング項目がバラエティーに富んでいる上、サーキット式なので選手たちも飽きることなく取り組める。

▲聖隷クリストファー高校野球部 大石一樹 投手

 また、最近は投手のトレーニングも担当している。上記のサッカーに続き、今回、ヒントにしたのが競輪だった。
 両翼95メートルの専用グランドを持つ聖隷クリストファー。マウンテンバイクを使い、その両翼間を駆け抜ける。

「遊び感覚でやりながら、往復のタイムを計ります。腰周り、太腿の前後、ふくらはぎ、部分的なトレーニングになっています。特に線の細い鈴木翔太にはうってつけです」

 佐野副部長とエースの鈴木翔太。2人が目指すのは、来夏に150キロをマークすることだ。「彼の能力を持っていれば、やり方次第では可能だと思うんです」

 目下の鈴木翔太の課題は、体に疲れがあった状態で、いかに自分のピッチングができるか。間隔の空いた試合では素晴らしい投球をするが、連戦になると、どうしてもスタミナ不足で球威が落ちる傾向がある。鈴木翔太本人も自覚している。

「今年の12月31日まで、走り込んで走り込んで体力をつけたい。体重も、今は68キロですが、来年の春には75キロを目指しています」。

 佐野副部長が付け加える。
「2人で体重を増やしてトレーニングを頑張れば、春に絶対変わるからと言っています。来年は俺達2人で150キロを出そうなと」

 それでも、鈴木翔太だけでは、連戦が続く夏の大会は勝ち抜けない。関係者がそろって「キーマン」として挙げるのが左腕の大石一樹だ。高校入学後、肩などの故障に泣き、目覚ましい活躍ができずにいる。ただ、いいときには、球質の重いストレートとブレーキのきいたカーブをリズム良く投げ込む。それだけに期待値が高い。

「この冬は、フィールディング練習、追い込んでからのコントロールを意識して、レベルアップしたい」(大石)

 夏の経験、秋の悔しさと成長。1年間の大きな財産を手に、来年こそ、校名を全国に轟かす。

(文=栗山司

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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