Column

県立北村山高等学校(山形) 3/4

2011.01.23

「山形県立北村山高等学校」

山形県立北村山高等学校 第3回 (全4回)2011年01月23日

石井監督

 こうして石井監督が懸命にチームを作り上げていく中、それでも、なかなか安定した結果を残すことが出来なかった。以前は甲子園を目指しながらも「一生懸命やっているだけだった」という。

 それが、ある生徒からの一言で目の前が開いた。 

 毎年、3月末に行われる入学者説明会の後、野球部への入部希望者だけを集め、入部説明会を行っている。一通りの説明をした後、一人の新入部員がこんな質問してきた。
『どうやったら甲子園に行けますか?』
「ハッとしました。聞かれて、私、『わかんねぇ』って言ったんですよ。行ったことねぇからわかんねぇって。ただ、目つむって頑張っているようなもんだったなと思って。
そこから、甲子園とはなんぞや?というのを本気で考えるきっかけにはなったと思うんです」。

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マネキンを使った練習

室内練習場でのスライディング練習

 それからは例え少ない人数であっても、本気で甲子園を目指して工夫した練習を考えるようになったという。
「長座布団じゃないでしょうか」。
工夫の第一歩を尋ねた時の答えだ。
「スライディング練習できる場所がほしいと思って方法を探してたんです。スライディングして、すぐ立ち上がって、ボールを確認する。でも、これ、体育館でやると痛いんですよね。廊下も痛いんですよ。じゃあ、長座布団じゃないかと。ベースの前に座布団を置いて一気に6人くらい動くんです。ピッチャーもいて、バッターもいて、一塁走者もいて、二塁からホームインするやつもいて、その中でサードコーチャーもネクストバッターもいて、バリエーションはいろいろあります」

体育館の床にそのまま滑り込むのはあまりに痛い。そこで滑り込む位置に長座布団を置いてクッション性を持たせたのだ。本番を想定し、ただ、走るだけではなく、「重要視している」というコーチャーも付ける。少人数ゆえ、誰もがやらなければならないポジションだからだ。

 もう1つ。去年、話題になった練習方法というのが、マネキンを利用しての練習だった。
「マネキンって言えるようなものではないのかもしれないんですけど、要はゲッツーを取れるようになる練習です。ゲッツーの練習をただしてもしょうがないので、セカンドベースのところで邪魔になるような走塁をしてくれる人がほしかったけど、人が足りないので、内野手だけ守らせて、外野手はランナー。ただ外野手は3、4人しかいないので、走っていたらくたびれますよね。だから、バッターランナーだけにして、セカンドベースのすぐ脇にドーンと物を置いておいて、それをよけて、バッターランナーさえアウトにすればダブルプレーは成立するわけですから」。

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練習に励む北村山部員

 石井監督は常に電波を張っている。「グランドを見ていて、これ使えるんじゃねぇみたいな。ホームセンターに行っても、グラウンドで使えるものねぇかなってそんなのばっかりなんですよね」。だから、北村山のグラウンドには工夫が溢れている。

 北村山は、グラウンドが使える時期のフリーバッティングでは守備を付けない。バッティングセンターのように打ちっぱなし。毎年、毎日、試行錯誤で練習をする。体育館での練習であっても、セーフティーボールを使用し、キャッチボールもノックもするし、内野のフォーメーションやサインプレー、けん制、ピックオフも練習する。それでも、「昔はセオリーだけだった」という。

「昔はセオリーだけでやっていたんですよ。セオリーをいろいろと教えていったら、そのセオリーの中で自分たちが混乱し始める、ついていけなくて。セオリー×味方×相手っていう構図なので、セオリーだけでやってもダメ、相手の情報だけでやって自分たちがぐじゃぐじゃになってもダメだから、自分たちができるベストプレーの中で相手をどうはめ込んでいくか。それがうまくはまるときははまりますね」。

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手際よく食事の準備を進める

 去年の夏に意識をしたのは「自分を知る」こと。
「うちはいつも外野のバックホームなんかも外野手とキャッチャーだけにして、内野手はセカンドランナー。休む暇ないんですけど、ピッチャーやったらランナー、ランナーやったらサードコーチャー、サードコーチャーやったらホームコーチャー、ホームコーチャーやったらバッターランナーという形でぐるぐる回して。外野手は、どこら辺まで下がって、ホームでアウトにできるかという自分のポジションをずっと探してきたんです。去年の夏なんかは、どこまで下がれるのかを追求していました。下がりすぎてセーフにしてしまってはダメですが、1
点勝負のときにどこまでなら自分の肩でアウトにできるのかという『自分を知る』ことの大切さを教えましたね」。

 今年は「無駄をなくそう」とグラウンド内での敬語を禁止にした。先輩に対して「さん」は省く。試合中にエラーをしても帽子を取らない。
「誰が1年で誰が2年で誰が3年かわかんねぇ空間にしようと。出たらメリハリつけなきゃいけないですけど。試合中に下級生がエラーしても絶対に帽子を取るなとも言いました。そんなプロ野球選手いるかって。ルーキーが「すいません」って謝ってっかって。大学野球なんかも、東都の入れ替え戦に毎年、行っているんですけど、1年生だろうが、4年生だろうがわかんねぇだろって。そしたら、香田さん(現鶴見大コーチ)もまったく同じことをおっしゃっていましたね」

 そして、目指したのは「バラバラの一体感」。例えば、練習後。自転車にブラシを付けてグラウンドをならす選手もいれば、道具を片付ける選手もいる。人数が多ければ、それでもいいかもしれない。でも、人数が少なくたって、それぞれがそれぞれのやるべきことをきっちりやればできる。

 また、練習の合間には食事をとっている。取材に伺った1日目は卵かけご飯に味噌汁。2日目は焼肉丼に味噌汁。1週間に1人300円を徴収し、布施愛加部長がメニューを立て、調理してくれる。そして、手際よくどんぶりにご飯を盛る人、お碗に味噌汁を入れる人、ここでも、一人ひとりが無駄なく準備を進める。ボーっとしている人はいない。片付けも手際よく分担し、終わった人からすぐに次の練習へ向かうのだ。

 北村山の取り組みは、あらゆる意味で「現状を見る」ことができる。人数が少ないことを言い訳にせず、できるものを増やしていく。

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県外遠征でレベルアップ

指導する石井監督

 今まで北村山は3月末に茨城で練習中心の合宿を行っていたが、08年から球場の横にあった青年の家が閉鎖されて合宿ができなくなった。ちょうど07年度は学校創立20周年ということと、夏の甲子園で優勝した「がばい旋風」の佐賀北と、「Kitako」つながりで試合できないかという案で保護者の間で盛り上がったりもしたが、それならばと、石井監督の知り合いが多い四国で遠征をすることになった。それからは、この四国遠征が定例となり、毎年3月25日の夜に学校をバスで出発。26日の朝、大阪に着き、センバツを観戦する。その後、高松に入り、一日練習をして、香川のチームと試合。翌日、徳島に入り、2日間、練習試合をし、31日の朝にまだ雪溶けぬ山形に帰ってくるという強行スケジュールだ。

09年は関西学院、昨年は香川西比叡山と試合をしてきた。香川西とはシートノックも一緒にやり、普段は感じることができない、「周りに選手がいる」「ライバルがいる」という雰囲気も味わってきた。
「どうしたら勝てるのようになるのかと、いろいろ情報を入れながらも工夫を凝らして、野球に対しても前向きになった分、今は少しずつ運が回ってきているのかなとは思っています」。

 石井監督や部員たちの頑張りが、結果として表れるようになってきたことで、今回も21世紀枠候補校として推薦されるまでになったのだ。

(文=高橋 昌江)

(次回は1月30日に公開予定)

■北村山バックナンバー
山形県立北村山高等学校 第1回
山形県立北村山高等学校 第2回

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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