日大三vs鹿児島実
秋を制したのは日大三
今シーズン公式戦ラストゲームは・・・
今シーズンラストの公式戦となった明治神宮大会決勝戦。鹿児島実・野田 昇吾(2年)、日大三・吉永健太朗(2年)の両エースがマウンドに上がり、勝敗こそついたものの、素晴らしい投げ合いを演じた。
前日(17日)が雨天順延。寒い時期に緊張感のなか試合を続けてきた選手にとっては、肉体、精神ともに疲労を取る良い休養になったのは間違いない。その象徴が両チームベストメンバーで臨んだことだ。全国が注目する決勝でエースを立てられたのは大きな材料。
実は日大三の小倉全由監督は2試合完投した吉永の疲労を考えて、当初決勝の先発に立てる予定がなかった。それが中1日の休養を経たことで、「吉永が投げたくてウズウズしている」とエース先発に変更したという。
一方の鹿児島実・宮下正一監督は現時点での大エースである野田に予定通りマウンドを託した。この時点でこの決勝戦が意義深いものになったのは間違いない。
その決勝。大きなポイントとなったのが一回裏だ。日大三高の1番高山俊(2年)がヒットで出塁。これを2番谷口雄大(2年)が送って一死二塁となった。そして3番畔上翔(2年)がライトへ先制タイムリー。さらに4番横尾俊建(2年)もヒットで続いた。立ち上がりに不安のある野田は、続いて5番の清水弘毅(2年)にもライト前ヒットを打たれる。その打球をみて二塁走者の畔上は三塁ベースを蹴る。だが、ライトの豊住康太(2年)からキャッチャーの黒木兼太朗(2年)へ見事な返球で畔上はタッチアウトとなった。
大量失点を防いだ豊住のビッグプレーで野田は救われた。もしこれがセーフになっていたなら、無失策試合もなかっただろうし、選手の張りつめた気持ちも切れていただろう。このワンプレーで鹿児島実は好ゲームへの布石ができた。
3試合完投勝利の吉永
日大三は四回裏、横尾の本塁打と、8番吉永のタイムリーなどで、3点を追加する。「強打の三高」を見せつけた。 しかし、鹿児島実は五回表に1番平山大海(2年)のタイムリーで1点を返し反撃の兆しを見せる。
一塁ベース上には走塁センス抜群の平山。その平山が2番脇園寿大(2年)の初球で仕掛けてきた。それにしっかり対応したのがキャッチャーの鈴木貴弘(2年)。平山は二塁で憤死し、反撃の芽はここで潰えた。
日大三の吉永は結局8安打を浴びながらも、すべて散発に抑え1失点で完投。野田に投げ勝った。
「優勝を目指してきたので、できてよかったです。でも完封できなかったので失点をされないピッチャーになりたいです」
と、吉永は向上心を忘れなかった。一方、野田は
「悔しいです」
と肩を落とし来年への雪辱を誓った。
実は、この神宮大会を臨む上で各チームは「寒い時期だから」「優勝しても自分達にとって大きなメリットがないから」「甲子園じゃないから」「色々な選手を試したいから」と考えて戦術を練るチームが多いと聞く。さらには「センバツに出る他のチームに戦い方を丸裸にされるから」と甲子園で勝つことしか考えない指導者もいるのも事実だ。
だが、秋の日本一を決める大会に成長した神宮大会を制することができるのは全国で1チームだけ。甲子園優勝と同等の評価を与えるべきだし、選手も大きな誇りとしてほしい。
小倉監督は試合前選手に「全国で(秋季地区大会を制した)10チームしか出られない大会」と言ったそうだ。だからこそ、優勝した時、ナインは甲子園と同様にマウンドで喜びを見せた。
世代最初の優勝校としてこれからプレッシャーはあるだろうが、この優勝を誇りにして来年春に備えてほしい。
(文=松倉 雄太)
(写真=高校野球情報.com編集部)