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秋季大会を振り返って(下)~奈良編~

2010.10.23

第22回 秋季大会を振り返って(下)~奈良編2010年10月23日

今後を担う二人の1年生

秋季大会を振り返って(下)~奈良編~ | 高校野球ドットコム

青山大紀(智弁学園)

マウンドに立つ智辯学園のエース・青山大紀の様子がどうもおかしい。
いつも落ち着いているはずの彼が、やけに力んでいるように見えたのだ。

秋季県大会決勝戦、3回裏のマウンド上でのことだ。
9番打者の彼に対し、必要以上に力み返って、四球を出してしまった。あの時、青山はどうしてしまったのか…。

「(9番打者の)中谷(佳太)は中学時代、同じリーグで、あいつは、左腕NO1ピッチャーと言われていたんです。僕も、一応、右腕NO1と呼ばれていたんで、負けたくないなと。メンバー発表されて、あいつの名前を見た時に、ピッチングだけではなくて、すべてに置いて勝ってやろうと思っていたので、ちょっと力んじゃいましたね」

智辯学園天理。右腕と左腕。しかも、1年生同士。

「青山VS中谷」

これから2年半、奈良県はこのライバル対決をずっと見られるんだろうな、そう思うとワクワクしてきたのだ。

しかし、今大会を振り返ってみると、彼らだけではないということに気付いたのだ。
まれにみぬ1年生宝庫の年代。そんな思いを強くしたのだ。そんな彼らを紹介したいと思う。


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中道勝士(智弁学園)

 青山は最速144キロのストレートとスライダーなど4種の変化球を投げる。
この夏の大会に、すでにデビュー済みで、決勝戦では敗れたものの、天理の主砲・安田紘規をストレート勝負で三振に斬ってとった。あの姿勢には将来性を感じたものだ。
また、ピッチングだけではなく、バッターボックスで魅せる雰囲気と、一塁到達4秒代前半を記録する脚力など、才能に満ち溢れている。

秋季大会決勝では、天理にきっちりとリベンジ。6安打を完封の見事なピッチングだった。
ピンチになっても慌てず、野手に声を掛ける落ちつきはらったマウンドさばきは、もはや1年生とは思えない。

同じく智辯学園の4番を打つ中道勝士も、青山と同じく夏のメンバーだ。
どっしりとした構えから豪快に振り抜くスタイルは、1年生にして智弁の4番を打つ風格たっぷり。
これから最も注目される打者となっていくことだろう。

天理の左腕・中谷佳太はこの秋から頭角を現した。
ボーイズNO1左腕という振れ込みだそうだが、彼の何よりの持ち味は、投球フォームの良さだ。
テークバックの時に、左手が隠れ、右肩は極力開きを抑えて、右足が付いてから右肩と左肩が入れ替わる。
「手を隠そうとしてこのフォームになったわけではありません。ずっとやっていたら、そうなっていただけです」と中谷は照れくさそうに話したが、あのフォームこそ、天賦の才能である。


その他の注目1年生たち

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松尾慎二(登美ヶ丘)

 登美ヶ丘のエース・松尾慎二にも目を引いた。
上背はそう高くはないのだが、右腕からのスライダーが鋭く曲がり、打者をてこずらせていた。
「うちで1年生に背番号『1』をやるのは初めてやと思う。ピッチングもええけど、あいつは、成績もええし、学校生活もいい。だから、1年生でエースになれた」と北野監督はいう。
心技体の心と技がすでに伴っているということなのだろう。
この冬、そして、2年半で体を作れば、楽しみな選手になるに違いない。

準々決勝の畝傍奈良朱雀戦でも、目を奪われた。
8回裏、無死満塁のピンチでマウンドに立った畝傍藤田秀輝の立ち居振る舞いに驚いたのだ。無死満塁の場面に登場したにもかかわらず、平然と打者を見下ろしている。

「本当に1年生なのか」と思えるほどの堂々としたマウンドさばきだった。
このピンチを無失点で切り抜け、淡々とベンチに引き揚げた藤田。サイド気味からの強いボールを投げる。これからの成長次第では大きく化けそうだ。

「奈良大付の、4、5番がいいね」といったのはある球団のスカウトだ。
特に、救援投手でもマウンドに上がった4番・加藤雅大にポテンシャルの高さがみえた。
リストの軟らかい打撃で、左右に安打を量産。投げてもこぎみ良いピッチングで打者を打ち取っていく。
投打で注目していきたい選手である。

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岡潤(法隆寺国際)

 この他では、奈良大付の5番を打つ北田はスラッガータイプの強打者。
橿原学院の左腕・村上周平も、線は細かったもの、柔らかいひじの使いが目を引いた。
法隆寺国際のサイドスロー・岡潤は、腕をしっかり振れる軟投派として、一旋風の匂いが漂う。
法隆寺国際と言えば、全身の斑鳩がサイドスロー投手で二度甲子園に出場しているだけに、気になる存在だ。1年夏から5番を打ち、投手としての能力も非凡な一条井村孝輔は投打に馬力型。この秋は6点差をひっくり返される悪夢を見たが、こうした経験が生きるはずだ。

ここに挙げた選手は、実際、筆者が見た選手である。
この他にも、関西中央や奈良高田、夏に登板を見たが、この秋は見ていない香芝藤井洸佑など、眠っている才能は多くいるはずである。

その世代を象徴する選手の存在は、その世代全体のレベルを挙げるというものだ。智弁・天理という私学二強にいる2人の存在がこの世代を盛り上げるのだろう。
青山と中谷と切磋琢磨して、どこまで伸びていくのか。これから2年が楽しみでならない。

(文=氏原 英明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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