Interview

東北楽天ゴールデンイーグルス 聖澤 諒選手【前編】「己を研ぎ澄ますために」

2016.02.02

 クイックネスが光る選手にもタイプがある。直線的なスピードに優れた選手、柔軟な判断、対応に優れた選手。東北楽天ゴールデンイーグルスを代表する韋駄天・聖 澤諒選手は、その両方を備えている。盗塁の速さと守備の速さ。力感を感じさせないがスムーズで鋭いクイックネス。その独特のプレーには、研ぎ澄まされた哲学があった。

一軍に残るために「考える」

聖澤 諒選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 今回のインタビューで、聖澤選手は「自分で考えて動く」ことをしばしば「研ぎ澄ます」という言葉で表現した。まさにプレースタイルに沿う表現だ。
50m6秒0の足を活かし盗塁を量産、2012年には54盗塁で盗塁王を獲得。目をみはるのは、その美しいランニングフォームだ。盗塁時のスタートから加速、スライディングに至るまで、無駄がない。盗塁に代表されるクイックネスは、連続守備機会無失策927という記録もあるように守備面でも柔軟に活かされている。盗塁にしろ守備にしろ、最後まで減速しないランニングは「鋭い」。まさに研ぎ澄まされている観があるのだ。

 考える人である。

「考える習慣がついたのは大学の時からです。その後、プロに入ってどうやって一軍に残ろうかを考えた時に、より研ぎ澄まされたといいますか。打てる選手ではなかったので、最初の2年間は代走と守備でしっかりと一軍に残りたいと考えたんです。では、一軍で盗塁を決めるためにはどうしたらいいのか。ひとつ大きなプランができた時に、心技体、そして道具も含めて考えるようになりました。スタートの構えをどうしたらいいか、守備の時はグローブをどう使ったらいいか…」

 自分を研ぎ澄ませていった結果、導き出された理論はオリジナルのものだ。それは野球界でまことしやかに流れている定説や常識に、決して沿うものではない。

 例えば前回のインタビューでも言っていた、盗塁や守備に関する「一歩目の重要さ」について。
「盗塁にしても守備にしても、指導者にしても本人にしても、『一歩目』という言葉にはマイナスの意味合いが含まれていると考えています。例えば、一歩目に100%の力を籠められるようにとか、一歩目で打球判断をしろ、と教えられていますが、その通りにやるとマイナスになるんじゃないかと。なぜなら、そのような方法はないからです。それよりも、いかにリラックスした状態を整えられるかのほうが重要だと思うんです」

 一歩目を意識することは間違いではないだろう。だが、意識しすぎるあまり力んでしまう選手がほとんどかもしれない。なぜ一歩目が重要なのか、その意味を自分できちんと理解しないと、間違った形を覚えてしまうことになる。
「一歩目を力んでしまうと、身体が固まってスムーズな動きができなくなります。自分は『力を入れる』という言葉自体も良い言葉ではないと考えていて。野球をプレーする際、走攻守において力を入れてしまう選手がほとんどの中、自分はあえて力を入れないようにしています。そう考えていても力は勝手に入ってしまいますから」

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[page_break:自分の言葉で語られる「イメージ」]

自分の言葉で語られる「イメージ」

聖澤 諒選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 誤解してほしくないのは、力を入れないわけではない、ということ。言いたいのは、必要な時に適切な力を出すために最善の策を考えるということだ。
「一番リラックスできる、休みの状態を作ることで、盗塁のリードもゴーかバックかどちらにも対応できるようになります。ただ、ここまでの話の感じだとただ脱力しているだけで、ダラッとしたスタートになるイメージでしょう。自分の理想は力を抜きながらも、身体の中心にパワーを“貯める”ことです」

 集めるのではなく貯めるイメージ。集めようとするとそれだけで力が生じる。そうではなく、リラックスした構えをした時、水のように身体の中心部へ自然と力が流れ込んでくるような感覚だろう。
「スタートの構えをしている間に体重や意識を全部貯めこんでいくような感覚です。その貯めこんだものをスタートの瞬間に爆発させる。この際、リラックスしているからこそ瞬発力が生まれる。力んでいると身体が収縮しますから、瞬発力が生まれないんです」

 聖澤選手のスタート時の構えを見ると、両手を両膝の上に置いていることに気付く。両手を垂らしたり、片手を膝の上に置く選手はよく見るが、両手を膝の上に置くという一種独特の構えは、「力を抜きつつ力を身体の中心に貯める」のに最適な形として行き着いた構えなのだ。

 このように、効率的に考えていくと自分の中で無駄がそぎ落とされていく。
スタートに対するイメージもまた独特だ。
「右足は壁を作っておいて、スタート時は左足を右足に当てていくイメージ。身体の軸はあくまで中心ですが、イメージとしては右足を壁に寄りかからせてロックしている状態です。そしてピッチャーの足が上がった瞬間に壁を取り払って解放してあげる」

 そしてスライディングは必ず左足になるように計算されている。
「リード幅はピッチャーによって変わってきます。二盗の場合、リード幅が大きい時にはセカンドベース近く、リード幅が小さい時はセカンドベースから少し手前からスライディングするように計算して。どのリードをした時に何歩でセカンドベースに到達するかは計算していますね」

 盗塁の最後の動作となるスライディングのイメージも、一般のそれとは異なる。
「スライディングというと『滑る』という言葉が連想されますが、『滑る』という言葉自体減速するということなので良い言葉ではないですよね。それより『ベースを蹴り上げる』と言ったほうが良い。スライディングはベース近くからという意識は強いですが、距離感うんぬんでなく、スピードがトップに乗った状態でベースを蹴る感覚でいます」
滑ったその先にベースがあるのでなく、突っ込んでベースに足を引っかけるイメージ。スライディングに対する根本的なイメージからして違うのだ。

 よく一歩目の重要さが語られますが、その意味をきちんと理解し、自分なりのスタートを切る聖澤選手の考え方はまさにスペシャリスト。後編では用具のこだわりや、聖澤選手の思考、感覚の原点に迫りました。

(インタビュー・文/伊藤 亮


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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