Column

プレイバック選手権 「次世代スターたちが躍動!大記録も生まれた 2012年の夏」

2016.05.09


左から光星学院時代の北條史也、大阪桐蔭時代の藤浪晋太郎(ともに阪神タイガース)

 2012年の夏、第94回全国高校野球選手権大会といえば藤浪 晋太郎森 友哉のバッテリーで大阪桐蔭が春夏連覇を達成した大会という印象が強い。それとともに、1年生の岸 潤一郎明徳義塾)も出場、準決勝まで勝ち進んだ大会であり、2014年以降のU18代表大ブレイクにつながるような、タレント性豊かなで個性あふれる選手たちが多く出てくるようになった印象もある。
また、この年に3年生だったが甲子園出場を逃した中には、大谷 翔平がいたことも忘れてはならない。これからのNPB、日本球界を担おうという新世代スターたちがまさに躍動していた年代なのだ。

黄金期を作り出した藤浪、鮮烈なデビューで大記録を打ち立てた松井

 やはりこの2012年の夏を語るには、やはり藤浪 晋太郎(阪神タイガース)の存在は外せない。
1年夏からベンチ入りすると、2年春にはエースに。3年生となった2012年の春の選抜では、2年正捕手の森 友哉(埼玉西武ライオンズ)とバッテリーを組み強豪を次々と打ち破り優勝。夏も予選を圧倒的な強さで勝ち上がり、履正社との決勝は打ち合いとなるも10対8と打ち負かし、甲子園出場を果たす。
今も変わらぬスロースターター型で、高い期待を寄せるファンをやきもきさせながらも、エンジンが温まってきた後半や勝負どころでは150キロ越えを連発。速球と鋭い変化球で相手を寄せ付けず、木更津総合濟々黌天理と次々に撃破。準決勝では明徳義塾と対戦し、2安打完封。全く衰えない球威は驚異的だった。
そして、決勝では光星学院と対戦。春と同じ顔合わせに「リベンジか?」と周囲は色めき立ったがそれを一蹴。気迫を前面に出しながらも冷静な投球を披露。変化球で次々と三振を奪い、こちらも散発2安打、無失点に抑え込み見事春夏連覇を飾った。準決勝、決勝の連続完封は20年ぶりの快挙。大阪桐蔭のブランドを確固たるものとし、黄金期を作り上げた。

桐光学園時代の松井裕樹

 しかし、もしかしたら藤浪以上のインパクトを与えたかもしれない投手がいる。それが、桐光学園の2年生エース・松井 裕樹(東北楽天ゴールデンイーグルス)だ。
「来年のドラフト1位候補」として注目を集める中、1回戦の今治西戦でいきなりファンの度肝を抜くことになる。大会新記録の22奪三振、そしてこちらも大会新記録となる10人連続三振をやってのけ、打っても3ランホームランととんでもないデビューを飾る。続く常総学院戦でもドクターKは止まらない。19奪三振を奪い、おまけに18イニング連続の41奪三振。2試合で41奪三振というのも新記録、と破竹の勢いでスターの階段を昇って行った。
浦添商戦では「控えめ」の12奪三振。もはや三振の価値、単位を麻痺させる活躍ぶり。準々決勝では強打の光星学院を相手に15の三振を奪うが、8回に3失点と力尽き、遂に甲子園を後にする。だがこの鮮烈な印象と大記録は長く人々の心をとらえて離さないことになった。

 さて、この大会では一つの大記録が生まれた。光星学院、甲子園史上3校目の3季連続決勝戦進出。そして、3季連続の準優勝。今では藤浪と同じく阪神タイガースのチームメイトとして戦いをともにしている北條 史也。それと、千葉ロッテマリーンズの捕手として今年ついにブレイクを果たしそうな田村 龍弘。この2人は光星学院の3、4番コンビとして同世代から恐れられた。藤浪や森、松井、大阪桐蔭この夏の群像劇のスターであれば、彼らもまた甲子園を勝者、そして敗者として盛り上げた欠かすことのできない主役だった。

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[page_break:史上最も強かった敗者]

史上最も強かった敗者

光星学院時代の田村龍弘

 光星学院田村 龍弘北條 史也の3、4番コンビの強打を武器に、全国でも屈指の強豪チームとして君臨。東北勢として初めての甲子園優勝を目指し乗り込んできた。

光星学院2011年の夏に初めて決勝まで進んだが、その時は日大三に0対11という大差で敗れた。その悔しさを胸に徹底的に打力を磨き上げ、2012年春にはまたも決勝進出。この時は藤浪擁する大阪桐蔭に敗れ、優勝ならず。3度目の正直を実現すべく心技体とも充実。いざ試合となれば、やはりその強さは際立っていた。

 2回戦から登場し、遊学館に4対0で快勝。続く3回戦では3本塁打を放つなどし神村学園に9対4で勝利。強打の光星学院ここにありと、この大会でもアピールを果たす。

 続く準々決勝の相手は、松井擁する桐光学園。1回戦で大記録を打ち立てて以来好投を続ける松井は、この試合も序盤から次々と三振を奪っていく。だが光星学院先発の金沢もテンポよく好投。ハイレベルな投手戦が繰り広げられていく。
ゼロ行進が続いた8回表、光星学院は田村、北條のタイムリーで3点を奪い均衡を破ると、そのまま逃げ切り3対0で勝利。松井に15の三振を喫するも、チャンスできっちりと1本を打つ強さを見せた。また、金沢も散発3安打完封という素晴らしい内容だった。

 準決勝では東海大甲府と対戦。田村が初回に先制のタイムリーを放てば、北條が2打席連続ホームランを放り込むなど、この試合も3、4番コンビが大活躍。9対3と東海大甲府を圧倒し、あっさりと史上3校目の3季連続決勝進出を決めた。

 その決勝の相手は、春と同じく大阪桐蔭
春は序盤に田村、北條コンビを中心に藤浪を責め立てていたものの、残塁ラッシュで得点は奪えず。逆に4番・小池 裕也に一発を浴びるなどし3対7で敗れている。
春のリベンジをと意気込むも、準決勝も完封し波に乗る藤浪の気迫に押され、ここまでチームをけん引してきた4番・北條も不発。単発の2安打に抑え込まれ、14奪三振を許した。
光星学院先発・金沢も好投を続けたが、厳しいコースを見極め四球を奪っていく大阪桐蔭に得点を許し、さらに味方のエラーも重なり3失点。0対3で大阪桐蔭にやぶれ悲願の達成はならず。史上初めての3季連続準優勝となった。

 そもそも3季連続で地方大会を勝ち抜き甲子園に出場したことも凄ければ、全国の精鋭を相手に勝ち進み決勝進出したことも凄まじいのだ。この3季連続の決勝進出は史上タイ記録。決勝で負けた中でも最も強い敗者といって良いのではないだろうか。
とはいえ、その誇りよりも悔しさの方が勝るのは事実。「銀は金より良いと書く」というが、ここまで来たら「金のほうが良い」というのが本音のところだろう。
光星学院は、この3季連続準優勝となった2012年の夏以来、2013年には八戸学院光星と校名も変わり、2014年春、夏、2015年春、2016年春と甲子園に出場しているが、2014年の夏にベスト8に進出して以来、2回戦敗退が続いている。次はいつ決勝の舞台に立つことが出来るか。そしてその時、全国制覇の悲願は、果たすことが出来るのか。2度あることは3度ある、を越えた4度目の決勝に期待したい。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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