Column

高崎健康福祉大学高崎高等学校(群馬) 【前編】

2015.07.09

 転生する機動破壊

 2013年夏優勝2014年春ベスト82014年夏ベスト82015年春ベスト8。ここ4期の群馬県勢の成績である。好成績が続き県内のレベルアップも続く群馬県にあってなお、健大高崎の存在感が失われることはない。県大会、関東大会、甲子園と成績を残し続ける安定性はどこにあるのか。3回目の取材となる今回は、チームの戦績を振り返りながら見えてきた独特の強化理念を明らかにする。

2014秋~2015春の活躍

高崎健康福祉大学高崎高等学校

 前回、取材に訪れたのは2014年の秋口だった。最後に高崎健康福祉大学高崎高校(以下、健大高崎)が誇る“機動破壊”の核・葛原 毅コーチが言った一言があった。
「今週でうちは消えるかもしれませんよ。相手はセンバツベスト8の時のメンバーが8人残っていますから」

 この時、2014年夏の甲子園ベスト8に進出し話題を呼んだ健大高崎は、新チームが始動してまだ1ヵ月ほど。群馬県ではすでに秋季大会が始まっており、3回戦は突破した。だが、数日後に桐生第一との4回戦を控えていた。桐生第一2014年春のセンバツベスト8。その際の主力メンバーがほとんど残っていた。この時点におけるチーム力の差は大きい。客観的に見てもそれは分かる。葛原コーチの懸念ももっともだった。

 だが、健大高崎はこの試合に勝つ(7対6の逆転サヨナラ)。ここから新チームは結果を残してきた。秋季大会を優勝し関東大会へ進出。関東大会前に行われた国体では準優勝。そして関東大会ではベスト4に入り2015年のセンバツへ出場。そして2015年センバツではベスト82014年夏2015年春と二期連続で甲子園ベスト8以上に残ったチームは、大阪桐蔭敦賀気比、そして健大高崎の3校のみである。

 もはや健大高崎は群馬が誇る全国屈指の強豪校である――。上記の結果を見れば、そう言ってもあながち的外れではないだろう。では、当事者たちはどう感じているのだろうか。

「秋はかなりミスが多かったのですが、瞬時に切り替えていけました。後を引かずに戦えたのが勝因かと思います」
青栁 博文監督は言う。秋の段階では「守りがテーマ」だったと。「走塁面に関してはまだまだの段階だった」と。

桐生第一戦では1点ビハインドの9回、柴引 良介の走塁で同点に追いつきましたが、普段練習していることができていたと思います。ただチーム全体として走塁面はまだまだ」
関東大会では、打線が奮起したことをベスト4進出の理由として考えている。

2回戦松戸国際は強いチームでした。ピッチャーも打線も強力で、正直かなり厳しいなと。初回に満塁から大島 匡平が二塁打を打って点を取ってくれたのが大きかった。また、うちの走塁を逆に警戒しすぎてくれたのも助けになりました」
正直、走塁面を押し出そうとはしなかったという秋。では、収穫はどこにあったと考えるのか。


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成長を促した国体での躍進

高崎健康福祉大学高崎高等学校

国体に出場できたことが大きかったと思います。上手くチームにプラスをもたらせました。関東大会前に強豪と対戦することで自信を得られたんです。特にエースの川井 智也準決勝日本文理戦で抑えたことで(7対3で勝利)、すごく成長しました」

 機動破壊が話の前面に出てこない。ではセンバツではどうだったのか。初戦宇部鴻城(9対1で勝利)は中国王者2回戦天理(3対1で勝利)は近畿王者。立て続けに地域王者を破った。

「甲子園で勝つには、普段やっていることがそのままできるかどうか、が重要です。その点、うちは上手く持っている力を出せました。宇部鴻城戦では変化球を見極めることができて、高めのボールを振りにいくことで点が取れました。前年夏の甲子園経験者が上手く自分たちの経験生かしてくれたと思います。

天理に対しては力では劣ると思っていました。2対1、3対1という展開にならない限り勝てないなと。そこで川井が高めのボールを上手く使って相手打線を抑えてくれたことで、理想的な試合になりました」

 2期連続の甲子園ベスト8進出。準々決勝東海大四戦は、エースの川井投手は先発しなかった。さらに青栁監督は、試合前から「5盗塁はする」と豪語していた。健大高崎の場合、こういった発言が作戦である場合もある。「走塁は心理」というだけあって、試合前から心理戦をしかける可能性もあるので、真意を確かめる必要がある。

「全国制覇を狙うには、川井を万全な状態で準決勝に送り込みたかったというのが橋詰 直弥を先発させた理由です。橋爪が奮起して打線が盛り上げて勝負できれば、準決勝、決勝と勢いづくことができると。でも、それが上手くいきませんでした。『5盗塁はする』と言ったのは本音です。それだけ走れないと勝てないと思っていましたから」

 結果0対1で敗戦。「うちらしい野球をして6対5でも8対7でも、結果勝てればいいと考えていました。でもロースコアの接戦に持ち込んでしまったのが敗因ですね」

 このセンバツで得た収穫は何だったのだろうか。国体の時のような、強豪との対戦経験を積んだことによる自信か。果たして、青栁監督からはまったく違う言葉が出てきた。
「満足して終わらなかったことがプラスでした。選手たちは東海大四戦で負けて涙を流していた。この悔しさを持ちながら夏に向かえるのはプラスかと」

 実は、健大高崎には忘れられない過去がある。センバツ初出場となった2012年春。“機動破壊”のキャッチフレーズが初めて全国にお目見えし、チームもベスト4まで勝ち上がった。当然、夏の大会も優勝候補筆頭。だが、4回戦で伊勢崎清明にコールド負けを喫する(1対8)。


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[page_break:「もどかしい」勝利の連続]

高崎健康福祉大学高崎高等学校

「あの時はセンバツベスト4という結果で満足してしまいました。だから今回は、3期連続甲子園を狙いたいと最初から考えてやってきています」

 センバツ出場を決めた後の冬練習。2012年の時はセンバツで結果を残すために時間を費やした。しかし今回は、あくまで夏を見据えて練習を積んできたという。具体的には身体のサイズをアップさせるためのトレーニング、体力作り…。健大高崎と言えば「機動破壊」だ。しかし、ここに至るまでほとんど走塁の話が出てこない。

センバツでも走塁はまだまだでしたね。冬場も走塁練習はしましたが、練習試合ができない分、走塁面のレベルが格段に上がることはないんです。走塁はなにより実戦が大事ですので。冬場に身体を作って、春の大会が終わってから走塁練習を集中的にしていく。もちろんチーム内で走塁の意識は高いですけど、本当に徹底してやるのは5~6月になるでしょう」

「もどかしい」勝利の連続

高崎健康福祉大学高崎高等学校

 生粋の理論派、そして冷静で客観的な視点の持ち主である葛原 毅コーチは、昨年秋からセンバツまでのチームの結果をどう分析しているのか。

は全くといっていいほど形にはなっていませんでしたね。勝ちパターンというのがあるのと同様に、“これをやったら負ける”という負けパターンがあるじゃないですか。そのパターンにはまっているのに、やってはいけないことばかりやっているのに、負けない。そういう印象でした。勝てているから選手はやるべきことをやろうとしないと考えるのか、こんなにメチャクチャなのに勝てるというのは地力がついてきた証拠と考えるのか。どう考えたらよいものか」

一言で言えば「もどかしい」試合ばかりだったという。

 ここまでの話でわかったことが一つある。センバツベスト8という結果を残した健大高崎だが、“機動破壊”という点に限れば、その真価はほとんど発揮していなかったのだ。
 なんとも意識が高いというか、末恐ろしいというか…。

「選手たちは夏に対しては妥協しません、負けたら終わりですから。でも秋や春の時点では妥協する。自分を守りに入ってしまうんです。でもこちらとしては選手たちの魂が前面に出てくるまで我慢強くやっていくべきで。昨年のチームは春の大会で打ち負けて、そこから走塁を徹底的に磨いた結果、恐ろしいチームになりましたから(※詳細は前回の野球部訪問を参照)」

 選手たちにはもっと考え方から変えてほしい。でも、なまじ結果が出ているので変化のきっかけが訪れない。秋の群馬県大会を勝ち、関東大会でも勝ち、センバツでも勝ち…その結果、前年のチームにはあって今年のチームにはないものが露呈したのが東海大四戦だった。
(後編へ続く)

(文=伊藤 亮


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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