木更津総合高等学校(千葉)【後編】
春夏連続甲子園への「挑戦」
2014年の参加校は170校・ノーシードから勝ち抜くには8連勝が必要な激戦・千葉大会。しかも各校の実力が拮抗していることで、2000年からの15年間(2008年は第90回記念大会のため東千葉・西千葉大会分割開催)で出場したのは10校と分散している。
ただ、その中で実に4度の夏甲子園出場を果たしている学校がある。今回紹介する木更津総合だ。2003年夏、現在、木更津総合のコーチで、当時は4番打者として活躍した大島 吉雄氏を中心とした強力打線で夏初出場を果たしたあとは、2008年、2012年、2013年と甲子園出場。では、強さの源はどこにあるのか?
前編では、木更津総合が行っている取り組みについて紹介をしていったが、後編では、木更津総合の強さをもたらす選手たちのメンタリティ、さらにセンバツを踏まえ、夏を見据えてどんな準備を行っているかについて伺った。
「甲子園に行った先輩たちに続きたい」伝統
甲子園初出場と2回目出場を果たしたときのボール(木更津総合高等学校)
前編では初球打ちの推奨、夏場での追い込みランニング、故障の懸念を考えて砂場での走り込み、など先を考えて取り組みをしていることが解った木更津総合の練習。
ただ、裏を返せば木更津総合しかない組みをしているかというとそうでもない。では、こういった取り組みから夏の強さを生み出している理由はどこにあるのか?
「『俺らはあれほど苦しい練習に取り組んだのだから、夏は違うんだ、夏は変わるんだ』と、選手たちが自分自身に語りかけながら取り組んでいるように感じます」と語るのは、暁星国際時代から五島 卓道監督と長らくタッグを組んでいる青山 茂雄部長である。
そこで筆者は3年前のことを思い出した。当時の4番打者・高野 勇太(現:関東学院大3年)が春季大会でかなり当たっていたので、冬の取り組みについて話を聞いたことがある。その時、彼は具体的なメニュも教えてくれたが、一番印象的なのはこんな話だった。
「2008年の甲子園に行った先輩たちのDVDを見て気持ちを奮い立たせて、先輩たちに近づけるように、選手たちで話し合ってきました」
夏に強い木更津総合に、甲子園に行った先輩たちの存在は欠かせない。現に五島監督は、2003年に夏の甲子園初出場した選手たちには感謝の思いを今でも持っている。
「甲子園に行った選手たちは今の選手たちにとって大きなものを残してくれています。高野が憧れにした2008年世代も、2003年を目標にしながら取り組んできました。そういう意味で、2003年世代は切り拓いてもらった世代。感謝しています」
そしてその伝統は現在も。2013年夏、1年生からレギュラーを獲得した檜村 篤史(3年)は、当時の3年生についてこう話す。
「3年生の方は常に『甲子園に行かれた先輩たちはこうだった、でも自分たちはまだこれができていない』ということを常に話し合いながら取り組んでいたと思います。だから苦しい練習にも前向きに取り組めたと思います」
だからこそ今年のチームも2年前の先輩たちを思い出しながら取り組む。主将の大野 晃輝(3年)も最後の夏へ気持ちを高めている。
「甲子園にいった3年生たちは、非常に意識が高かった先輩が多かったと思います。監督さんからも3年生のことについては話してくれていますし、自分も周りを見渡して、チームとして何が足りないのかを練習の最後にミーティングで指摘しあいます」
夏に強くなる、夏で結果を残して歴史に名を残したい。そうなるためには、いろいろな方法論がある。だが最後は何かを成し遂げたい思いが選手たちを後押しをさせるのではないだろうか。
センバツ出場後でも抜擢された1年生
夏へ向けて体力強化を行う木更津総合
こうして2年ぶりの夏甲子園へ向けて進む木更津総合だが、今年は通常とは違う光景も見られている。この春は44年ぶり2度目のセンバツ出場。当然、3月21日に間に合わせるために実戦練習を増やしたことで、いつもとは違う冬を送った。
そしてセンバツを通じ見えてきた課題は打撃。2回戦の静岡戦では村木 文哉投手(3年)から14安打を放ったが、五島監督は厳しい評価を下していた。
「彼らからすれば予想以上の安打数。全体的にまだまだで、メンバーも何名か入れ替えないといけないと思っていました」
そして春季県大会・市立松戸戦(試合レポート)では1年の峯村 貴希が3番に抜擢された。峯村は佐倉リトルシニア時代、第8回ジャイアンツカップ優勝の原動力となった強打者。当時から、大柄な体格から打撃面で存在感を示している。
ただ、木更津総合はこの時期に良い1年生がいれば、どんどん競争に加えるのは伝統。振り返れば正遊撃手の檜村 篤史(3年)も、2年前に守備力の高さを見出され、チャンスをつかんだ1人。今後も打力が高い下級生が頭角を現せば、どんどん競争に交える予定だ。
方法論と気持ちを融合させ、初の春夏連続甲子園へ
校歌にも歌われる太田山の稜線も見えなくなってきた取材最後、青山部長が語った言葉が印象的だった。
「俺たちはこれだけやってきたんだという自信が試合の姿勢に現れてくるんですよね。これまで決勝戦は6度戦いましたが、緊張でアップアップになった様子は見たことがありません」
確かに。2季連続甲子園にいった試合を振り返っても2012年の柏日体戦は9対0で圧勝。先述の2013年・習志野戦も追う習志野に対して、冷静な試合運びで制した。その時の選手たちの姿は堂々としていた。決勝戦でも動じないメンタリティが木更津総合の最大の強み。そして、そのための方法論を木更津総合は持っている。
しかも強化ポイントもシンプルだ。昨秋は昨年8月に右サイドに転向してから急成長を果たした鈴木 健矢、昨秋1年生ながら公式戦防御率0.00と驚異的な防御率を残した早川 隆久という2枚看板がセンバツ出場の原動力に。投手力は例年より高く首脳陣も「失点を計算できる」と自信を持っているだけに、夏までは「打撃力強化」に絞り込める。
昨秋の千葉県大会のベスト8から、今春の千葉県大会のベスト8に入ったのは千葉敬愛のみ。よって木更津総合自身も2回戦で市立松戸に敗れノーシードからスタートになった現実も素直に受け入れられる。(注1)
「逆にチームを引き締める良い結果となりましたし、時間をかけてチーム作りができる」(五島監督)
21世紀に入って、千葉県勢最多となる4度の甲子園出場をさらに更新すべく、そして木更津総合初の春夏連続甲子園出場を目指して。方法論と気持ちの融合作業は、今日も内房の地で続いていく。
<注1> 千葉大会で与えられえるシード権(2回戦から出場)は春の県大会16強以上。4強以上がAシード(4校)、8強入りがBシード(4校)、16強入りがCシード(8校)とされる。
(取材・写真=河嶋 宗一)