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入学から20キロ以上スピードアップした153キロ右腕・加藤翼(帝京大可児)が覚醒した理由【後編】

2020.10.14

 今年の高校生右腕で、150キロを超え、かつ総合力も高いドラフト候補といえば、中森俊介明石商)、小林樹斗智辯和歌山)、高橋宏斗中京大中京)がいる。その3人に並ぶ速球投手として急浮上したのが、帝京大可児(岐阜)の加藤翼だ。

 加藤はいわゆる野球エリートではない。中学時代から実績が豊富でもなく、当時から中学生離れした速球を投げ込む逸材というわけではなかった。そんな加藤はいかにして最速153キロを投げられるまでになったのか。後編では、加藤の球速の変遷について取り上げていきたい。

入学から20キロ以上スピードアップした153キロ右腕・加藤翼(帝京大可児)が覚醒した理由【後編】 | 高校野球ドットコム前編はこちらから!
「プロは無理だと思っていた」建築家志望の中学生が153キロ右腕になるまで。加藤翼(帝京大可児)【前編】

入学から10キロ以上スピードアップ。そして想像以上の成長速度で153キロへ

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加藤翼(帝京大可児)

 今では最速153キロ。どの試合でも150キロを投げるまでに成長した加藤の入学当初は120キロ後半ぐらい。前編でも紹介したようにストレッチなどを考えて取り組んだ結果、少しずつ球速が上がっていった。1年秋から背番号「18」をつけて県大会でも登板。

 球速も半年間で、県大会で140キロも計測するようになる。

「それまでスピードガンがなくて、どれだけ出ているかわからなかったので、入学よりはストレートが走るようになったので、130キロ前半ぐらいかなと思ったら、140キロも出ていたので、右肩上がりに上がっているなと実感しました」

 まだこのときは現在のようなフォームではなく、横回転が強い荒削りな投球フォーム。現在にような縦回転が強い投球フォームにしたのは秋季県大会後だった。完成度の高い投球フォームにするまで時間はかかったが、グラブを突き上げる動作にしたことで横回転は収まった。加藤はフォームを変えた当時をこう振り返っている。

 「今は少し突き上げる程度でしたが、当時は横回転を抑えるためにもっと挙げていたと思います。それでも少しずつ感触はつかんでいました」

 このフォームでも勝負できると自信をつかんだのは東海大会終了の私学大会。中京学院中京(現・中京)との対決で、プロ志望の元謙太からストレートで三球三振を奪った。

 「特に元選手から三振を奪えたことは自分の直球に対して自信になりましたし、このフォームで行こうと思えるきっかけになりました」

 フォームを固めるために傾斜を使ったキャッチボール。体づくりにも着手。帝京大可児のグラウンドには一塁方向にウエイトルームがあるが、ここでみっちりとスクワット、ベンチプレスなどのメニューに取り組んできた。最初はかなり体は細かったと振り返る加藤。ただ恵まれていたのは肩の強さ、短距離走の速さ、跳躍力の高さ。細身であっても、ボールが速くなる要素を兼ね備えていた。

 体づくりとフォーム固め。故障を防ぐためのストレッチ。この3つをそうなるとみるみる球速も速くなり、2年秋には140キロ後半にも達した。
「想定より早かった」と語るように2年秋、同朋大とのオープン戦で最速150キロに達した。
「自分としては3年夏に150キロ行けばいいなと思っていたのですが、思った以上に速くなったなと思いました」

 自分の成長スピードの早さに驚きを感じつつも、今の投球スタイルのままではリスクが高くなると実感したそうだ。
「この3年間で学んだことは、出力が高まる分、肩、ひじへの故障も負担も高まっていく。そのためにはただ全力だけではなく、出力を抑えて、140キロ中盤で抑えて投げることも大事だと思いました」

 速球が注目されている加藤だが、変化球もよく、スライダー、カットボール、カーブ、チェンジアップの5球種を投げる。1学年下の主将で捕手の北岡来亜は「ストレートは指が離れた瞬間にあっという間に入っていく感じの剛速球で、スライダーも消える感覚で、一番良い変化球ですし、カーブも斜めに落ちていく軌道なので、これまでに見たことがないものでした」と語る。

 こうして剛速球以外の武器を身に着け、夏前の大垣日大との練習試合で153キロをマーク。着実に調子を上げていた。

[page_break:ストレートといったら加藤といわれる投手になりたい

ストレートといったら加藤といわれる投手になりたい

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加藤翼(帝京大可児)

 そして迎えた最後の夏、2回戦の武義戦で3回8奪三振の快投。ただこの試合で指にマメができてしまった。

 「自粛期間はシーズンと違って本格的に投げる機会もないので、出力も上がっていたので、指が耐えきれていなかったと思います」

 それ以降、ほとんど登板がなかった。けがをさせない、少しでも違和感があれば、無理をさせない。故障がない状態で次のステージへ送り出す。
 それが帝京大可児の方針だったからだ。

 そして夏二度目のマウンドは準々決勝の岐阜第一戦で訪れた。8回に登板した加藤。思うように投げられないところはあったが、9回はフルスロットルで投げ込んだ。2年生スラッガー・阪口樂にホームランを打たれてしまったが、最速153キロをマーク。持てる力は発揮した。

 そして夏、投げられなかった分、甲子園で開催された練習会に参加。しかし加藤の登板前に雷雨となり、室内練習場での登板となった。落ち込む自分を何とか抑えて、全力でボールを投げ込んだ。「楽しみにしていた登板だったですけど、雨が降っても切り替えることはできました」と振り返る。

 ドラフトが近づいた今、投げる量を抑えつつ、体づくりに取り組んで、体重も甲子園後から4キロ増量し、179センチ80キロまで増やした。

 加藤の歩みを振り返る計画性を持って練習をしていたのが、パフォーマンスアップにつながった。加藤は田中祐貴コーチの教えが大きかったという。

 「ユウキコーチは1から10まで教える方ではなかったので、1、2を教えても、そこから自分で考える重要性を教えてくれました。また帝京大可児も決して練習時間は長いチームではないので、短時間の中で効率よく質の良い練習をするには考えてやらないといけない思いになりました」

 

 加藤にとって帝京大可児の環境はかなり水に合ったのだろう。中学時代、プロ野球選手は厳しく、建築家を志望していたが、今ではドラフト雑誌、スポーツ紙の間では名前が上がるまでの投手へ成長した。そしてプロ入りが実現したとき、どんな投手になりたいのかを語ってもらった。

 「日本一のストレートを目標にしてやってきたので、プロの世界の入っても目標をぶらさずにやっていきたいです。
そして『ストレートといったら加藤』といわれるように、球界を代表する投手になりたいと思います。」

 

 現在は179センチ80キロまで大きくなったが、プロ入りする投手と比べたら特別大きいほうでもない。それでも人並外れた速球を投げることができたのは、高校生離れしたマインド、思考力があったからだろう。

 無名の153キロ右腕は、数年後に、プロ野球ファンをときめかせるような一流投手になれるか。その素質は十分にある。

(取材=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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