試合レポート

神村学園vs鹿児島実

2012.07.29

ジンクスに挑んだ夏

夏の鹿児島大会には興味深い「ジンクス」がある。
第1シード校が甲子園に行けていない。

さかのぼると2002年に樟南が行って以来、この10年間、優勝候補の筆頭は涙をのみ続けた。
昨夏、今年の神村学園と同じく秋春の九州大会を連覇して、全国でも相当なところに勝ち上がれると目されていた鹿児島実が、準決勝で薩摩中央に敗れたことに象徴されるように、「強いチーム」といえども、一発勝負の夏を制することの難しさを教えてくれる。

「強いチームが勝つんじゃない。勝ったチームが強いんだ」
神村学園・山本常夫監督は常々言い続けていた。今大会は「挑まれる側」のもろさが序盤出たが、それらを乗り越え、決勝戦は最高の勝ち方で「ジンクス」を打ち破ることができた。

5点を先取した初回の攻撃に、この1年間磨き上げた神村野球の真骨頂があった。
先頭打者の新納真哉(3年)が、詰まりながらもサードの頭を超えるヒットで出塁する。当たりは良くなかったが「塁に出ることだけを考えていた」新納にとっては「100点満点の出来」に塁上で笑みがこぼれた。今大会不振だったリードオフマンが打ったことで、ベンチのムードは早くも最高潮になる。

2番田中貢大(3年)は「真哉が打ったことで、気持ちが乗った」。2球目のバスターエンドランは「低めのボール球だったけど、身体が勝手に反応して」ライト前ヒットに。
一死満塁となって5番瀬口拓也(3年)の当たりはセカンドゴロだったが、ボールは前進守備でバウンドを合わせそこなった二塁手のグラブに収まらず、一、二塁間で転々とする間に、新納と田中の2人が生還して先制点を挙げた。この回、中園史剛(3年)、中野大介(3年)の下位打線にもタイムリーが出て、打者一巡、4安打で5点を取った。「足を絡めて少ない安打で点をとる」(山本監督)野球が序盤でできたことで、ナインの気持ちは大いに乗った。


序盤で主導権は握ったが、山本監督は「野球は最後まで何が起こるか分からない」と、攻守にわたって野球を緩めなかった。
ましてや相手は伝統校・鹿児島実。「接戦で勝ち上がってきたチームだから序盤で突き放したかった」と中園は4安打5打点と気を吐いた。

エース柿澤貴裕(3年)、二番手・平藪樹一郎(3年)とも鹿実打線から11安打されたが3失点で切り抜けている。
これも「打たれて抑える」(山本監督)神村らしい野球だった。

とどめの一撃は4番柿澤がライトスタンドへライナーで飛び込むソロアーチ。
9回のマウンドに再び柿澤を送ったのは「この夏、一番高いところに立つのにふさわしい男」に華を持たせたい指揮官の粋な演出だった。

9回表、柿澤が、渾身の直球で最後の打者を空振り三振に打ち取ると、柿澤を中心にした歓喜の輪ができた。

山本監督が「集大成の大会」と話す中で、弥栄翼主将は「最高の締めくくりができた」ナインの想いを代弁した。
県内無敗、2季連続九州覇者、第1シード…
様々な“負けられないプレッシャー”の戦いがあったが、弥栄主将は「ベンチ入りの20人は天狗にならず、自分らがやってやろうという気持ちを持っている。良い意味のプレッシャーに変えられた」と胸を張る。

豊富な練習量をこなしたことはもちろんだが、中園は「布団をたたむとか、掃除をするとか、日常生活面からぶれずにやってきた」ことがこのプレッシャーをはねのける原動力になったと考えている。名実ともに王者にふさわしいチームが夏の鹿児島の頂点に立った。

(文=政純一郎)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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